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第一章 パトロン(10)

 一方的に攻撃を受け続けるアマデオさん。目の前で行われている光景ですがとても信じられませんでした。きっとどこかで攻守が入れ替わるに決まっている。そう考えていたのはジュリエッタだけではなかったはずです。

 アマデオさんは学園の生徒ではありますが騎士の位を戴いている人です。一時的に学園に在籍しているので限りなく現役に近い騎士。

 そのアマデオさんが一方的に追い詰めている!

 しかも来訪者によって!!

 目の前で起きている事を信じろというのが無理な話しです。

 まかべさんの右拳がアマデオさんの側頭部にあたりました。アマデオさんの身体がよろめき地面に叩きつけられそうになりますが、まかべささんは下からすくい上げるように打ち込みます。

 情け容赦がありません。

 アマデオさんも反撃しようとしてますが攻勢にでたことで隙が生まれます。まかべさんはその隙を見逃しません。要所要所で決まるカウンターは身体的以上に精神的にアマデオさんを追い詰めているのがジュリエッタにも分かります。

 後ろにも引けず前にも進めない。

 目を背けたい光景ですが、それは許されません。

 次の対戦者はジュリエッタなのです。

 なによりこの試合にはジュリエッタの全食券が賭けられているのです!

 まかべさんが負けたら破産です!!


 溢れんばかりの歓声と悲鳴の中、ついにアマデオさんが崩れ落ちました。

 ざわめきはいつまでも止まりません。

 予想外の結果というだけではないでしょう。

 まかべさんが使用したのがどのような魔術だったのか? アマデオさんを打倒した技が魔術だったのか? 疑問が尽きず、そして回答を誰も持たないのです。

 収まらないざわめきを収めるため、エミリオ学長が立ち上がり発言を始めました。

「魔法士諸君。君達には理解できんかもしれないが、あの来訪者が使用したのは初歩的魔術である加速系と付与系の併用にすぎん。その熟練度が非常に高いレベルにあるため、未知の魔術が使用されたかのように錯覚をしておるのだ」

「ですが、僕達にはあれほどの詠唱速度は不可能です。不可能であると認識したからこそ呪文印という技術を先人達は生みだしました、教科書にはそのように書いてあります」

 ジュリエッタ達の疑問を代弁するように生徒の一人が疑問を口にしました。

「そんなものは未熟者の方便にすぎないわ!!」

 未熟者と一喝されては疑問を口にした方は大人しく席につくしかありませんでした。

 ぶっちゃけ過ぎですラウロ理事長。

 率直な意見は嫌いじゃないですけど、余りといえば余りの暴論です。

 ラウロ理事長が認めたということは、まかべさんの魔術は熟練度が高い結果だったと公式見解になってしまいます。

 わたし達に不可能なことが来訪者に可能だったという現実。

 信じられない信じたくない。

 この気持ちは生徒だけではなく一部の教師陣にもあるようです。正式に発言をする人こそいませんでしたが、まかべさんに対する反発の声は少なくないみたい。

 教師にすらも反発心があること察したのか、エミリオ学長は発言を続けます。

「学生諸君、教師諸君。魔術とは端的に言えばアレンジを要求される学問なのだ。もちろん、高度な魔術を理解するには高い知性を要求される。が、初歩的な魔術に高い知性を要求しないと思い込むのは間違いなのだ。

 諸君らも覚えがあるだろう。

 どんな魔術も発動するだけならばそれほど難しくはないということを。手間とコストを無視すれば、不出来な弟子であっても雷を落とせる。

 それが魔術なのだ。

 なぜこのようなことが起きておるのか。

 全ては先人達の好意に原因があるのだ。

 簡単な例を挙げよう。

 魔術について学んでない者が、他の人物の詠唱方法を暗記することでライトの呪文を盗んだとしよう。そのものがライトの呪文を発動させることは絶対にありえない。そのもの仮に天才だったとしてもだ。何故なら盗んだ詠唱方法は盗まれた人物に合わせてアレンジされたのだから。

 全ての原因は魔術の原本グリモワールにある。

 グリモワールは二千年前以上も著作であり、全ての魔術の源流。偉大な先人達はグリモワールを著作するにあたりある理念を共有しておった。

『あらゆる階層、あらゆる種族、性別に違いがあろうとも必ず発動するように記述しなければならない』

 馬鹿共が!

 失礼。

 グリモワールに記載された魔術は必ず発動しおる。酷く無駄な作業と無駄に長い詠唱を経なければいけないという条件付きだがな。魔術の裾野を広げようとする親切心だったのだろうが、一定のレベルに到達している諸君には弊害のある記述方法なのだ。専門用語の使用さえ限定されておる理由も、いまなら理解できるだろう。

 先人達の労苦は認めるが彼らは悪い意味で労を惜しまんかった。

 結果、後世にこのような弊害が生じておる。

 師の元で学んでいた生徒が学園に転入してくる者もおるだろうが、その理由を今更語るまでもあるまい。弟子の知的要求に対応することで時間が浪費するデメリットが、顎のようにこき使える弟子を持つメリットを上回ったと師が判断したときに、君達は我が学園に送り込まれたのだ。

 あの来訪者が使用した魔術がどのような代物だったかが、生徒諸君、教師諸君も理解できるだろう。認め難いが目にした事実こそが真実なのだ。

 だが悲観してはならん。

 来訪者ごときに可能なことが我々に不可能であってはならん!

 学長として諸君らが一層の精進に励むことを期待しておる」


 ここまで説明されては受け入れるしかありません。

 ざわめきは静まり、羨望と嫉妬の視線がまかべさんに集中していきました、

 ラウロ理事長の大演説により冷静になったわたし達は、この試合が賭け試合だったということを今更ながら思い出しました。

 悲鳴と怒号。

 一対四十という馬鹿げたオッズは観客席を覆い尽くすのほどの外れくじを発生させました。呆然とする方々と対象的に、麻人とジュリエッタは四十ヶ月と四十日分の食券を手に入れたのです。

「やりました、信じられません。私達は勝ちました! 勝ったのですよ!!」

 ジュリエッタは思わず。ええ、思わず麻人を抱きしめました。

 麻人のふさふさな髪に頬ずりします。抗議の声らしきものが聞こえてきますが知りません。ジュリエッタはこの至福の時間を堪能するのです。来訪者の言葉を借りればジュリエッタにはその正当な権利があります。これだけ無茶な賭けに付き合ったのですから、麻人は私に対価を払う義務があるのです。

 歓声もようやく止み始めた頃、私達に視線が集まっている事にようやく気が付きました。

 賭けの勝者に対する嫉妬なのでしょうか。

 冷静に考えてみると麻人の体温を胸元で感じ取れますね。

 これはつまり。

 急いで麻人を離しますが、少しぐったりしているようで顔も青いですね。

「もう少しで死ぬかもと思ったよ。

「す、すいませんでした」

「ジュリエッタ、興奮しすぎ」

 なんでしょう、この感情は。

 乙女の胸を堪能しておいてそんな感想。ジュリエッタは言い知れない怒りを覚えます。

「麻人、少しいいでしょうか?」

 私の変化に危険を察知したのでしょうか。麻人の腰が引き気味です。

 駄目です、逃がしません。

「他に感想はないのですか。例えば実は嬉しかったとか、本当は気持ち良かったとか、もう少し体験していたかったとか」

「いい香りがしたよ――そうじゃなくて、もう少しで窒息するところだったのだから、そんな余裕はないよ」

「そんな、そんなってなんですか!」

「誤解だよ!」

「第一、それってつまり、私の胸は窒息するほどは大きくなかったという事じゃないですか!!」

「確かにあと少し条件が違ったら危なかったもしれないけど、今回のケースではよかったと思うよ」

「小さかったから助かってよかった。そんな感想を聞いて喜ぶ女性がどこの世界にいますか。これでも私は同じ学年では大きな方なのに、窒息できるほど大きくなかったなんてあんまりです!!!」

 いま思い返して、自分でも理不尽な言い分だとは分かってはいるのですよ。

 ですが、麻人の言葉で何かがキレました。

 あれは麻人がわるいのです。

 ジュリエッタは絶対にわるくありません。


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