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第3話

『戦国のファンタジスタ(外伝)』の3話目です。

この小説は本編で起こっている事件の裏側を描くものですので、

ネタバレ防止の為に本編の進行を待っての投稿になります。

のんびり更新になりますがご容赦ください。

「そんなものは全て寿桂尼のはかりごとに過ぎねえ。氏真は万事、寿桂尼の木偶でくの坊だ」


 今川氏真が「女戦国大名」と呼ばれた義元の母、寿桂尼の操り人形であろうという事は信玄や勘助の見方とも一致していた。信春は少し違った印象を持ったようだが、それは体面を繕っただけであろう。


「加勢してくれると言うのはよいが、すでに三ツ者が居る故なあ」


 三ツ者とは甲州透破すっぱとも呼ばれる信玄が作った諜報、調略を主な任務とする忍者組織である。


「無論只でとは言わねえ。土産を持ってきた」


「ほう、それは楽しみじゃ。いかような土産かな?」


「遠州だ。遠江一国、くれてやる。代わりに俺を城持ちにしてくれ」





「今川に当面いかに応対するか、考えどころよのう」


 武田信玄――全国に名の知れた戦国大名である。父信虎を追放して若くして家督を継ぎ、今川義元、北条氏康と甲相駿三国同盟を結んで甲斐と信濃の大半を領した。三国同盟を結んだのは北信濃をめぐり、長尾景虎と幾度にも渡って争っているからだ。後顧の憂いを無くし対長尾に全力を傾けるのが狙いだった。しかし先日、今川義元が織田に敗れて討ち死にしたとの知らせが入った。後を継いだのはかねてより盆暗だともっぱらの噂の氏真。その今川に対し今後どう対応していくか、信玄は考えを巡らせていた。


「少なくとも長尾との戦が続く間は手が出せませぬ。信虎様のことも不問にする他はないかと」


「寿桂尼もそれが分かっておるからこその策であろう。頭の切れる婆よ」


 義元の葬儀に出た馬場信春により、今川に身を寄せていた父信虎が謀反の疑いで追放された事が知らされた。だが同盟関係故に今は下手に手を出せない。屋台骨が揺らいでいるとはいえ、この状況で今川を敵に回す余裕はない。長尾景虎との戦いはそれだけ厳しい。だがそれもいずれは落ち着くだろう。その時の為に今から備えておくべきであった。


「北信濃を手に入れられましたら次は南にございます。港を確保しなければなりませぬ。だが今はまだその時ではありませぬ。すべては長尾との戦が収まった後のこと。今はその時の為にも今川には纏まらず揺らいでおいてもらった方が良いかと」


「そこでその者の策を利用するという事だな。しかしその者、使えるのか」


「腕は確かにございまする。しかもこの武田とは何の所縁ゆかりも無い者。いざとならば――」


「切り捨てればよい、か。だが良いのか、勘助。そちの旧知の者であろうに」


「餌を見せて働かせ、不要となれば捨てる。透破すっぱとはそうして使う物にございます」


「良かろう、では試してみよ。くれぐれも武田とは関わりないものとしてな」


 勘助は深々と頭を下げた。





「信玄公よりお墨付きを賜った。見事やりのけた暁には取り立て城一つ与えるとのことじゃ」


「ふん、そりゃあ流石に見る目があるな」


「ただしあくまで首尾良く遠州を手に入れれば、だが」


「心配はいらん。忍びの誇りに掛けてやってやるさ」


「それを聞いて安堵いたした。信玄公も期待されておられる。励めよ」


「任せておけ」


 藤林長門守は頷くと、そのまま飛び上がり天井裏に姿を消した。それを見届けた勘助は隣の部屋に控えていた武士に声を掛ける。


「誰ぞにあやつと今川の様子を探らせよ。そうじゃな、かつて長尾に仕えておったとかいう流れの忍びが居ったであろう。あれにさせればよい。悟られぬよう注意してな」


 ――忍びか。空手形の餌にかように尾を振るとは憐れなものよの。


 勘助は小さく呟いた。





 ――藤林正保の屋敷


 髑髏ヶ崎館より戻った長門の前に伊賀崎道順と長門の身の回りの世話をするくノ一である桜が座っている。


「お頭、お呼びでござろうか」


「道順、桜、喜べ。武田に仕えることになったぞ」


「そ、それはおめでとうございまする。とうとうお頭の望みが叶うのでござるな」


「そうよ。しかも半蔵如きのように小者じゃねえ。城持ちだ。俺は城持ちになるぞ」


「なんと、さすがはお頭にござる。しかしいかな伝手で左様な話に」


「ふふん、俺の旧知の山本勘助の推薦よ。だがその前に仕事をこなさなきゃならねえ」


「それはどのような」


「氏真や半蔵に煮え湯を飲ませてやることも出来ると言う一石二鳥の話だ。お前にも働いてもらうぞ。この仕事、何としてもやり遂げてお前らをこの惨めな暮らしから引き上げてやる。今まで俺らを見下してきた奴らを見返してやるんだ」


「喜んでお手伝いいたしまする。何をすればよろしゅうござるか」


「道順、お前はまず八城山城主の天野影信あまのかげのぶ、曳馬城主の飯尾連竜いいおつらたつらに揺さぶりを掛けて落とせ。あとは氏真の様子が知りたい。誰か腕の立つ奴を選んで氏真に近づけるんだ」


「では甲賀の鵜飼孫六うかいまごろくを遣わしまする。潜るとなれば孫六の右に出るものはそうそう居りませぬ。服部の子倅こせがれづれに遅れは取りますまい」


「いいだろう。孫六にはくれぐれも半蔵の餓鬼には気を付けるよう伝えろ。あと佐助達には引き続き遠州三河を中心に例の書状を撒かせろ。俺は井伊谷いいのやへ行く。抜かるなよ」


「畏まりましてござる。お頭もお気を付けて」


 道順が出て行くと桜が不安げに長門に話しかける。


「お頭、どうか危ない真似は」


「言うな。お前もくノ一ならば分かるだろうが。これは俺の夢だ。桜はただ黙ってついて来い」


 こうして忍びたちはその目的の為に各地に散った。その願いが虚しい物であることをも知らず、ただひたすらに夢が叶う事を信じて。

氏真くんを登場させないという自己ルールが難しくもあり面白くもあり。

さていつまで守れるでしょうかw

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