表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

第二章 〜天秤の永遠〜

『昔々のお話ですが、

ある村には怖い竜の迫害を受けていました。

村では毎年一人の美しい娘が贄に選ばれて竜が住む洞窟に入ったっきり出てきませんでした。

今年、ついに永遠の少女が選ばれてしまいました。

いくら不死者と言えども竜には殺されると思いました。


少女は一人で竜の洞窟へ行かなくてはなりません。

暗い暗い洞窟を一本の松明で進んでいきました。

すると、どこからか啜り泣くような声が聞こえました。少女はその声の方へ導かれるように行きました。


そこには一人の少年がいたのです。

少女はどうして泣いているのと尋ねました。

少年は悪い魔法使いに醜い竜の姿に変えられて洞窟から出られないと嘆きました。

少女は少年を可哀想に思い、周りを探りました。

そこには一対の弓と矢がありました。


少年は構わないから殺してくれと言いました。

少女は嫌でしたが、他に方法が思いつかなくて弓で少年を射抜きました。

その後少女も死のうと思いましたが、永遠の力で死ねませんでした。

そして、今でも少女はその洞窟で死ねないと嘆いているのでした…。』


ネアンシャール童話『怖い竜と永遠の少女』〜引用〜



パタン


リエーテは少し重たいハードカバーの本を閉じました。

今日は初めて街に行く日です。リエーテは少しうきうきしながら外用の少し露出の多い服を着ます。

眼帯も砂塵用に包帯にしています。

「ラナっ!早く行こうよ!」

リエーテはラナの手をがくんがくんと振り回します。

「リエーテ、様、い、たいですか、らやめて、下さい!」

ラナは振り回されながらも拒否の反応を示します。

リエーテもやはり女の子。

買い物が大好きなお年頃なんです。

「あっ、ごめん…つい…久しぶりだからはしゃいじゃった。」

リエーテはちろっと舌を出しました。

ラナはまったくと溜め息をついて少しだけ微笑みました。

「あ!今笑った!ラナ可愛い〜♪」

リエーテはその表情を見て満面の笑みを浮かべました。

「別に笑ってません、少しひきつっただけです。」

ラナは少し横見しながら口調を強くしました。

その顔に少し赤みがさしているのは言うまでもありません。


リエーテはクスクスと笑いながらラナの手を引っ張りました。

ラナも多少は気遣ってか少しラフな服装です。



そして何故か手には二つの小銃がありました。

リエーテはその小銃にびっくりしました。流石にいきなり出されても困りますよね。

「リエーテ様、城の外は何かと危険ですのでお持ち下さい。」

ラナは淡々と言い放ちます。


リエーテは当然、銃なんて殆ど持ったことありません。

使ったのは狩りだけだったんですがそれでも銃は嫌いでした。

「う、受け取れない…。ラナぁ〜…。」

リエーテは涙混じりにラナに寄ります。

本当に子供のようです。


「ダメです。いくらリエーテ様でもこれは持っていただきますので。」

ラナはズイとリエーテに小銃を渡しました。

冷たくて重い感触にリエーテは嫌だなと思いました。


「その双銃は二つで一対ですから取れませんので気をつけて下さい。また……」

ラナの説明が始まりました。

リエーテはうぅと呻いて渋々説明を聞いていました。


あまりリエーテは銃に良い思いがありません。

死んだのも銃に撃たれて動けなかったからですし、無理もありません。


リエーテはこのまま何もない方が良いのになと呟きました。ツタツタ……

少し奇妙な靴の音がします。

その足跡は遠く彼方から続いています。

「永遠の城……義兄さん、僕はまだ帰れませんね…。」

少し落ち着いた言い方でチリンと鈴の音を響かせて城とは正反対に歩き始めました。



リエーテはラナの後ろに隠れてました。

何故かは皆さんも知っている通り、人見知りしたからです。

「リエーテ様、首が痛いので手を離して下さい。」

ラナは少し鬱陶しそうに言いました。

「うぅ……こんなに人がいるなんて知らなかったんだよぅ?しかもみんな見てるよ……。」

リエーテはぐったりしてラナに更にすがりつきます。


ラナも少し目が細くなっています。

少し呆れたようですね?

「当たり前なんです。この辺りにそんなに多く不死者(エルフ)がいると思ってるんですか?」ラナはリエーテの手に自分の手を重ねながら言いました。

「しかも意外と綺麗ですから私から離れたら襲われるかもしれませんね……ククッ」

ラナはにんまりと笑いながら首を90度以上回転させてリエーテに言いました。


リエーテはさらにびっくりしてラナにしがみつきました。

ラナはこの事を予測していなかったのか目を見開いています。

クスッ、本当に仲が良いのでしょうね…リアーミルとよばれる町は比較的大きな町です。

それでも目に留まる不死者はそういません。


「ラナー!これラナに似合わない?」

やっと調子を取り戻したリエーテは洋服選びにパタパタとかけていきます。

「リエーテ様、私にフリルは似合いません。」

ラナは率直にズバズバと言っています。

それでもリエーテのなすがままに来ては脱いでますが…。


その後リエーテが飽きるまでずっと続けていましたが、二人は疲れたらしくラナは飲み物を買ってきますと言って出かけました。

リエーテは約束していた噴水前まで挙動不審になりながらもたどり着きました。


そこはリアーミルで最も代表的な場所らしく、人がワラワラといました。

当然そんな場所にリエーテはいれませんので、物陰に隠れるように逃げ込みました。


「アタシの場所にアンタ何かようかい?」

物陰の先から少し(しゃが)れた女の人の声がしました。

リエーテはびっくりして壁に引っ付いてしまいました。


「…アンタも不死者か、つくづくついてないんだねぇ。」

そう呆れた口調で言いながら女の人は立ち上がって近づいてきました。女の人の服装はつぎはぎだらけの粗末な服で、そして髪は黒くくすんでいました。しかし、一番驚いたのはその人の耳が長い不死者の証だったことです。



リエーテはやはりまだ壁に引っ付いて震えています。

「別に取って食おうなんて考えちゃいないさ。アタシはレイシア、アンタは?」

レイシアはパタパタと手を振ってリエーテに近づきます。

リエーテはおずおずと少し後退しながらリエーテですと言いました。


「アンタも何か?不死者って事は逃げてきたのか?」

レイシアは少しボサボサした髪をかき分けながら言いました。逃げる?何からだろうとリエーテは考えました。

「あ、あの……私は友達と買い物に来ただけで逃げてきてはない、です。」

リエーテは勇気を振り絞って言いました。

レイシアは少し驚いた顔をしました。

「友達って不死者だよな?」

「い、いえ……ちょっと変わった娘だけど人間です。」

リエーテはおずおずとレンガ作りの壁に寄り添いながら言いました。


「やめときな!」


レイシアは急に大きな声をだしました。

リエーテはビクッと肩を震わせました。


「人間なんて『キタナい』んだよ。アタシ達は関わっちゃいけないんだ!」

レイシアは激昂した口振りで言いました。

その次に聞こえたものは図太い男の声でした。


「脱走した不死者を見つけたぞ!他にももう一匹いるぞ!」

その男は仲間を読んでいるような口振りでした。


「チッ!アンタも逃げるよ!」レイシアはリエーテの手を引っ張りその路地裏から駆け出しました。

しかし、所詮は女性の足、別段早くもない2人はすぐさま追いつかれてしまいます。


リエーテは考えてました。

(どうして……私はただいるだけなのに追いかけられないといけないの?

また、私を迫害するの…?

そんなの、嫌だ!)

その時荊の書がささやきかけました。

『こう唱えればいいのだ、愛しき子よ』

そう圧倒的な言葉が脳髄に響きました。

リエーテは無意識にその言葉を紡いでいました。

「バインドワーズ(言葉の呪縛)!」その言葉は遠く澄んだとても美しい旋律でした。

その効果は直ぐに表れました。

「急遽、右変更、女、理論的、追跡!」

男の放っていた指示が全てぐちゃぐちゃになり指揮系統が取れなくなったのです。



2人はその隙に色々な場所を回り、男を振り切りました。


「っはぁ、はぁ、はぁ」

2人は逃げることだけに必死でしたから息も絶え絶えでした。2人はまた物陰に隠れ、息を整えました。


「あの…、あの人達は一体?」リエーテはおずおずとレイシアに尋ねました。

「チッ、不死者狩りさ。」

レイシアは壁をガッと叩きながら舌打ちしました。


リエーテは頭をガンと打たれたような気がしました。


「不死者をあいつらどうすると思う?

捕まえて死なないからって脳をグチャグチャに改造して永遠に動く機械に変えるんだ。

壊れても勝手に治るし疲れもしない。

だからあいつらはやってくるんだよ。」

レイシアは反吐を吐くように言いました。

リエーテは愕然としました。

何故簡単にそんなことが出来るのか、そして平気でいれる彼らが釈然としなかった。

「同じ『人』なのにどうして……、どうしてそんな…」

「同じじゃないんだよ、人間なんてそんなもんさ。だから関わらない方が良いんだ。

違う、不死者なんてあっちゃならないんだよ。」

そうレイシアは歯を食いしばりながら言いました。


「でも、不死者であることってイケない事ですか?」

リエーテは少し言い澱みながらも言葉を返しました。


「いいかい?リエーテ、不死者って者は所詮与えられたモノなんだ、だからアタシには必要なかった。

そんなものにすがるならいっそ地獄でも行く。」

レイシアは遠い場所を見つめていました。


「永遠は与えられたモノ…、でも私は……」

リエーテは呟きました。

永遠が拒絶されるなら自分は誰なんだろうと、

「それじゃあ幸せになれないじゃないですか、幸せになるために不死者になったのに…。」

リエーテは苦虫を潰すように言いました。


「…そっか、アタシとアンタは違うね。アタシの幸せはね、自分で見つけ、そして信じれる仲間がいることさ。

今は仲間さえいないけどね。」

レイシアは軽く微笑みました。それがリエーテの見たレイシアの最後の表情でした。


「リエーテ、友達を待たせてるんだろ?ほら、アタシといないとさっさと行きな。」

レイシアはポンとリエーテを町に押し出しました。

リエーテはそんなレイシアが辛そうに見えました。




「君かい?僕を呼んだのは。」

リエーテが出ていった場所とは反対側に一人の不死者が立っていました。

レイシアはさも当然のようにそちらを向きました。

「アタシさ、アンタ名前は?」

「名前なんて必要ないと思うけど、それが願いなら……。

僕はアージェ・フォン・ブリュンヒルデ。」

闇の中から声がしました。

男の人の顔はよく見えません。

「アージェか。少し願いがあるんだけど、良いかな?」

レイシアは少しだけ思い出して微笑みかけました。

「さっきの娘にこのペンダントをあげてくれないかな?アタシは恥ずかしくてさ。」


「……うん、望みは引き受けたよ。じゃあ、良いかな?」

アージェは優しい口調で闇から少し布に包まれた手を差し出しました。

「あぁ、心は決まってるよ。」

レイシアはふっと哀しい笑顔をしました。

「じゃあ、これで良いんだね。『君の望みは何だい?』」

シャランと鈴の音がしました。

「アタシは仲間の下へ。それが望みさ。」

そうレイシアが言った途端光が満ちました。

「ありがとう、アージェ、あの娘のことよろし……」

レイシアの言葉が最後まで続くことはありませんでした。


残ったのはアージェの手にある赤色のペンダントだけでした。


「リエーテ様!どこに行ってたんですかっ!」

リエーテは当然のことのようにラナに怒られました。

「ご、ごめんなさい…」

リエーテはすごすごと謝っています。

ラナはやはりお怒りのようで、今回はいつもより長いお説教を頂いてました。

終わった後に頭を撫でられたリエーテは少しご機嫌でしたが。

帰り際にある一人の不死者が目を惹きました。

その少年を少し大人びさせた感じで不思議な鎧のような服を着ていました。

「見つけたよ。」

その男の人は言いました。

リエーテは少しびっくりしましたが、不思議と会ったような気がして隠れはしませんでした。

「……リエーテ様に何のようです?卑猥な事の場合は直ちに排除します。」

ラナはリエーテの前を塞ぐように立ちました。

「あっと、失礼。レイシアからの届け物を預かってきたんだ。だから通してくれないかな?」男の人がレイシアの名を口にしたのでリエーテはラナからひょっこりと顔を出しました。

「レイシアさんから…?」

「リエーテ様?」

ラナは不思議な顔をしていました。

アージェはくすりと微笑みました。


「はい、君にあげてくれって言ってたよ。」

そう男の人は言いました。

それは少しくすんでいる赤色を基調にした珠玉のペンダントでした。

「これをレイシアさんが…、それなら何でレイシアさんがいないんですか?」

リエーテはそれを大事そうに受け取ると男の人に尋ねました。

「レイシアは柄にないからってどこかに行ってしまったよ。」それは呆れたようにやれやれと言った口調でした。


「じゃあ、何でそんなに悲しそうなんですか?」

その言葉にリエーテは聞きました。

男の人の表情は呆れながらも楽しそうな顔に見えました。

その顔が悲しそうとはおかしく思いました。

「…フフフ、人には色々あるんだよ。それじゃあ僕は望みは果たしたから。」

そう言って男の人は反転しました。

「君のその手のひらにある鈴、強く念じれば僕はまた君の前に現れよう。じゃあね……」

そう言って男の人は人混みにちりんと袖についている鈴を一際大きく鳴らしながら消えていきました。


リエーテの手のひらにはいつの間にか鈴が一つありました。

「とても澄んでいて美しい…でもどこか哀しい音、あの人のような……。」


コトン、生と死の天秤は今日も旅をする…

鈴の音の願いに導かれて…。




チリン……




「鈴の音……?」

レッグは窓の外を覗きました。

「どうしたのでござるか?」

ジャッシュは物珍しそうに尋ねました。

「さっき鈴の音が……いや、気のせいだな。アイツは今頃…」

レッグは遠い目をして言いました。

その瞳には黒く澱んだモノが見えたような気がしました。

ジャッシュは不思議そうな顔をしていました。


「おっと、悪いな。チェックメイト。」

レッグは今までやっていたチェスの駒をコトンとジャッシュの王の前に動かしました。

「なっ!?ま、待ったでござる!!」

ジャッシュは大慌てでした。

「待ったはなしだ。ほら、続きをしろ。」

レッグはまた煙草を吸い始めました。




チリン…チリン…

窓の側には金のメッキをした鈴がありました。

それはいつの日かあった思い出



さぁ、今回はこれでおしまい。今度はもっと優しい永遠でありますように……。

次のページをさぁめくりましょう…



fin.....




幕間『ラナと黒猫』


リエーテ様に待っていろと言って、飲み物を買ったのは良いにしても…

「待つはずのリエーテ様が何故いないのです……!」

ラナは飲み物を持った両手をわなわなと震わせています。


やはり大分怒ってるようです。毎回毎回怒られるリエーテもリエーテなんですが、


なー。


ラナの足下に何かが鳴いていました。

ラナはそちらへ向くとそこには黒猫が一匹ラナの足下にちょこんといました。

「猫ですか、私に何かようなのでしょうかね?」

クックッと笑い、まったく気にしない様子でつかつかと歩き始めました。


なー。


「……。はぁ、一体何だと言うんですかね。」

少しラナはブツクサ言いながらもどことなく笑顔でした。

ラナは少しだけ猫を撫でてやりました。

猫は気持ちよさそうに目を閉じていました。

「いずれ終わってしまう命なのに猫はここにいるのですか。」

ラナが少し寂しげに呟いた気がしました。


なー。

猫はそんなラナを知ってか知らずかただ気持ちよさそうに鳴いていました…。


幕間fin.....

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ