16話 次期生徒会の休日1
次の日、午前9時32分。
集合は10時なのだが、心踊りながら家を出たら早く着いてしまった。
駅前のベンチに腰を下ろして空を見上げると、俺の気持ちを映したような快晴だった。
流れる人波を眺めてみんなを待っていると。
「なんで迎えに来ないのよ」
ふと目をやると、白いノースリーブのパーカーにデニムのショートパンツを着て、頬を膨らませている女の子がいた。
琴音だ。
「逆に聞くが、なんで迎えに行かなきゃならんのだ?」
「近所なんだから、それくらいいいじゃない」
「今日はお前に構ってる余裕など無いのだよ、琴音君」
不貞腐れた琴音を軽くあしらって時計に目をやると、集合時間まで10分を切っていた。ふと、駆け寄ってくる足音が聞こえた。
足音が近くで止まると、待ち望んだ声が耳に入った。
「お二人とも早いですね。お待たせしました」
すぐには振り向かなかった。
サッカー観戦の時、天吹は制服だったので、私服を見るのは初めてだ。心構えせずに見ようものなら、心臓が止まる恐れがある。
一度呼吸を整えて、今から目に映る世界を脳裏に焼き付ける準備をした。
いざ、天使のご尊顔を拝するために目を見開く。
「やぁ、ハルト。お待たせ」
目の前には、白黒のボーダーのTシャツに白シャツを羽織り、黒いパンツを履いた、憎たらしいほど笑顔の神代がいた。
「永久保存したいのはお前の笑顔じゃねーんだよ! 俺のドキドキ返せ!!」
思ったことを口に出してしまい、ふと正気に戻った。
「どうしたのよ……ハル?」
琴音にツッコまれて慌てて誤魔化す。
「いやいやなんでもないなんでもない。おはよう神代。今日もお前は爽やかだなあ、はっはっは」
「あ、ありがとう、ハルト」
流石の神代も少し引いていた。
「奏舞君と朝霧君は仲が良いんですね」
先日、琴音の変装を妹だと誤魔化した時には何も思わなかったが、この状況でそう見えるのなら、天吹は少し天然なんだな、そう思いながら大事な事を思い出した。
そう、天吹の私服である。
目をやると、そこには天使が顕現していた。
天吹は、誰が見ても『清楚』という言葉を思い浮かべるであろう、膝丈の黒のワンピース姿であった。
あまりにも可愛かったので、数秒見とれてしまった。
「あ、あの…… 朝霧君? 私の顔に何か付いてますか?」
怪訝な顔をする天吹に言われ我に返る。
「ごめんごめん。天吹の私服が珍しくてつい」
苦しい言い逃れだったが、天吹は笑ってくれた。
「あたしは?」
「ボクは?」
という、小声が聞こえたが、聞こえないフリをした。