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第16話 赤髪のきれいな女性に声をかけられた。


 クロムさんが予約しておいてくれた宿は『静かな月亭』という名前で、閑静な住宅街の近くにあった。

 建物は4階建てで大きく、上品そうな雰囲気を漂わせている。

 

 明らかに、冒険者向けの宿じゃないな。

 貴族とか大商人とか、そういう富裕層をターゲットにしているのだろう。


 スーツ姿のまま『静かな月亭』に入る。

 ロビーの雰囲気は、現代の高級ホテルさながらだった。

 フロントでクロムさんからの紹介状を出すと、すでに話は通っているらしく、4階の部屋へと案内された。

 最上階、しかもスイートルームだった。

 寝室だけじゃなく、リビングに応接間、個室のバスルームまで付いていた。

 

「これ、日本の俺の部屋より広いよな……」


 壁が薄いことで有名な某パレスに暮らしていた身としては、あまりの贅沢さにショック死しそうだった。

 滞在費はすでにクロムさんのほうから1ヶ月ぶん支払われているらしい。

 しばらく宿の心配をしなくていいのはありがたいが、そのあと、普通の生活になじめるだろうか。

 


 * *



『静かな月亭』にはレストランも併設されていたが、あまりにも高級感が漂い過ぎていたので足を踏み入れづらかった。

 値段的にはふつうに払えるんだが、食事はもっと気楽な場所で食べたい。

  

 そういうわけで宿を出て、繁華街のほうへ向かう。

 昼と同じく『金の子熊』亭で食べることにした。


「……夜も夜で大盛況だな」


 広めの店内は、やはり、9割近く埋まっていた。

 まあ、当然だな。

 安くて美味くて量もあるのだから、人気店にならないわけがない。


 俺はテーブルに案内されると、店主オススメの『トゥーエ牛の煮込みシチュー(やわらかパン付き)』を注文した。

 トゥーエというのは街の名前で、ここから西に向かった先にあるようだ。


 店は混雑していたが、料理はわりとすぐに運ばれてきた。

 結論から言えば、今回も“当たり”だった。

 とろとろの牛肉は噛むのが心地よく、甘めのビーフシチューが旨味を引き立てている。

 牛肉のほかにもニンジンやブロッコリーが入っていて、いずれも柔らかく仕上がっていた。

 最後は残ったビーフシチューを、パンで掬ってもぐもぐ。

 うん、うまい!


 お値段は1500コムサ、日本円で1000円くらい。

 なかなかにリーズナブルだ。

 大満足で一息ついていると、隣のテーブルにいた赤髪の女性から声を掛けられた。


「人違いだったら申し訳ないのだけど、あなた、もしかして《熊殺し》?」


 年齢はたぶん20代前半くらい、なかなかの美人だ。

 両眼はきれいな真紅で、パッチリと開かれている。

 とくに目を引くのは大きな胸……だけではなく、長い赤髪のなかからピンと後ろに伸びた細いツノだ。

 たとえるなら、ドラゴンの両耳あたりに生えているツノに近い。

 

 俺のファンタジー知識に当てはめるなら、竜人、という言葉が頭をよぎる。

 オーネンの街ではエルフやドワーフ、獣人など“定番”の異種族を目にすることも多かったが、竜人は初めてだ。


 女性は腰に短剣を下げている。

 冒険者か傭兵なのだろう。


「ああ。俺が《熊殺し》だ。よく分かったな」

「あたし、人の顔を覚えるのは得意なの。クマの格好はどうしたの?」

「食事時にいろいろ騒がれたくないからな。メシはゆっくり食べたい」

「分かるわ。あたしもこの街に来た当初は、竜人の冒険者が珍しいのか周囲がうるさかったもの」


 やはり種族は竜人で間違いないらしい。

 とはいえ竜らしい特徴は両耳の上のツノくらいで、尻尾や鱗は見当たらなかった。


「ああ、自己紹介がまだだったわね。あたしはアイリスノート・ファフニル、アイリスでいいわ。Aランクの冒険者よ」

「俺はコウ・コウサカだ。コウと呼んでくれ。Fランクの駆け出し冒険者をやっている」

「あなたの実力なら、すぐにAランクまで届きそうだけどね」

「どうだろうな」


 俺としては、べつに冒険者としての成り上がりを目指してるわけじゃない。

 いちばんの関心事は、【創造】でどんなアイテムが作れるのか、だしな。

 冒険者ギルドに所属しているのは、ギルドカードという身分証明書がほしいからだ。


「コウ、ひとつ訊いてもいい?」

「何だ?」

「あなたが使ってたヒールポーション、まるで神話のエリクサーみたいな効きっぷりだったけど、どこで手に入れたの?」


 どうやらアイリスは、城門のところでの騒動を見ていたらしい。

 ヒールポーションに興味を持って話しかけてきた、というわけか。


「どこで手に入れたと言われてもな……。別に、どこかで買ったわけじゃないんだ」

「誰かに譲ってもらったとか? それとも古代遺跡か何かで見つけたの?」

「いや、自分で作ったんだ」

「作った……?」


 俺の回答がよほど予想外だったのか、アイリスは眼を丸くした。


「冒険者としてもケタ外れに強いのに、そのうえ凄腕の薬師だなんて。とんでもない才能のカタマリね……」


お読みいただきありがとうございます!

本話と次話はもともと1つですが、書いていたら長くなったので2分割しました。


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