第15話 冒険者ギルドで報告してみた。
結論から言うと、ピンク髪の子も無事に助けることができた。
痛々しい傷はすべて消え去り、破けた衣服のスキマから覗く柔肌は、白くなめらかで瑞々しい。
……俺は【創造】を発動させて「雄孤狼の毛皮」から「雄孤狼のマント」を作ると、二人の身体にそれぞれ掛けてやった。
若い女の子が公衆の面前でずっと素肌を晒したままなんて、さすがに可哀想だしな。
ふう。
とりあえず、これで一件落着、かな。
心地よい疲労感に浸りながら、野次馬たちの話に耳を傾ける。
「あの兄ちゃん、すげえな。2人とも助けちまったぜ……」
「カレ、なかなか紳士ね。うんうん、肌を隠してあげるのは大事だわ」
「……なあ、あいつ、《熊殺し》じゃねえか?」
「《熊殺し》は熊の格好をしてるんだろ? あの兄ちゃんは普通の服を着てるぜ」
「いや、間違いなく《熊殺し》だ。黒眼で黒髪のやつなんて、この街じゃアイツしかいない」
野次馬たちは、俺がウワサの《熊殺し》ということに気付き始めたようだ。
それは別に構わないんだが、黒眼黒髪って、もしかしてこの世界じゃ珍しいんだろうか?
またひとつ、チェックすべき常識が増えたな。
そんなことを考えていると、街の中から冒険者ギルドの職員たちがやってきた。
おそらく、誰かがギルドまで連絡してくれたのだろう。
助かった。
女の子2人をここから運ぶだけの気力は残っていないからな。
ギルド職員たちは担架を持っており、手際よく女の子たちを運んでゆく。
彼らのリーダーを果たしていたのは教官のギーセさんだった。
俺の登録試験を担当してくれた人だ。
「やあ、コウくんじゃないか。普通の格好をしてるから誰かと思ったよ。キミが2人を助けてくれたのかい?」
「ええ。放っておけなかったので、つい」
「ははっ、物騒な二つ名のわりに優しいんだね。とりあえず、ギルドで詳しい話を聞かせてもらえるかな」
「勿論です。俺のほうも報告したいことがありますし」
何を報告するかといえば、もちろん、ロンリーウルフの群れについてだ。
* *
冒険者ギルドに到着すると、女の子2人はそのまま医務室に運ばれていった。
俺は応接室に通され、あの子たちを助けるまでの経緯をギーセさんに説明することになった。
「……なるほど。コウくんが城門を通ろうとしたところで、2人がやってきたわけだね」
「ええ、その通りです」
俺はギーセさんの言葉にうなずいた。
「あの子たち、いったい何があったんでしょうか?」
「彼女らは午後から採集クエストを受けていた。北の山でなにかが起こったんだろうね」
北の山だって?
つまり、彼女たちも俺と同じエリアにいたわけだ。
「ギーセさん、もしかすると彼女らはロンリーウルフの群れに襲われたのかもしれません」
「ロンリーウルフの群れ? コウくん、少し待ってくれ。それは変じゃないか? 群れないからこその“ロンリー”ウルフなんだぞ」
「でも、実際に遭遇したんです。そうだ、ギルドカードに討伐履歴があるから見てください。俺が嘘を言ってないことの証明になると思います」
「分かった。ちょっと魔導具を持ってくるから待っててくれ」
そう言ってギーセさんは席を立ち、応接室を出ていく。
ほどなくして銀色の箱を抱えて戻ってきた。
「コウくん、ギルドカードを借りてもいいか?」
「どうぞ」
ギルドカードを手渡すと、ギーセさんは箱の側面にある溝に通した。
すると「ヴヴンッ」という音とともに、半透明のウィンドウが宙に浮かんだ。
いったいどんなテクノロジーが使われているのだろう。
すごいな、魔道具。
「今日の討伐履歴は……って、どうなってるんだ!? 『ロンリーウルフ(オス)×1024匹』だと……」
「信じてくれましたか?」
「討伐履歴にしっかり記録されてるんだから、いまさら疑ったりはしないよ。ただ、はっきり言って何もかもが異常だね。ロンリーウルフが1000匹以上も集まるのも、その大群を全滅させてしまうキミの実力もね」
「俺はただの木工職人ですよ」
「ははっ、木工職人がみんなキミみたいに強かったら、いまごろ世界は木工職人のものになってるよ」
ギーセさんは冗談めかした笑い声を漏らした。
「ともあれ、報告ありがとう。この話はきっちりとギルドのスタッフで共有して、対応策を取らせてもらう。……これは元冒険者としての経験だけれど、何かとんでもない魔物が出てくる前ってのは、妙なことがよく起こるものなんだ」
まあ、RPGなんかじゃ定番の展開だよな。
小規模の異変がいくつか続いたあと、ボスキャラの封印が解けたりするやつ。
「コウくん、もし他にも気付いたことがあったら、いつでも報告してくれ。冒険者ギルドは一日中開いているからね。建物の裏に夜間窓口があるから、後でチェックしておくといい」
冒険者ギルド、24時間営業なのか。
おそらく傭兵ギルドとシェア争いをするうちに、どんどんサービスを拡大していくことになったのだろう。大変な仕事だな……。
ギーセさんへの報告を終え、応接室を出る。
ここは冒険者ギルドの2階だ。
本来ならスタッフだけが立ち入りできる区域で、廊下の左右には「資料室」や「会計室」などが並んでいる。
一階への階段を降り、ロビーに出る。
壁掛け時計はすでに夜の7時を回っていた。
夕食時だけあってか、冒険者たちの姿はない。
「とりあえず、宿に行くかな」
さすがに2日連続でクロムさんの屋敷に泊まるのも申し訳ないので、今夜は宿を取ることにしていた。
まあ、その宿も紹介してもらったというか、スカーレット商会の傘下にあるそうなので、お世話になりまくってるのは変わらない。ありがたい話だ。
すでに部屋は押さえてあって、食事は朝のみになっている。
俺が冒険者ギルドから出ようとしたときだった。
「コウさんっ!」
呼びかけに振り向けば、ミリアさんがタタタッと駆け寄ってくる。
その顔には、不安の色がありありと浮かんでいた。
「ギーセさんから聞いたんですけど、コウさんがロンリーウルフの群れに襲われたって……! だ、大丈夫ですか!? 怪我とかはないですか!?」
ミリアさんは俺の手を取り、前かがみになって不安げな顔つきで問いかけてくる。
こんな親身になってくれるなんて、ほんとうにいい人だ。
「大丈夫だ。見てのとおり傷はない」
「よかった……! 無理してませんよね? フラッとどこかで死んじゃったりしませんよね?」
「ピンピンしてるよ。ありがとう、ミリアさんに心配してもらえるなんて、俺はすごい幸せ者だな」
こんなふうに誰かから気遣われるのは久しぶりだ。
ブラック企業にいたころは、みんな切羽詰まってたからな……。
ついつい、笑みがこぼれる。
「~~~っ! こ、コウさん、その服で、その表情は、卑怯ですっ……!」
なぜかミリアさんは顔を赤くして俯いてしまう。
「わ、私、私、今日はこのまま夜勤なので失礼しますね。ではではっ!」
「お、おう。お疲れ、さま……?」
戸惑う俺をよそに、ミリアさんはくるりと回れ右をすると、ぴゅー、とギルドの奥へ引っ込んでしまう。
ええと。
とりあえず、宿に行くか……!
なかなかランクの高いところらしいし、今から楽しみだ。
いつもお読みいただきありがとうございます。
今日は日曜日ですし、あと1回くらいは更新したい……!
(本来はこの話を夜の更新にするつもりでしたが、ランキングに載って元気が出たので、もうちょっと頑張ろうかな、と!)
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