9話 二つの三角関係
神代からの突然の告白。
つまりは、初めから女子には興味が無かったというのか……
「お、お前……何を言ってんだよ……」
神代がふざけていないのは目を見ればわかったのだが、こう言うしか無かった。
女の子にも『好き』だと言われた事の無い俺に、同性からの告白の対処法なんてわかれはずがない。
「もちろん、今すぐどうこうという事は無いよ。事実、キミは天吹さんのことが好きなんだろ?」
神代は眼鏡を掛け、髪を下ろしながら聞いてきた。
「あぁ」
俺は小さく答える。
「であれば、ボクの方が天吹さんよりも魅力があることをこれから知ってもらえればいいよ」
神代が元の『爽やか眼鏡』に戻っている。
今になって、神代が『オレの魅力には敵わない』と言った意味が理解できた。『俺が神代に魅力を感じて心が靡く』という意味だったのか。
いや、そんなことあるはずが無いのだけれども……
「今は、キミにボクの気持ちを知っておいてもらえればそれでいいよ」
神代は笑顔で言った。さっきまでの高圧的な神代はもういない。同一人物とは思えない程の変わりようだ。
無言の俺に向かって、神代は最後にこう言った。
「これから、一緒に生徒会活動頑張っていきましょう」
俺は生徒会室で一人になってからもしばらく立ち尽くしていた。
家に帰った後も、脳裏に神代の言葉が浮かぶ。
『お前が好きだ。朝霧春斗』
琴音の時は自然と受け入れられた。だが、己が当事者となっては易々と受け入れられるものでは無かった。
これから、神代と生徒会活動を共にするのだ。これが憂鬱以外の何であろうか。
「いや、それだけじゃねーか……」
独り言を呟きながら起き上がり、机に向かう。
ルーズリーフを1枚取りだし、白地の真ん中に自らの名前を書く。
その上部に『天吹』と書いて上向きの矢印を入れる。
「俺は天吹のことが好きだ」
今行っているのは現状の図示。次いで、左側に『琴音』と記入する。
「琴音は天吹のことが好きで、俺とは幼馴染み兼、恋敵」
言葉の通りに矢印を付け加える。
続いて、右側に『神代』と記して、また矢印を描く。
「天吹は神代のことが好き……かもしれなくて、神代は俺のことを……」
最後まで口に出すのは気が引けた。
白い紙には二つの三角形が描かれた。
「二つの三角関係……ってか……」
何かがおかしいのだが、何も間違っていない。
「しかも、この四人で生徒会とか……」
こんな特殊な三角関係の中心に自分が位置している事が信じられなかった。
どうしてこうなったのだ……。
俺は、夢オチを期待して眠りについた。
『で、神代君とは仲良くなれたの?』
次の日、琴音からのメールで目が覚めた。
『なれたと思う』
琴音には神代の事は話せない。話してしまったら、大喜びで俺達をくっつけようとするに違いない……。
返信はすぐに来た。
『やるじゃん。有彩について話したいから今日放課後』
なんと簡素なメールなのか。女子らしく絵文字かスタンプでも使ったらどうなのかと言いたかったが、琴音からのメールにそんな事期待しても仕方がない。
『了解』
俺も素っ気なく返信して身支度をした。
足取りは、テストの時より重かった。