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第0話 異世界で、チートスキルを手に入れた。

「俺も、もう年かなぁ……」


 残業帰りの終電のなか。

 ついつい、独り言をこぼしてしまった。


 慌てて周囲を見回すが、幸い、同じ車両には誰も乗っていなかった。

 聞かれて困るような発言でもないが、恥ずかしいものは恥ずかしい。

 

 俺は高坂コウ。

 企業勤めの社会人……もとい社畜で、29歳だ。

 就職してからというもの、家と会社を往復するだけの日々が続いている。

 給料が高ければまだマシなのだろうが、あいにくウチはブラック企業だ。

 ひたすら薄給のまま使い潰されるばかり。

 趣味はゲームだったが、あまりに忙し過ぎて、最近じゃアプリゲームも遊べていない。

 連続ログインボーナスを貰い損ねてそれっきり……みたいなゲームばっかりだ。

 そうこうするうちに流行から取り残され、新作をチェックするのも面倒になっていた。


「昔だったらなぁ……」


 昔はブログやニュースサイトを巡回して、面白いゲームはないだろうかと探し回っていた。

 けれど、今はもう、そういう気力も湧いてこない。

 年か、年なのか。

 そりゃそうだよな。

 来年には30歳、年齢的にはおっさんだ。

 枯れたおっさんになってしまった。

 

「はぁ……」


 徹夜でゲームに没頭していた学生時代が懐かしい。

 あのころに戻れるなら、戻りたい。


 ――そんなことを考えながら終電に揺られるうち、俺は深い眠りに落ちていた。









「……ここは?」


 気が付くと、俺は暗闇の中に浮かんでいた。

 さっきまで電車に乗っていたはずなのに、いったい何が起こったのだろう?

 

「夢、か?」

  

 首を傾げていると、いきなり、目の前に半透明のパネルが現れた。

 ゲームに出てくるメッセージウィンドウみたいな物体だ。

 ウィンドウには、こんなことが書かれている。


『あなたはこれより異世界に召喚されます。

 以下の選択肢から、希望する役割を選んでください。


  1.勇者:大いなる宿命を背負った英雄

  2.賢者:常識外れの魔力ですべてを圧倒する者

  3.魔王:己が欲望のまますべてを塗り潰す暗黒の化身』


「妙な質問だな……」


 正直なところ、3つの選択肢のなかで心惹かれるものは1つもなかった。

 

 勇者? 大いなる宿命なんて果たせる気がしない。そんな厄介なものはノーセンキューだ。

 賢者? いや、そもそも俺は賢くない。賢かったらブラック企業に就職しなかった。

 魔王? 王様とか面倒くさそうだし、たぶん勇者に倒されるだけだ。どう見ても死亡フラグ。


 結論、どの選択肢も微妙。


「どれも選ばない、ってのはアリなのか?」

 

 俺がそう呟くと、メッセージウィンドウが消え……また、新たに現れた。


『隠し選択肢「4.どれも選ばない」が選ばれました』


「……なんだそりゃ」


 まるでゲームの裏技みたいな話だ。

 選ばないのがアリなら、初めから表示しておいてほしい。

 そもそもこの選択肢に何の意味があるんだ?


『おめでとうございます。隠し選択肢を見つけたあなたには、勇者でも賢者でも魔王でもない、規格外の存在としての能力が与えられます』


「……は?」


 規格外の存在って、どういうことだ。

 俺が戸惑っていると、さらに次のメッセージが現れる。


『それでは異世界に転移します。よい旅を』


 同時に、まわりの風景に大きな変化が起こった。

 暗闇がサッと晴れたかと思うと、そこは森になっていた。

 

 木々のあいだから太陽の光が差す、暖かくて明るい森だ。

 遠くからはチッ、チチチチッ、と鳥の声がする。

 

「どうなってるんだ、これ」


 状況がまったくつかめない。

 俺の乗っていた電車はどこに行ってしまったんだ。

 線路は街のどまんなかを走っていたはずなのに、どうして、いきなり森にワープしているのだろう。


 まさか、本当に異世界に召喚されたのか?

 またまたご冗談を……と言いたいところだが、風にゆれる葉っぱも、鼻をくすぐる緑の匂いも、なにもかもがリアルすぎた。


「頬をつねってみるか……」


 痛かった。

 どうやら夢の可能性は低そうだ。

 ならば、現実、ということだろうか……?

 電車で居眠りしていたら見知らぬ森に飛ばされるなんて、ずいぶんと現実離れした状況だ。

 これだけでも信じられない話だが、しばらくすると、もっと信じられないものが表示された。


 まるでRPGのようなステータスウィンドウだ。

 そこには俺の名前や年齢、性別、種族、レベル、HP、MP、スキルなどが書かれている。

 レベルは1で、HP50、MP1000。

 やたらとMPが高くてアンバランスだ。

 MPがあるということは、魔法が存在するのだろうか。

 スキルはというと――


 【創造】

 【アイテムボックスEX】

 【自動解体EX】

 【鑑定EX】

 【器用の極意EX】

 【匠の神眼EX】

 【魔力回復EX】

 【言語習得】

 【異世界人】

 【スキル把握】


 以上、合計で10個。

 多いのか少ないのかは分からないが、なんだか凄そうな雰囲気だけは漂っている。

【創造】のあたりに目を向けつつ「もうちょっと詳しい説明はないだろうか」と思った矢先、ステータスとは別のウィンドウが表示された。


『【スキル把握】を【創造】に対して使用しますか?』


 答えはもちろん「使用する」だ。

 いまはとにかく情報がひとつでも欲しい。 

 すると、俺の思考を読み取ったかのように3つ目のウィンドウが出現する。


『創造:ランク1

 生産系の最上位スキル。素材とMPを消費することでアイテムを作り出す。

 ランクが高くなるほど幅広いアイテムが作成できる。

  ※一定ランクで【無限創造】に変化、【魔法創造】や【魔物創造】、【スキル創造】などが可能となる』

 

 説明を読み終えたのと同じタイミングで、不思議なことが起こった。

 どうやら【スキル把握】はかなり気の利いたスキルらしく、【創造】にかかわる他のスキルについても説明を表示してくれた。

 

『アイテムボックス:ランクEX

 物品を亜空間のアイテムボックス内に保管する。

 アイテムボックス内で【創造】を行うことも可能。

 収納量上限なし、内部の時間は停止している。生物の収納はできない』


『自動解体:ランクEX

 アイテムボックス内の物品に対して使用可能。

 指定したものを自動で解体し、【創造】用の素材に変える』


『鑑定:ランクEX

 任意のアイテムについて、品質や説明などをメッセージウィンドウに表示する』


『魔力回復:ランクEX

 1秒ごとに最大魔力の1%が回復する。現在の回復量は10』


『器用の極意:ランクEX

【器用】の最終到達系。初めて目にするアイテムでも手足のように使いこなせる』


『匠の神眼:ランクEX

 現在、自分が【創造】で扱える素材を見抜く』

 

 すべてを読み終えたとき、俺はそれぞれのスキルの使い方を自然と理解していた。

 これも【スキル把握】のおかげだろうか。

 

 俺のスキル構成をおおざっぱにまとめると、MMORPGなんかで言うところの生産系に向いているようだ。 


 ネトゲとか懐かしいな。

 学生のころは一睡もせずに狩りや対人戦にのめりこんでたっけ。


 いまの俺はゲームみたいな状況に置かれているわけだが、そのせいだろうか、あのころの気力がほんの少しだけ蘇ってくるように感じられた。


 よし。

 まずはスキルについて検証してみるか。







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