第18話 フェンリル生地のスーツを作ってみた。
アイリスを宿まで送っていったあと、俺は『静かな月亭』に戻った。
時刻は22時だ。
寝るにはまだ早いし、やりたいことがあった。
そう、本日の【創造】タイムである。
今回の議題は、ロンリーウルフから得た「雄孤狼の毛皮」をどう使うか、だ。
「毛皮だけで5000個を超えてるんだよなぁ……」
ロンリーウルフ1体から得られる毛皮は5枚だった。
今日は1024体も討伐したので、1024×5=5120枚を手に入れたわけだ。
城門のところで女の子たちを助けたとき、服があまりにビリビリだったので「雄孤狼のマント」を作ったのだが、その消費は80枚だった。
残りは5040枚となっている。
まだまだ在庫は多いが、あいにく雄孤狼の毛皮から【創造】できるのはマントだけだ。
「このままマントばっかり量産するのも退屈だよな」
だったらどうするのか?
実のところ、俺には試してみたいことがある。
さっきマントを作ったとき【創造】がランク7に上がっており、新たなサブスキルが追加されていた。
その名は【素材錬成】、素材どうしを掛け合わせることでより上位の素材を生み出せる、というものだ。
素材は同じものを複数揃える必要がある。
とはいえ、雄孤狼の毛皮は5040枚もあるので、バンバン気前よく使っていこう。
「よし、やるか」
脳内で【素材錬成】を念じるとレシピが浮かぶ。
『雄孤狼の毛皮×100 → フェンリルの毛皮×1』
どうして漢字からカタカナになってるんだ?
それはともかくとして、フェンリルか。
RPGじゃよく聞く名前だが、もともとは北欧神話に出てくる狼の怪物なんだっけ。
雄孤狼の毛皮を100枚も消費するだけあって、なにやらすごい素材の予感がするぞ。
ひとまず雄孤狼の毛皮は1040枚だけ残して、4000枚を【素材錬成】する。
これでフェンリルの毛皮が40枚も手に入った。
【鑑定】してみると、こんな説明文が頭に浮かぶ。
『フェンリルの毛皮×1
説明:神話級魔物フェンリルの身体から取れた毛皮。
手触りは極上のやわらかさだが、物理防御・魔法防御ともにきわめて高い。
そのうえ、着用者には神速の加護が与えられるだろう』
神話級ってなんだ、神話級って。
どうやら本当に、とんでもない素材を手に入れてしまったらしい。
そして【素材錬成】を行っても、【創造】の経験値になるようだ。
【創造】から派生したサブスキルなので当然といえば当然かもしれない。
頭のなかに声が響く。
『【創造】のランクが8になりました。
【創造】スキル内サブスキルの取得条件を満たしました。【アイテム複製】が解放されます』
【アイテム複製】か。
効果としては、アイテムボックス内のアイテムをどれでも1つ複製できるようだ。
うん、これ、ものすごくチートじゃないか?
たとえば「世界に1本しかない伝説の剣」を手に入れたら、それを2本も3本も増やせてしまうわけだしな。
俺の存在がアイテム増殖バグ。
1回使うごとに6時間のクールタイムが必要らしいが、アイテムを増やせるというメリットのほうが圧倒的に大きい。
まずは1度、試しに使ってみよう。
どうせこのあと寝て起きたら、クールタイムも終わっているしな。
そういう意味じゃ、【アイテム複製】を使わないともったいない。
俺はいろいろと考えて、自分のスーツを複製しておくことにした。
というのも、実はこのスーツとフェンリルの毛皮を素材にして【創造】が可能だからだ。
『普通のスーツ×1 + フェンリルの毛皮×10 = スーツ(フェンリル生地)×1』
フェンリル生地のスーツ。
これ、ものすごく気にならないか?
俺は気になる。
現代日本とファンタジー世界、まさかのコラボアイテムだしな。
たぶん防御性能もかなり高めだろうし、冒険に着ていけるとしたらありがたい。
さっそく【創造】してみよう。
『スーツ(フェンリル生地)
説明:フェンリルの生地を贅沢に使った最高級のスーツ。
その手触りはまさに極上である。
超高度の物理耐性・魔法耐性を誇り、着用者はフェンリルのごとき神速を得る。
ビジネスにも戦いにも最適な大人の逸品。
付与効果:《手触りS+》《物理ダメージ遮断A》《魔法ダメージ遮断A》《神速の加護S》《狼たちの王EX》』
……おいおい、これ、ものすごく優秀な防具じゃないか?
《手触りS+》はともかくとして、《物理ダメージ遮断A》《魔法ダメージ遮断A》が心強い。
《神速の加護S》は任意で発動させるタイプで、着用者の魔力を使うかわりに超高速の移動が可能なようだ。
極めつけは《狼たちの王EX》。
その効果は「狼と、狼に類するものを従える」というものだ。
今後、ロンリーウルフの群れに出くわしたら、それがそのまま俺の戦力になってくれるかもしれない。
* *
翌朝、フェンリル生地のスーツを着て部屋を出た。
宿のロビーに降りると、チェックアウトを待つ宿泊客たちの姿がチラホラと見られた。
みんな、いかにもセレブ、といった服装をしている。
当たり前だよな。
そもそもこの『静かな月亭』じたい、かなりの高級宿なわけだし。
……ん?
なんか、俺、見られてる?
「ねえ、あの服、素敵じゃない?」
「珍しいデザインだけど、シンプルでいいね」
「あれはかなり高級な生地を使ってますわね。ちょっと触ってみたいわ」
「社交界じゃ見たことない顔だね。どこかの国のお貴族様がお忍びで来てるのかな?」
「王族かもしれないわよ」
なんだかセレブたちからやたらと過大評価されてる件について。
すみません俺はただの社畜です。
照れくさかったので、俺は足早に外へと向かった。
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