第9話 冒険者ギルドについて説明を受けてみた。
試験を終えた俺は、ふたたびギルドの窓口まで戻ってきた。
受付嬢のミリアさんはニコニコ顔で銀色のカードを手渡してくる。
「合格おめでとうございます! こちらがギルドカードです。名前や性別にミスがないか見ておいてくださいね」
「ありがとう。……大丈夫だ」
ギルドカードには『コウ・コウサカ 29歳 男性 人族』と刻印されていた。
冒険者ランクは一番下のF。
駆け出しの新人だから当然だな。
「それにしてもコウさん、まさかギーセさんを一発で倒しちゃうなんてビックリですよ。本当にお強いんですね!」
「いや、ス……」キルが強いだけで俺自身はザコだよ、と言いかけて思いとどまる。
ここで変に卑下するのは、俺と戦ってくれた試験官のギーセさんにも失礼だ。
とはいえ強さを自慢するのはちょっと気が進まないので「まあな」の一言で済ませる。
「ギルドの規約はこちらの小冊子をご覧ください。時間があるなら重要なポイントについてご説明しますけど、いかがでしょう? わたしの説明は分かりやすい気がするので、聞いておくのがオススメです!」
分かりやすい気がするって、気がするだけか。
けれどそう言われてしまうと、本当に分かりやすいのか気になるな……。
「時間ならある。説明を頼んでいいか?」
「分かりました! まずは冒険者のランクですが、上からS、A、B、C、D、E、Fの七段階になります。ランクアップは依頼の達成や討伐履歴などを考慮してギルドが決定します。逆に、達成率があまりに悪かったり、長期間に渡って依頼を受けていない場合はランクダウンや除名もありうるので気を付けてください」
「長期間って、どれくらいなんだ?」
「D、E、Fランクの場合、病気やケガなどの理由なく3ヶ月ほど依頼を受けていないと処分の対象になります。A、B、Cランクは半年、Sランクは1年ですね」
許される空白期間の長さは、ランクによって違うわけか。
後々のことを考えると、頑張ってCランクまで上げるほうが賢いかもしれないな。
「また、『ギルドへの虚偽報告』と『依頼主への裏切り行為』、『ギルドカードの偽造』は厳しい処罰が下されるので絶対に行わないでください」
「分かった、覚えておく」
「次は依頼についてですが、クエストボードに貼り出されている依頼書とギルドカードを窓口まで持ってきてください。依頼にはランクが定められていますが、受注できるのは自分のランクまでのものです。期間中に達成できなかった場合は違約金が発生するので注意してください」
よし、だいたい分かってきたぞ。
やっぱりというかなんというか、冒険者ギルドのシステムはわりとゲームっぽい雰囲気だった。
説明はそのあとも少し続いたものの、大きく違和感を覚える点はなかった。
「最後ですが、依頼に関係ないものでも魔物の素材などは反対側の買取カウンターで受け付けています。死体ごと持ってくるのは大変ですし、解体手数料を取られちゃいます。あらかじめ売れる部位を調べておいて、その部分だけ持ってくるのがオススメです。……以上、ご清聴ありがとうございました」
ミリアさんはまるで講演を終えた後のように一礼する。
なんというか、面白い人だ。
「何か質問がありましたら、気軽に聞いてください。分からないところはありますか?」
「ひとつ、教えて欲しいことがある」
「はいはい、なんでしょう?」
「たとえば討伐のクエストを受けた時、どうやって魔物を倒したことを証明すればいいんだ?」
ネット小説なんかだと、魔物の身体を切り取り「討伐証明部位」として提出することもあるが、この世界ではどうなのだろう。
「あっ、ごめんなさい。説明が抜けてましたね。実はこのギルドカード、持ち主さんの討伐履歴を記録してくれるんです」
ミリアさんはそう言って、机の下から銀色の箱を取り出した。
側面には細い溝があり、ちょうどギルドカードが通せそうなサイズになっている。
「履歴の閲覧は、冒険者ギルド専用の魔道具が必要になっています。討伐履歴を確認したい場合は、窓口までお越しください。他に質問はありませんか?」
「いや、今は大丈夫だ」
「では、コウさんは今から冒険者ギルドの一員です。よろしくお願いしますね」
「こちらこそ頼む。……そういえば、ギルドの登録料とか試験料はいらないのか?」
「昔は取ってましたけど、そのせいで傭兵ギルドに人を取られちゃったんですよね。だから今は無料になってます」
冒険者ギルドと傭兵ギルドのライバル関係は、こんなところにも影響しているらしい。
個人的な意見としては、変なヤツが冒険者にならないよう登録料や試験料を取るべきだと思うんだが、まあ、ここは異世界だ。文化背景がぜんぜん違うのだから、この世界では無料が適切なのかもしれない。
「コウさん、早速ですが、依頼を受けてみませんか?」
「いや、そのまえに準備を整えたい。このあたりの地図や、出現する魔物について調べたいんだが……」
「あ! それならさっきお渡しした小冊子の後ろに付録があるので、よかったら参考にしてください」
ミリアさんに勧められ、俺は小冊子をパラパラとめくる。
そこには『付録1:オーネン周辺地図』『付録2:オーネン周辺に出現する魔物について』『付録3:オーネン周辺で採集できる素材について』『付録4:オーネン市街地図』『付録5:冒険者のための市街ガイド』という項目があった。
……それらを目にした瞬間、頭のなかに声が響いた。
『【異世界人】スキル内サブスキルの取得条件を満たしました。【オートマッピング】が解放されます』
まるでゲームのマップ画面のように、脳内にオーネン周辺のマップが広がる。
ズームイン、ズームアウトも思いのまま、さらには魔物や素材などの分布まで書き込まれている。
異世界版カーナビ、みたいなものか。
便利だな、これ。
「コウさん、大丈夫ですか? なんだかボーッとしてましたけど……」
「いや、問題ない。とりあえずオーネン周辺のことは理解した。ちょっと依頼を見てくるよ」
俺はミリアさんの窓口を離れると、クエストボードに向かう。
貼り出されている依頼書はさまざまで、薬草採集や魔物討伐、なかには廃屋の掃除などもあった。
そのなかで俺の眼を惹いたのは、すみっこに貼り出されたひとつの依頼だった。
『ランク:不問
※窓口にて要相談
種別:採集
対象:ハチの巣
報酬:1つあたり50000コムサ
※品質・大きさにより追加報酬あり
数量:5つ
依頼主:薬師ギルド
備考:薬師ギルドの養蜂園にて火事があり、薬の素材不足とのこと』
コムサというのはこの世界の通貨単位で、およそ『1.5コムサ=1円』くらいの価値だ。
アーマード・ベア・アーマーには《ハチミツ探知S+》と《ハチ払いの咆哮EX》の付与効果があるので、俺のために用意されたかのような依頼といえる。
よし、こいつを受けてみようか。
ブックマーク、評価を頂けると更新の励みになります。
もし面白いと思っていただけたら、よろしくお願いします!




