14話 変装する時はバレないようにね
「やっぱり朝霧君! 朝霧君も応援に来てたんですね! いつもと雰囲気が違うのでわかりませんでした」
そのための変装だったのだが、そうは言えまい。
「お、おぅ。奇遇だな天吹」
どうやら隣の金髪少女が琴音だと言うことには気づいてないらしい。
だが、問題はそこでは無い。気付けば冷や汗が頬を伝っていた。
「お隣の方は…… 彼女さんですか?」
ほらね…… そう思われても仕方がない。
話したら声でバレてしまう琴音が、無言のプレッシャーを掛けてくる。
俺としては、彼女がいる等という誤解は解いておきたいのだが、どう誤魔化せばいいものか……
嘘は憑きたくないが、彼女がいるとは思われたくない…… この際仕方がない。
「こいつは妹だよ! サッカーが好きでさ! こんなちんちくりんが彼女な訳無いじゃんか。 あはははははは」
余計な事まで口から出ていたと思い、ちらりと隣人に目を向けると、サングラスの下から明確な殺意が放たれていた。
この後の俺の予定が、『サンドバック』に決定した。
「妹さんでしたか」
天吹は琴音に向かい一礼した。
「始めまして。春斗君と同じ学校の天吹有彩と申します。今後は生徒会メンバーとして春斗君には色々と御迷惑掛けるかと存じますが、どうぞよろしくお願いします」
俺の妹に対してもこの物腰の低さ。育ちの良さが窺える。まぁ、妹では無いのだけども。
琴音は天吹の言葉を聞きながら少しビクッとしたが、その後無言で深々と頭を下げた。
「それじゃあ、俺達はこれで……」
この場から早々と立ち去るために切り出した。
「はい。それではまた」
天吹に別れを告げ、早歩きで外に出た。
「なんとか誤魔化せたか…… 妹だと信じてくれればいいんだけど……」
琴音の反応が無い。『ちんちくりん』と言われた事が相当頭にきているのか。
「どうした? もう天吹はいないぞ? 後、さっきのは誤魔化すためとはいえすまなかった」
琴音と目が合うと、少し怖い目をしていた。
「ハルも生徒会メンバーなんだ。聞いてなかったんだけど」
そこか。てっきり知っているものだと思っていた。
「あぁ、俺は書記で、神代が副会長だな」
「神代君もなの!? 有彩が会長だから引き受けたのに…… 邪魔物が……」
「こっちのセリフだ」
琴音は少し頭を抱えていたが、すぐ立ち直った。
「まぁいいわ。平等な立場って事だし。有彩の足を引っ張ったらどうなるかわかってる?」
「お互い様な。精一杯やるよ」
「よろしい。 ……それと」
琴音の言葉を認識すると同時に、下腹部に重たい衝撃が走った。
「かはっ……!」
肺の中の空気が外に押し出された。
腹を見ると、琴音の右拳が突き刺さっていた。
「誰がちんちくりんですって?」
やはりお怒りでしたか。
「琴音さんはホント素敵です、可愛いです、美少女です」
ほとんど棒読みだったが、琴音はニコっと笑った。
「よろしい」
これと言った成果は無かったが、少なくとも天吹が神代にゾッコンLOVEでは無さそうな事だけわかった。
要するに何もわかっていないようなものだ。
そして、謎が増えてしまった。
天吹が真剣に記していたノート。
マネージャーが試合の記録を取るようなものなのだろうか。
琴音と別れ、家に着く頃、メールが届いた。
「神代……から?」
内容は。
『今日は応援に来てくれて嬉しかったよ。で、隣にいた女の子は何者だい? キミが好きなのは天吹さんでは無かったのかな?』
神代にも俺だとバレていた。
と言うか、あの広い観客席にいる変装した俺に気付いてたのかよ……。
怖かったので返事はしなかった。