旅の始まり
二話目です。急いだので、わかりづらいかも。
二人の少年が街道を進んでいる。
金髪の比較的小柄な者と黒髪の筋肉質な戦士のような者だ。
「腹減った」
黒髪の方が溜め息混じりに呟く。それに反応して金髪の方が声を出した人物を見上げる。
「休憩する?」
「する!流石ヴィーレ!俺の天使!!」
声をかけると黒髪の方が目を輝かせて即答する。余程腹が空いていたようだ。
ヴィーレと呼ばれた少年──ヴィエレルはそんな様子を見て街道の周りに広がる草原を見渡す。
「じゃあ、オルトーは食料の調達してきて。僕はあそこら辺で待ってるから」
黒髪の少年オルトーもといオルトラムはひとつ頷くと猛スピードで駆けていった。
ヴィエレルは先程指を指した場所に歩いていき寝転がる。
「アリーさんは今何してるんだろ」
今まで世話になっていた女性でオルトラムの母であるアリーとのやり取りを思い出す。
・・・・・・・
「店を売ることにしたよ」
「……は!?」
素っ頓狂な声をあげた二人をアリーは堪えきれない笑い声を漏らす。
「あんた達本当面白い顔するねえ」
くつくつと笑うが気を取り直したのか笑いを抑え、相変わらずポカーンとしたアホ面を晒す二人を見る。とはいってもヴィエレルの方は比較的冷静であったが。
「実はね、あたしの友人に帝国で宿屋始めるから手伝いに来て欲しいって言われてさ。旦那もどっか行っちまったし、あんた達もいい歳だ。色々考えたんだけど結局帝国に行くことにした。」
「じゃあ、店を売る意味は?俺らに任せればいいでしょ。ヴィーレもいるんだし」
オルトラムが未だ困惑した顔を向ける。
「確かにそれも考えたよ。でも、二人とも十代だ。いくら成人したとはいえ未熟だし若い。もっと広い世界を見るべきだ、旅をしてね。そうするとこの店は長い間空くことになるし、もう二度と帰ってこないかもしれない。それに旅をしたり別のことを始めるとなると、帰る場所はないほうがいい。だからだよ」
オルトラムはアリーの言葉を聞き考え込む。
「僕は構いません。それも面白そうですし」
ヴィエレルは少しの間をあけて答える。そんな彼にアリーは安堵と満足の表情を向け、オルトラムに視線を戻す。
「……………俺もいい、旅に出ても。どうせ、俺が何言ったって母さんは意見変える気なんてないんでしょ」
諦めたように笑い、承諾する。
「それでこそあたしの息子だね。よし、話が決まったらさっさと準備するよ!明後日までに荷物まとめな。あたしは引っ越しの準備や閉店の報告と忙しいからね」
満足そうに言うと立ち上がり、廊下を挟んで居間の向かいにある個室にドンドンと音を鳴らしながら入って行った。
残された二人は互いに何か考え込んでいる様子だったが、ヴィエレルがふと呟く。
「ずっと思ってたんだけどさ、アリーさんって歩く度におっぱい揺れるよね」
「………」
真顔で淡々と言うヴィエレルの言葉に自分が考えていたこととのギャップもあり、オルトラムの顔が引きつる。そんなオルトラムの様子を知ってか知らずかさらに追い討ちをかけようと口を開こうとする。
「こ、これからどうする?」
オルトラムは慌ててそれを阻止しようと話題を変える。今はそんな話をしている時間はないのだ。
幸い、ヴィエレルも一応これからのことを考えてはいたようで、オルトラムの話題転換に乗っかってきた。
「取り敢えず王都に行ってみよう。ここから一番近い大都市だからね、仕事も見つけないと」
どうやら彼のなかでは旅に出るという事柄は許容されているようだ。ここに来るまでは旅をしていたのかもしれない。
「ヴィーレがそう言うなら俺に異議はないけど……」
オルトラムが少し俯く。すると影が降りた顔は暗くなり彼の心情を伝えている気がする。
「そんなにこの家出るのが嫌なの?」
この質問に嫌味といったものはなく、ただ単に疑問に思っているだけのようだ。オルトラムはそれに首を振る。ヴィエレルの顔が更に疑問に満ちた顔になる。他人から見ればちょっと小首を傾げただけで表情は大して変化していないように見えるだろうが。
「そうじゃなくて、旅って二人でするんだろ?俺とヴィーレの」
というとヴィエレルの表情が疑問からあからさまに嫌そうなものに変わる。この変化は劇的だった。
「うあ……、そうか」
今度はヴィエレルが頭を抱える。
「そうなんだよ」
「そうなんだよじゃねーんだよ、少しは自制しろ」
二人とも深刻そうな顔をする。
「なあ、オルトー、君の恋人候補から僕の名前は抹消できないわけ?いや、そこまでは望まないにしても突然殺ろうとしたり襲おうとしたりするのは止めてもらっていいかな」
「ごめん、無理」
即答だった。掠れそうな声で言い切ったヴィエレルの言葉に対して即答だった。ヴィエレルは深い溜め息をつく──
「王都で仲間にできそうな人探した方がいいかな」
──そんな呟きと共に。
オルトラムの対策を考えながらヴィエレルは自分の部屋へと戻っていった。オルトラムもそれに続いて戻っていく。
住居スペースに個室は五つあり、一番手前がアリーの部屋、その隣は空室だが家具が幾つかあり以前まで誰かがいたような部屋だ。そして、その隣はオルトラム、そのまた隣がヴィエレルの部屋となっている。一番奥は倉庫のような状態だ。
ここで寝るのも明日で最後だ。明後日には家を売るのだから。
───そして、旅立ちの日。
三人がそれぞれ忘れ物等確認していると、鍛冶屋のダンテが訪ねてきた。手には二つの小さな短剣があった。
「クソガキ共、お前らにあんましいい思い出はないが、アリーさんとの仲だ。これを持っていけ」
ダンテがブンッと雑に二つの短剣を投げる。それを二人は器用にキャッチしてそれを見る。見事な白銀の刀身に二つの宝石が嵌め込まれた美しい代物だった。
「そうか、いざとなったら売れば良いわけだな」
「ちげーよ馬鹿野郎。もし王都に行くんならなんかの役には立つだろ、売るんじゃねーぞ」
ダンテはチッと舌打ちをする。
「わかってるよ、ありがとう。一応貰っとく」
一応ってなんだ一応って。という言葉が漏れそうになるが、堪える。代わりに鼻を鳴らし、さっさと自分の家に帰っていった。
三人とも準備は整ったようだ。アリーは最低限の家の荷物をまとめ、馬車に乗って帝国へと行く。その周りには警護の依頼を受けた屈強な冒険者たちが立っている。
ヴィエレルとオルトラムは貰った短剣を腰にぶら下げ少しの食料と水を持った状態だ。ヴィエレルは薬草等の入った革製の大きな鞄のようなものを腰に付けている。
「じゃ、行こうか。またねアリーさん、いつか遊びに行くよ」
「ああ」
「母さん、俺ビッグになるんだ」
「あっそ」
「あれ、雑じゃね?」
こうして、彼らはそれぞれの道を歩みだした。
どんなに残酷な未来が待っていようともうこの時には戻れない。
どんなに後悔しても、どんなに切望しても、どんなに……
失ったとしても。
最後の方走っちゃいましたね……。
あとちょっと意味深な感じになりました。あ、嘘はついてませんよ。実際そうですからね。
気付いたと思いますが、ダンテさんのアリーと少年×2に対する態度の違いがあからさまです。
あっはっは。