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変態達の旅日記  作者: 天宮
序章
1/5

旅立ちの前に

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁ」


 街に少年の悲痛な声が響き渡る。

 あるものはビクッと肩を震わせ、あるものは慣れたものだと言うように通り過ぎていく。

 声の出所には二人の少年がいた。片方は肘と膝を地面につけ項垂れ左手で、じゃんけんの所謂パーの形になった右手の手首を掴んでいる。

 もう片方は、その少年の様子をニヤニヤと笑いながら見ている。そんな彼の右手は二本の指が立っているチョキの形だ。

 笑っていた少年は項垂れている少年の肩に手を置き嬉々として言う。


「じゃあ、今日は『月華』に行こうかな」

「よりによってそこ!?全然男っ気ないじゃん!」


 すかさず項垂れている少年が抗議の声をあげる。


「僕は君と違って女の子が好きなの。毎日毎日君に付き合ってたら身体と精神がもたないよ。だからたまには僕に付き合って貰うから」

「俺は行かないぞ!そんな女だらけの店なんて!」


 などと往来でぎゃあぎゃあ騒いでいると当然の如く──


「うるさいよあんたたち!昼間から夜の話してるんじゃないよ!しかも店の前で堂々と。お客さんが入れないだろうが!!自分たちの店を自分たちで営業妨害してどうするね!!!」


 ──バタアァァンとドアの開く、というよりは叩き割るような音と同時に恰幅のいい女性が二人に向かって怒鳴ってくる。

 更にドアに付いており、来客を知らせるベルがこれでもかという程に激しく鳴り響く。まるで警告音かのように。

 そういったことも相まって、二人の顔が青くなる。


「か、母さん」

「すみません、アリーさん!すぐに仕事に戻ります!」


 慌てて二人は彼女の脇をすり抜けて店の奥まで走っていった。途端に店の前が静かになる。

 とはいっても、街は常に活気に溢れており騒がしい。

 つまり、相対効果だ。

 


 恰幅のいい女性、アリーが二人が店の奥に消えていったのを確認し、思わず溜め息を漏らす。


「いつも大変だね」


 横から声が聞こえてきたことに反応してその方向を向くと口元に無精髭を生やした中年の男が近付いてくる。

 隣の鍛冶屋の主人だ。

 以前は王都で大規模な店を開いていたらしいが体力等の問題でこの街まで越してきたと言う。

 確かに王都で店を開いていただけあって腕は其処らの職人より断然良い。


「ダンテさん。大変っちゃあ大変だけどね、いいんだか悪いんだか、もう慣れてきたよ。それにあの子達は常人とは違う。それを念頭に置いておけば幾らかマシさ」

「うむ、確かにあの子達の知識と才能と同時に性格も並外れているな」


 ああいう常識外れの存在っちゅうのは変人が多いというがあの子等もそういう部類なのだろうか。ダンテは少年達との苦い思い出を思い浮かべながら心の中で呟いた。



 二人が言っている通りさっきまで騒いでいた少年達はそれぞれ常人とは思えない能力がある。

 一人は、薬学の天才。

 彼の知識とその応用力は薬学を専門にして最も先進的な研究をしている者よりも優れているとまで言われるほどだ。もっとも、実際にそういった人物を見たことがある者は彼の住んでいる街にはいないため、真偽は不明である。

 また、薬とは毒にもなる。なおかつ、薬の天才である彼は少々ブッ飛んでいる部分がある。これだけでも勘の鋭い者は察してくれたと思う。要するに彼は危険人物なのだ。

 

 もう一人は、戦闘の天才。

 彼はありとあらゆる武術を身に着けた。しかし、彼が師と仰ぐ存在はない。

 ただ街の外に湧く魔物と戦っていただけ。一度戦えばその分目に見えて強くなるのだ。限界などなかった。

 もはや彼に戦闘で勝てる者は数えることが容易である。しかし、これも例によって街の人達がたてた噂であり、実際に数えるのが容易かはわからないが。

 此方は危険人物ではないが、かなり厄介ではある。因みに同性愛者である。


 そして、二人とも自分が社会の常識とずれているという自覚がない。無自覚の変人、変態ほど厄介なものはない。



 ・・・・・・

 


「いやー、終わった終わった」


 片方の少年が伸びをする。そして、その顔は心なしかキラキラと輝いているように見える。

 対してもう片方は絶望の色に顔を染めていた。


「ほら、オルトラム!手が止まってるよ。さっさと店じまいしな」

「………うっす」


 怒鳴るアリーに虚ろな瞳を向け少年──オルトラムは弱々しく返事をする。

 そんなオルトラムを救う一言がアリーの口から出る。


「ああ、そうだ。ヴィエレル、オルトラム。二人とも片付けが終わったら居間で待ってな。今夜は少し話があるからね」


 その瞬間、二人の少年の顔が先程までと正反対になる。まるで顔を交換したかのように。


「……ああぁぁ、女の子に今日も会えないってこと?り、理不尽過ぎるよ、アリーさん」


 ヴィエレルは絶望した表情でふつぶつと呟いている。端から見れば呪いの文言でも唱えているのかと思うだろう。だがしかし、片付けの手の速度は変わらない。身体が覚えているところは流石である。



 すぐに片付けを終え、二人は店の奥へと歩いていき、そこから階段を昇り住居スペースに戻っていく。住居スペースは居間と書斎、個室が幾つかあり、それなりに広い。

 アリーは薬屋を経営しており、そこそこ名の知れた薬師である。稼ぎは一般庶民と比べると多い部類に入るだろう。まあしかし、息子であるオルトラムには薬に関する才能や興味は一切なかったのだが。

 とはいえ、ヴィエレルというアリー以上の優秀な薬師をそれと知らず家に連れてきたのだから少なからず薬との縁はあるのだろう。


 階段を昇ったらすぐ目の前にある居間に入ると既に夕食らしきものがテーブルの上に並んでいた。

 微妙に湿気ったパン。湯気の出ていないぬるそうなシチュー。しなった野菜が乱雑にのせられたようなサラダ。テーブルに並んでいる食事の殆どが余り物なのだ。唯一普通に美味しそうに見えるものは程よく冷えた水である。

 しかし、そんなことは忙しい彼らにとっては日常なので特に気にも止めず席につく。木で出来た椅子が僅かに音を立てる。

 アリーは二人が座ったのを見てヴィエレルとオルトラムの向かいの二つある席のうち一つに腰掛ける。


「さあ、話は食べてからだよ。ほらさっさと食べちまいな」


 軽く急かすように言って自分も食事に手をつける。

 二人も腹が空いていたようで一言も発することなく黙々と美味くもなければ不味くもない食事に集中し始めた。

 やがて三人とも食べ終えそれぞれのコップに残っていた水を飲み干す。


「それでアリーさん、話って?」


 ヴィエレルが最初に口を開く。

 今夜の楽しみを取り上げられ不快感が混ざった口調になっている。とはいってもほんの僅かであるが。

 それに気づいていないのか、故意に無視しているのかアリーはそれに構わず話し始める。


「そうそう、それでねヴィエレル、オルトラム」


 名前を呼ばれて二人の意識は完全にアリーへと向く。

 何を言われるのか恐怖と好奇心の入り交じった二人の視線を受け更に続ける。


「店を売ることにしたよ」


「……は?」


 思わず、二人は同時に素っ頓狂な声をあげる。

ここまで読んで頂きありがとうございます。此れからも宜しくお願い致します。


………難しいなあ、物書きって。

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