第1話 はじめての【創造】を試してみた。
【匠の神眼】によると、まわりの木々は【創造】に使えるようだ。
すぐ近くの樹木に触れて【アイテムボックス】を発動させた。
パッと木が消え去り、葉っぱがハラハラと地面に落ちる。
「まるで手品だな」
新たにもう1つ、半透明のウィンドウが現れる。
それはアイテムボックスの中身を示したもので、白い枠がいくつも並んでいた。
いちばん左上の枠には、いま収納した木が表示されている。
名前は「ヒキノの木」というらしい。
……ヒノキじゃないのか、微妙に紛らわしいな。
【自動解体】を発動させると、半秒ほどの間をおいて、木材の束へと変換された。
『ヒキノ材×5
説明:ヒキノの木を丁寧に切り出したもの。弾力性に富み、建築材として最適』
丸太を切り出して材木にするのはそこそこの手間と時間がかかる、という話を聞いたことがある。
だが【自動解体】はそれを一瞬で済ませてしまった。
使いようによってはこのスキルだけでも大儲けができそうだな。
さて、それじゃあ今回のメインイベント……【創造】にいこう。
そう考えた矢先、ピロンッ♪ という軽快な音とともに新たなウィンドウが浮かび上がる。
そこには【創造】で作成可能なアイテムのレシピが表示されていた。
あいにくレシピはたった1つだけだったが、おそらく、他の素材を集めたり、スキルランクを上げれば増えていくのだろう。
『ヒキノ材×1 → ヒキノの棒×2』
ひのきのぼう……じゃなかった、ヒキノの棒か。
どうでもいいけど、ひのきのぼうって、初代ドラク○には出てこなかったんだよな。
初登場はドラ○エⅡだったりする。
……どうでもいい豆知識はさておき、さっそく試してみよう。
ヒキノ材5本をまとめて、ヒキノの棒に変換する。
「【創造】!」
わざわざ声を出す必要はないのだが、つい、気合を込めて叫んでいた。
もしかすると俺はテンションが上がっているのかもしれない。
学生のころは錬金術師がアトリエで錬金術をする系のRPGにハマっていたし、それと同じことができるとなれば、俺みたいな枯れたオッサンでも心に潤いを取り戻すものだ。たぶん。
アイテムボックスを確認すると、ヒキノ材5本は消えていた。
代わりに、ヒキノの棒10本が追加されている。
その直後、またしてもメッセージウィンドウが現れた。
『【創造】がランク2に上がりました。レシピが増加します』
おいおい、これだけのことでスキルランクが上がるのか?
あまりに簡単な気もするが、おそらく、ランクがまだ低いせいだろう。
それにしても。
さっきから色々なウィンドウを開いたり閉じたりしているが、さすがにちょっと鬱陶しくなってきた。
もう少しなんとかならないものだろうか……と思っていたら、今度は、頭のなかに声が響いた。
『ウィンドウモードからイメージモードに切り替えます』
イメージモードとはなんだろう?
俺が首を傾げていると、それまで開いていたウィンドウが一斉に消滅した。
代わりに、同じものが脳内に浮かぶ。
なんだか不思議な感覚だが、視界が遮られないぶん、こっちのほうが便利かもしれない。
操作方法はこれまでと同じく、念じるだけでOKだった。
「【創造】のランクも上がったことだし、レシピ、増えてないかな」
頭のなかに出てきたのは、ヒキノの棒を使った武器のレシピだった。
『ヒキノの棒×1 → ヒキノの木槍×1』
さっそく実行してみる。
『ヒキノの木槍
説明:熟練の木工師によって削り出された鋭い木槍。その貫通力は金属製の槍に迫る
付与効果:《投擲クリティカルA+》《命中補正S+》』
なんだか強そうな武器を生み出してしまった。
付与効果から考えるに、投げ槍として使うのが正しそうだ。
「ちょっと試しておくか」
ヒキノの木槍をアイテムボックスから取り出す。
29年の人生において武器らしい武器を持つのは初体験だったが、まるで手足のように扱うことができた。
おそらく【器用の極意】を持っているおかげだろう。
「はぁっ!」
狙いを定めて木槍を投げると、やや離れたところにある大きな岩に直撃した。
いかにも硬そうな岩石だが、木槍はそれを貫通し、先端は岩の反対側に突き出ていた。
「……木で岩を貫くって、おかしくないか?」
理由を考えるに、《投擲クリティカルA+》が付与されているためだろう。
物理的に考えると変な話だが、そもそもここは異世界だ。
地球と同じ物理法則が適用されてるとは限らない。
頭を切り替えていかないとな。
どうやらヒキノの木槍はかなり強力な武器らしい。
これならば魔物に出くわしても大丈夫だろう。
まだこの世界のことはよく分からないが、RPGっぽいステータスやスキルが存在するのだから、RPGっぽい魔物がいてもおかしくない。
まあ、魔物がいるにしても、できれば出会わずに済む方向でお願いしたいところだ。
……言っておくが、「押すなよ! 絶対押すなよ!」的なフリじゃないからな。