第19話 古代遺跡を発見してみた。
冒頭、ちょっとだけアイリス視点です。
「うぅ……昨日のあたしを消し飛ばしたい……」
朝、家のベッドであたしことアイリスノート・ファフニルは頭を抱えていた。
原因は昨夜のことだ。
お酒の力を借りてコウに話しかけたものの、酔いが回ってしまったせいで、まあなんというか大失敗してしまった。
ただのほめ言葉をプロポーズと勘違いしたり。
勘違いが恥ずかしくて、照れ隠しにワインを一気に飲み干したら、あやうく吐きそうになったり。
コウが解毒ポーションを分けてくれなかったら、たぶん、床にドラゴンブレス(婉曲表現)していただろう。
「ほんと、もう、死にたい……」
枕に顔をうずめて、ベッドの上をゴロゴロする。
はぁ……。
これ、もう絶対に女の子として扱ってもらえないパターンよね……。
いや、別にいいんだけど。
ルビーみたいな眼、って言ってくれたのは嬉しいけれど、それだけで恋に落ちるほどチョロくない……つもり。
ただ、酔って倒れかけたとき、あたしの身体を受け止めてくれたコウの腕の温度は、いまもふとしたときに思い出してしまう。
「はぁ……」
なぜか、ため息が零れる。
コウ・コウサカ。
彼という男性の持つ、不思議な雰囲気は、ちょっと気になる。
山奥から出てきたというけれど、なんだか、もっと遠いところからやってきたような……。
「って、もうこんな時間! 待ち合わせが10時だから……急がないと!」
あたしはベッドから飛び起きる。
コウを待たせるのも悪いし、待ち合わせの30分前には城門に行くつもりだった。
* *
俺が城門に向かうと、待ち合わせの15分前にもかかわらず、アイリスの姿があった。
朝日に照らされた赤髪がキラキラと輝いてまぶしい。
道行く人々のなかには、そんなアイリスの姿に見惚れる者もいる。
「悪い、待たせたか」
「ううん、いま来たところ」
俺が声をかけると、アイリスは穏やかな調子で答えた。
昨日の酒はきっちり解毒されたらしく、顔色もいい。
「コウ、その服、昨日の夜とは違うわよね」
「新調したんだ。よく分かったな」
「そりゃもう、アイテムを見る目は鍛えてるもの」
アイリスは誇らしげに言って、真紅の瞳を俺のスーツに向ける。
「何の生地を使ってるのかしら。とんでもないお宝なのは分かるんだけど……」
「フェンリルだ」
「……はい?」
「まあ、いろいろとあってな。フェンリルの素材が手に入ったから、服を作ってみた」
「…………はっ、ごめんなさい。あたし、まだ寝てるみたい。フェンリルがどうのこうのって聞こえたけど、たぶん夢よね」
「いや、夢じゃないぞ。……フェンリルって、そんなに珍しいのか」
「珍しいのか、じゃないわよ! 神話級よ、神話級! いったいどうやってそんな素材を手に入れたのよ……」
それは企業秘密だな。
アイリスの人柄はなんとなく分かってきたが、全面的に信頼するには時間が必要だ。
メシの種を明かすには付き合いがあまりに浅すぎる。
「ねえ、コウ。たぶんその服って、ものすごく性能も高いわよね……」
「物理遮断に魔法遮断、あと、神速の加護ってのもついてるな」
「あたし、護衛する必要ってある……? 昨日は酔った勢いで引き受けちゃったけど、要らない子のような……」
「いや、世の中なにがあるか分からないからな。それに、Aランクってことは、修羅場もいろいろ潜っているんだろう? 俺はまだ駆け出しの冒険者だし、熟練者と一緒に行動してその技術や経験を学ぶのは重要なことだ」
「ずいぶん謙虚なのね、貴方って」
「慎重なだけだ」
というか、慎重であろうと心掛けている。
根本的な部分ではおっちょこちょいの自覚があるので、意識が行き届く範囲では堅実でありたい。
……それがうまくいかないから、困ってるんだけどな。
「まあ、いいわ。じゃあ先輩として新人くんに耳寄りな情報を教えてあげる」
「なんだ?」
「実はこのオーネンの近くには、超古代の遺跡がある、ってウワサなの。まだ誰も見つけてないけど、発見したら、それこそ歴史に名が残るかもしれないわね。もしよかったら探してみるといいわ」
「分かった」
俺は【オートマッピング】を発動させ、脳内でオーネン周囲の地図を眺める。
そういえばコレ、ただの地形図じゃなくって、地名とかもきっちり書いてくれてるんだよな。
なかなか親切な地図だと思う。
……あれ?
ちょっと待て。
俺はとんでもないものを発見してしまったかもしれない。
「アイリス、ちょっといいか?」
俺は真剣な表情でアイリスに話しかける。
「な、なによ? うぅ、急にマジメな顔するから、ドキッとしたじゃない……。昨日のこと、やっと忘れそうだったのに……」
「昨日のアルコールがぶり返してきたのかもしれないな。あとで解毒ポーションを渡す。それよりも聞いてくれ」
「えっ、ちょ、さすがに塩対応すぎない!?」
アイリスのツッコミを無視して俺は続ける。
「古代遺跡の場所が分かった」
なぜなら、地図にはっきりと地名が書いてある。
『ロゼの森の地下遺跡』と。
ちなみにロゼの森というのは、昨日、ハチの巣を取りにいった場所だ。
「えええええええええええええええっ!? ちょ、ちょっと待ってよコウ! 古代遺跡の場所って、ヒントになる歌とかいろいろあって、王都の学者さんとかがめちゃくちゃ頭を悩ませてるんだけど……」
そんなことを言われても、分かってしまったものは仕方ない。
【オートマッピング】は素材情報も教えてくれるのだが、古代遺跡では鉱物系の素材が取れるらしい。
せっかくだから行ってみようか。
ヒキノの木剣や木槍も強いが、鉄製の武器なんかも作ってみたいしな。
* *
俺とアイリスはロゼの森へと向かった。
「そういえばこの森って、魔物がほとんどいないんだよな」
「ええ、古代遺跡のおかげらしいわよ」
森を奥へと進みながら、アイリスが答える。
「魔素を浄化して、魔物の発生を防いでるんですって」
「魔物の発生? 魔物って、親から生まれてくるものじゃないのか?」
たとえばロンリーウルフには雄と雌がいて、発情期になると子供を作る。
魔物というのも、普通の動物と同じように生殖行動で数を増やしているのではないのだろうか?
「魔物は子供を作るけど、自然発生もするのよ。詳しく言うと――」
アイリスの説明によると、魔素という物質が濃い場所では魔物がポコポコと自然発生するらしい。
魔素によって自然発生するのが魔物、生殖行動だけで増えるのが動物、というふうに区別されているんだとか。
そんな話をしていると、やがて森は終わり、切り立った崖の下に辿り着いた。
地図によると、ここに古代遺跡の入り口があるらしい。
「どこかに隠し扉があるのかしら? ちょっと探してみるわね」
アイリスは右手でコンコン、と岩壁を叩いていく。
壁の薄い場所を探しているのだろう。
もっと楽な方法はないだろうか。
たとえば【匠の神眼】で見抜いたりとか……って、んん?
岩壁のなかに、なぜか、素材として採集できる部分があった。
ちょうど扉のような形をしている。
「えっと……採集すればいいか」
岩壁に偽装した扉に触れて、アイテムボックスに回収する。
その向こうには、奥へと続く通路が隠されていた。
「アイリス、これって遺跡の入り口だよな……」
「う、うん……。あっさり見つけすぎじゃない……? コウ、あなた、いったい何者なの……?」
「ただのFランク冒険者だよ」
「これがFランクの平均値だったら、世界は冒険者に支配されてるわ……」
そんなことを言われても困る。
さて、あまりにもあっさりと古代遺跡を見つけてしまったわけだが、どうしようか。
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