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高校生よ、恋をせよ

暴走系ロマンチストのホワイトデー

作者: 真下地浩也

 『暴走系ロマンチストと天然ツンデレのバレンタイン』の続編です。

 

 今回は花畑蘇鉄視点のみです。

 

 


 三月十四日。

 そう聞いて思い浮かべるのはホワイトデーだろう。

 一か月前のバレンタインほど知名度は高くないが、それなりの人が知っている日本独特のイベントだ。

 ではホワイトデーとは何か。

 一言でいうのならば、バレンタインデーでチョコをもらったお返しをする日だろう。

 去年までの俺はホワイトデーなど気に留めなかった。

 だが今年は違う。

 なぜならば、地上に舞い降りた女神こと葉山蕨さんからチョコクッキーを賜るという栄誉をもらったからだ。

 しかも手渡しである。

 喜びのあまりもらった後、数十分の記憶がない。

 一枚一枚、目に焼きつけ、(こう)ばしい香りを鼻から肺に満たし、食感がなくなるほどよくかんで味わってから飲みこんだ。

 だが、そんなことは今どうでもいい。

 それよりも大事なことはして彼女に何をお返しするかということだ。

 たかが菓子。されど菓子。

 彼女の瑞々しい薄ピンクの唇に触れるにふさわしいものと考えれば考えるほど決められない。

 悩みに悩んだ俺は兄を頼ることにした。

「事情はわかったけど土下座って発想がキモい。お前に土下座されたところで何とも思わないし、むしろうざい。聞く相手を間違えてない?」

 リビングにいた兄は嫌そうな顔を隠しもせずに、座っていたソファーから俺を見下ろした。

「俺の友達は女子と付き合ったことのあるやつも、チョコをもらったことのあるやつもいなかった。だけど兄上は女子にすごくモテるからどうすればいいのか知っていると思った」

 癒詩は部活第一で恋愛には興味がないから、適当にお得パックのお菓子を買って配るといっていたし、クラスメイトや同じ部活のやつらに相談すれば、親の仇を見るような血走った目で睨まれ、『爆発しろ!』と意味のわからないことをいってきた。

 俺が爆発するのはいいが、彼女のいない場所か巻きこまない場所がいい、といえばさらに目を吊り上げ、鬼の形相になった。

 なぜだろうか?

 女神のような彼女が失われるのは人類の多大な損失にしかならないと思うのだが。

 それはさておき。

 兄は女子にものすごくモテるのである。

 容姿はもちろんだが、女子に対する(というか男性にはいっさい使われない)気遣いや言動が、俺とは全く違うのだ。

 そんな兄ならば、葉山さんにぴったりなプレゼントを教えてくれると思ったのだが……。

「……黙ってればモテるくせに」

 兄は何をいっているのだろうか?

 こんなでかくて、ごつくて、顔の怖い、しかも面白い話一つ出来ない男のどこにモテる要素があるのか。

 俺が女子だったらこんな男が同じクラスにいるだけでかなり怖いと思うぞ。

「無自覚ってほんとムカツク。そもそもお前は相手の好みを知ってんの?」

 ぎろりと睨まれてしまったが、一応アドバイスをしてくれるつもりはあるらしい。 

「それは大丈夫だ。彼女は和菓子より洋菓子が好きらしい。時々、昼休みに友達と洋菓子を食べているのを見たことがある」

「学校に和菓子を持ってくる女子高生はそうそういねえよ」

 はっ!?確かに学校に和菓子を持ってくる奴はいなかった。

 いたとしてもせいぜいコンビニの一口大福とかどらやきくらいだ。

 まさか彼女は和菓子の方が好きだけど、形が崩れやすいから洋菓子を持ってきていたというのか!?

「インパクトが欲しいなら和菓子を持っていっても面白いんじゃない?まあクッキーとか、マシュマロとか、飴が定番かな。マシュマロには悪い意味もあるらしいから気をつけた方がいいかもね」

 クッキーは葉山さんと同じになってしまうし、マシュマロには悪い意味があるからさけた方がいいだろう。

 なら飴を渡すのがいいか。

「一週間で飴細工の技術を身につけることは出来るだろうか?」

「なんでお前は手作りしようとしてんの?うちの親戚に飴細工職人いないし、道具もどこで揃えるつもり?それよりお前、手先不器用じゃん。それで最初から手作りってバカなの?」

「ぐっ……!?」

 痛いところを突かれて、言葉に詰まった。

 確かに俺は家庭科で雑巾一枚縫うのに全ての指に針を刺すほど不器用だ。

「手作りに対して既製品を渡すというのは失礼じゃないか?」

「大量に必要な場合、手作りの方がコストが低いんだよ。お前にとっては本命でも、相手は義理で渡したのかも知れないし?そんなやつから飴細工をもらっても重いから。むしろキモイ」

 確かに葉山さんは渡す時に義理だといっていた。

 ……ん?ちょっと待て?

 俺に義理で渡したということは本命がいるということか? 

 彼女と接触する男子はいないはずだが、もしかしたら俺が知らないところで好きな男が出来ていた?

 い、いや彼女に本命がいるのなら、本命に誤解されないように俺へ義理でも渡さない。

 彼女はそういう誠実な人だ。

「お前のことだ。女の子に人気の店なんて知らないだろうから教えてもいいよ」

 兄はにんまりと笑って、店の名前を教えてくれた。

 俺はこの時、疑うべきだったのだ。

 あの毒舌で意地悪な兄が素直に店を教えてくれたことを。

 


 ホワイトデー前日。

 俺は悩んでいた。

 プレゼントは少々問題はあったが、なんとか買えた。

 しかし、そう!俺はどうやって渡すのか全く考えていなかったのだ。

 直接、渡せばいい?それが出来るならこんなに悩まない。

 彼女を目の前にすると緊張と興奮で頭が真っ白になる俺にプレゼントを渡すなど高度なことが出来るはずがない。

 靴箱に入れるか?

 いや葉山さんが口に入れる物をそんな場所に置くわけにはいかない。

 ならば彼女が来る前に机の中に入れるか?

 それならば大丈夫だな!

 今日は早く寝ておこう!



 ホワイトデー当日。

 予定通り、朝早い教室には誰もいない。

 ほっと胸を撫でおろし、一度自分の席に荷物を全て置く。

 通学バックからそっとラッピングされたそれを取り出す。

 ふんわりと結ばれたリボンが型崩れしてなくてよかった。

 片手に持って、葉山さんの席へと一歩足を進めた瞬間に、廊下から足音が聞こえた。 

 思わず、石膏像のように立ち止まってしまう。

 別に疾しいことをしようとしたわけではないのだが。

 まだまだ足音は遠いが徐々にこちらに近づいてくる。

 自分の心臓の音がやけに大きく聞こえる。

 足音が教室の扉の前で止まった。

 俺は最速で音を立てないように椅子を引き、机の中にプレゼントをしまった。

 一連の動作が終わると、ほぼ同時に扉が開かれる。

 その人は俺を見て、少し驚いたように目を瞬かせた。

「おはよう。花畑くんも早く来たのね」

 少し遠慮がちに微笑む葉山さんは今日も可愛くて美しい。

 それに鈴を転がしたような声とはまさにこのことをいうのだろう。

 彼女の声もいつまでも聞いていたくなるほど素敵だ。

 無意識に挨拶を返しながらそう思った。

「あ、でも花畑くんは柔道部の朝練があるんでしょ?日直の仕事は私がしておくから大丈夫よ」

 俺のことを心配してくれるなんて彼女は今日も女神だ。

 ……日直?

 不自然にならないように彼女から視線をずらして黒板を見る。

 授業の邪魔にならないよう端の方に今日の日直の名前が書かれている。 

 そこに並ぶ二つの名。

 一つは葉山さん。

 もう一つは俺だった。

 俺は馬鹿か。

 葉山さんは日直の時、いつもより早く登校するということをさっぱりと忘れるなんて。

「花畑くん?」

「気持ちは嬉しいが葉山さんにばかり日直の仕事をさせるわけにはいかない」

「朝はそんなに仕事がないから本当に大丈夫よ。だから、その……朝練がんばってね」

 耳まで赤く染めた葉山さんにそういわれてやる気を出さない男がいるだろうか!?

 いや、いない!いるわけがない! 

 現に俺は朝練だけで五十人は投げ飛ばせそうなほどみなぎっている!

「そういうことなら悪いが甘えさせてもらう。だが帰ってきたらしっかり働くから遠慮しないでくれ」

「わかった。えっと……いってらっしゃい?」

 彼女はまだ赤い顔のまま、小さく手を振ってふっと微笑んで見送りの言葉をかけてくれた。

 まるで新婚の夫婦のようなやり取りだ。

 なんて妄想してしまう。

「……ああ、いってくる」

 一瞬、葉山さんの魅力に息が止まったがすぐに教室を飛び出した。

 まだ朝練の時間ではないが、部室が開くまで校庭を走っていよう。

 でないとこの有り余る興奮を抑えられそうにない。

 それから、お互い日直ということで話す機会は何度もあったが、渡す機会はなく、気づけば放課後になっていた。

 残るは日誌を埋めるだけ。

 葉山さんの華奢な指が握るシャープペンシルが紙に文字を書き綴る。

 彼女は文字までも女性らしく柔らかくて美しい。

 教室の外からはさまざまな部活動の声や音がする。

 これは最後のチャンスなんじゃないのか!?

 手渡しは未だに抵抗がある。

 しかし、この機会を逃せば後はない。

 ならば!道は一つ!

 鞄に移し替えていたプレゼントを取り出す。

「葉山さん!」

「は、はい!?」

 彼女の細い肩が大きく揺れ、手を離れたシャープペンシルが机を転がった。

 気合を入れ過ぎて、声が大きくなりすぎたようだ。

「……驚かせてすまない」

「だ、大丈夫だけど、急にどうしたの?」

 葉山さんは何度か瞬きをして、俺を見上げる。

 一つ大きく深呼吸をして、手にしたそれを彼女へと突き出した。

「いただいたクッキーはとても美味しかった。ありがとう。大したものじゃないがお礼だ」

 パステルピンクの紙バックの中身はビン詰めされた可愛らしい色とりどりの飴だ。

 飴と同じように可愛らしい店は、入ってから出るまで周りの視線がずっと痛くて、居心地が悪かった。

「これ、花畑くんが自分で選んでくれたの?」

「ああ。口にあわなかったら」

「すごく嬉しい。ありがとう」

 彼女は俺の言葉を遮って、そういった。

 たった一言。

 だけれど、俺にとっては何物にも代えがたいほど嬉しい言葉で、それだけでも十分すぎるほどなのに。

 彼女はさらに、本当に嬉しそうに受け取ってくれた。

 高校生の小遣いで買える程度の飴でこんなにも喜んでくれるなんて、葉山さんはなんて優しい人なのだろうか。

 俺は、やはり彼女は誰よりも魅力的な女神のような人なのだと、改めて思ったのだった。

 葉山蕨視点は近い内に投稿できたら思っております。


 蘇鉄が相変わらず、恋心をこじらせていてブレないなこいつと思いました。

 微妙に嫉妬していますが、本人は全く気付いておりません。


 今回は蕨がデレばかりでツンがないので、次回ツンを前面的に出したいと思います。

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