18話 次期生徒会の休日3
一通り準備を済ませ、ボックスに入る。
「じゃあ始めましょうか!」
そう言う神代の手には、金属製の籠手のようなものが装着されていた。
「神代……それは?」
俺の問いに対して、神代はさも当たり前のように返答する。
「プロテクターだけど……?」
いや、そんなことは見れば解るが……。そんなのを付けてる人間は、テレビでしか見たことねーよ……。
「では、ボクから投げますねー」
そう言いながらボールを持ってレーンに立つ神代。
握られたボールは、先程俺達が選んでいた中には無かった、カラフルなボールだった。
解っていても聞いてしまう。
「神代君……それはなんですか?」
「これは、マイボールです」
別に英語の教科書みたいなやり取りをしたかったわけじゃないんですけど……。
あかん、これ本気のやつや。
レーンに目を向けた神代が投球に入った。
ゆっくりと歩き出し、真っ直ぐにボールを振り上げる。
横にピンと張った左腕でバランスを取り、左足一本で綺麗な姿勢を保ちつつ、投げた。
ボールは右端に向けて直進し、ガターに落ちる直前で左にカーブ、1番ピンと3番ピンの間、所謂『ポケット』に吸い込まれていった。
ガコォォォォォォン! という音の後に、立っていられたピンは無かった。
ストライクだ。
「「すごーい!!」」
女子二人の声が重なる。
神代はドヤ顔でこちらを見ている。
補足するが、このドヤ顔は、『どうだ!? 女達のハートは俺の物だぜ!』では無く、『どうだいハルト? 惚れてもいいんだよ?』であろう。
だからそのウィンクをやめろ……。
「どこが、『少し心得が』だよ! 上手すぎるだろ!」
ツッコまずにはいられなかった。
「誉めてもらえて光栄です」
べ・つ・に、誉めてるわけじゃなーい!!
琴音も天吹も神代の投球を見てテンションが上がっている。
お前の目的は俺なんだろ!? 天吹の心を持っていくな! と、心の中で考えてから、いや別に俺だけを見ろとかそうゆう意味じゃないから! と、一人で言い訳をする。
「さぁ、ハルトの番だよ」
「ハル! あんたもストライク出しなさいよ!」
「朝霧君頑張って!」
天使の応援は嬉しいのだが、この後投げるの辛くないですかね……皆さん?
しかし、ここで逃げられない。
俺は覚悟を決めてゆっくりとボールを持ち上げ、規則的に並んだ標的を狙う。
一度小さく深呼吸をして、投げた。
俺の放ったボールは、一直線に転がっていく。
見るまでも無い。
俺はゆっくりと振り返り、耳を澄ます。
直後、予想通りの音が聞こえた。
――ガコン。
紛れもない、『ガター』だ。