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第3話 足跡

 ヴィットリーニの依頼を受けたステラは、鋼鉄都市から来た銃の情報を集めていた。


 まず立ち寄ったのは、海沿いの酒場。

 酒を日常的に嗜む余裕があるのは、どこかの組織の人間か、ステラのような雇われエージェントがほとんどだ。必然的に、この場所には物騒な情報が集まってくる。


 まだ昼間だというのに、店内には結構客が入っていた。群れて陽気に騒ぐ者はいるが、静かに一杯やっている者も多い。

 彼らの多くは、夜の闇に紛れて仕事をこなす者たちだ。


 カウンターに、顔見知りの若い男がいた。確か、運び屋を専門でやっている男だ。ちょうど、この辺りの物流には詳しいだろう。

 男の隣の席に座り、話しかける。


「久しぶりね、運び屋さん」

「珍しいな、あんたがここに来るなんて」

「覚えてたの? わたしのこと」

「一度見た顔は忘れないさ。それに、あんただってそうだろう」


 二人は、一、二回仕事で関わった程度の関係だった。だが仕事柄、二人とも記憶力はいい。


 対立する組織間ともなれば話は別だが、彼らのようなフリーランサー同士の関係は、基本的にそう悪くない。情報が命の世界では、できるだけ情報を交換する方が得策だ。




「それで? 何か用があってここへ来たんじゃないのか」

 と、運び屋が訊く。

 どう答えたものか、迷うステラ。鋼鉄都市の兵器が大陸に流入したなどと知れたら、街はパニック状態だ。


 結局、曖昧にお茶を濁す。

「ちょっと、調べたいことがあってね。ここ最近、沿岸部で不審な動きはなかった? 例えば……そう、何かを輸送してたとか」


「輸送、か。……そういや、だいぶ前の話になるが、少し気になることがあったな」

 予想に反して、すぐに何か思い当たったようだ。ステラは思わず、身を乗り出す。


「どこの連中かはわからんが、荷車に木箱をたくさん積んで、運んでた奴らがいたんだ。ここらじゃ見かけない顔ぶれだったから、よく覚えてる」

「どこか様子が変だったの?」


「そいつらの人数が、尋常じゃない。二十人くらいで、台車を取り囲んでやがった」

 確かに、ある種異様な光景だっただろう。

 運び屋が続ける。

「普通は、大事なヤバい荷物ほど、目立たないように少人数で運ぶものなんだ。そういうときのために、プロの運び屋がいる」


「周りの目を気にしていられないくらい、重要なもの――」

「そういうことだ。あれは確実に何かある」

「ありがとう。聞けてよかったわ」


 ステラは席を立ち、酒場を後にした。






 続いて向かったのは、行きつけの武器屋。

 重厚感のある店内には、所狭しと拳銃やライフルが置かれている。

 カウンターの向こう側には、髭を蓄えた白髪の男。無口だが、腕のいい銃職人ガンスミスだ。

 ステラは弾薬を少し購入し、本題に入る。

「今から変な話をするけど、よく聞いてて。思いつくことがあったら、教えてほしいの――」




「ある銃があって、サイズは拳銃と変わらない。でも、銃口から発射されるのは、青い光線なの。それは、金属を融かすほどに強力で……その銃からは煙も薬莢も出なくて、リロードも必要ない」

 一気にまくし立てるステラ。

「どう? 何でもいいから心当たりは?」


 ガンスミスは、難しい顔をして答えた。

「わしの知っている銃というものは、火薬の力で鉛弾を撃ち出す、それだけだ。すまんが、そいつはわしの手に負えるようなものではない」

 そう言うガンスミスは、ステラの言う銃の正体を悟ったかのようだった。


 何にせよ、あの銃はやはり、とんでもなく異質なものだったのだ。腕利きのガンスミスが見当もつかないとなれば、ステラの予想がいよいよ現実味を帯びてきた。


 例の銃について、それ以上の情報はなく、ステラは武器屋を立ち去ろうとする。

 そのとき、珍しくガンスミスの方からステラを呼び止めてきた。


「どんなものであれ、銃の本質は変わらん。当たりどころが悪けりゃ、一発。光線も鉛弾も、同じことだ」

 そう語るガンスミスには、殺しの道具と向き合い続けてきた者の気概があった。

「使い慣れた一挺いっちょうこそが、力になる。そいつを忘れるんじゃない」


 ステラは、それを心に刻む。






 今日の調査を終わりにしたステラは、アパートへ戻った。

 調査は難航しそうだったが、思いがけない情報もあった。この調子でいけば、近いうちに真相にたどり着けるかもしれない。


 運び屋の言っていた、謎の荷物。二十人がかりで運んだのが例の銃だとすれば、やはり組織がらみの策略が裏にあるのだろうか――。

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