男の正体と自分への罰
男「そうだな、まずは順を追って説明しよう。生き物というのは生きている間は栄養分を自分の体内に溜めてエネルギーに変えて生きる為に使う。そして死ぬと生き物は土に還り、体というエネルギー源は分散し、エネルギーは大きな食物連鎖と呼ばれるピラミッド型の世界で循環される。それが人間の持つ肉体と呼ばれる物の末路だ。ではここで1つの疑問が生じる。人間が物を考えるとき所詮は脳味噌で考えるだけなのだろう。しかし、もし人が独自の持っている魂と呼ばれる概念があるのならその魂はどういうものなのかと考えたことはあるか?」
俺は首を横に振った。
そんなことは今までに考えた事もない。
そんなことを考える者はきっと余程の哲学者か、あるいは何処かに宗教を開ける者くらいだろう。
男「その様子では今までそんなことは考えた事がないといった様子だな。よろしい、では説明しよう。先程出てきた魂もエネルギー量も存在する数は等しい。しかし、此処で注目しなければいけないのは其処ではない。確かに魂もエネルギーの量も全体を見たときは数は決まっている。実際にエネルギーはその世界ごとに量は決まっているが全体を見ると1つの数に収束する。しかし、魂は違う。魂は全ての世界で回されている。例えるとお前がAの世界で死ぬとするとその後、肉体はAの世界でバクテリア等に分解されて土に還る。しかし魂はAの世界で死んだ後はBの世界に行き。そしてまたBの世界に死ぬと今度はCの世界に行くということだ。」
男が一区切り事をしゃべったので俺は思ったことを男に聞いてみる。
俺「ということはこの体は元の俺の体ではないということになるのか?」
男「そういうことになるな。」
男は当たり前のようにそう答える。
この男は表情が読み取りづらくてやりづらいな
そういった感想を抱いたが、また新たな疑問が出てきたのでこの男に聞いてみるとしよう。
俺「この世界はどういう所なんだ。明らかに普通の生き物では到底来る必要もない世界のようだが。」
男「ほう。なにか感じとれるのか?」
元々目が覚めて周りを見たときに思ったのだ。
この場所は明らかにおかしいと。
普通に生きている場合には到底感じないであろう。
誰かから見られているようなこの視線。
それと病院ではなくこんな部屋にいることに対してもだ。
そして本能が何か罰を受けたいと思っているこの例えがたい感情。すべてがおかしい。だから俺は疑問に思ったのだ。
俺「色々な複雑で説明のしようがない気持ち悪さがあるんだ。」
男「そうだな、この世界についても説明しよう。」
来た。
これで疑問は吹き飛びすっきりした気持ちでこの世界を過ごせるだろう。
そう思っていた自分がいた。
しかしいつも現実は俺を裏切る。
男「この世界は前世で悪事を働いた生き物が来る場所だ。そしてこの世界で自分の罪にふさわしい罰を受けてきちんと更正できた生き物は来世に行けて、出来なかった生き物はずっとこの世界に居ることになる。更正できた者に対してはもちろんこの世界での記憶は受け継がせたいのだが世界が違うゆえに完璧には記憶を引き継がせることはできない。しかし希に記憶を引き継ぐ者が出てくる。そいつらはよく前世の記憶を持っていると言われているな。半分は合ってるが完璧に覚えていないという点を考えれば半分は間違っているな。もちろん普通の者にも少し、ほんの少しは記憶が宿る。それは夢であったりデジャブとして出てくる。しかし前者のようにそれを自分の記憶とは思えていないので覚えているとは言えない。結局は錆の着いたコインを磨く事は出来るが錆びさせない事は出来ない。だからいつまで経っても犯罪者はなくならないのだ。だから更正出来なかった者はこの世界で留めさせることによって犯罪リスクを減らすようにしている。」
俺「なるほど、そういうことだったのか。」
夢とデジャブの意味を理解できて少し新鮮だ。
これは俺の勝手だが突拍子のない夢を見ることがあるがそれは俺の前世だったのだろう。
そしてまた疑問に思ったことを聞くとしよう。
俺「しかしだ、前の会話で魂は全ての世界で回されると言っていたじゃないか。しかし今の話を聞いていると回されてないじゃないか。」
男「確かに全ての世界で魂は回される。しかし魂の5%ほどはずっとこの世界に留まる。もし、お前がいる世界で狂っている人間がいたら嫌だろう?だからこの世界で更正させて出来なかったらこの世界で隔離する。これは全ての世界で此処だけが許された権限だ。まぁ更正しても老人は道を徘徊したり自分の家族を知らない人だと言い出すことがあるだろう。あれは昔の記憶が蘇り徘徊したり奇妙な動きをとるのだ。家族を忘れるのも忘れたのではなくて、前世の記憶からしたらこの家族を知らないのだ。だから老人はあのような行動をとるのである。」
確かに犯罪者があちこちにいては堪らない。
この世界に感謝だな
俺「では、次の質問をしたい。さっきから出てきている更正とは一体何をすればいいんだ?」
男「そうだな、簡単にいうと軽い罪の生き物も重い罪の生き物も自分の罪を認めると更正したことになる。しかしどちらも自分の罪を覚えていない。そうだろう?お前も考えてみろ。」
そう言われ俺は考えた。確か俺は車から逃げていて車に轢かれて‥なせだろう、それ以上自分の罪のことは思い出せなかった。
俺「何も思い出せない‥。」
俺はそう口にした。
男「だろうな。」
男も続けて答える。
俺「ということは俺も何かしらの罪を持っているんだよな。」
男は頷く。
俺「俺はどっちの罪を持っているんだ?」
男「お前は重い罪だ。」
男は平然と答える
その時、俺は焦りと怒りがこみ上げてきた。
俺は思わず叫んで近くにあった机を叩いてしまった。
その時、男が言った。
男「まだ俺の話は終わっていない。」
それは俺にとって救いにも似た言葉だった。
男「流石に何のヒントも無しに覚えていない自分の過ちを認め更正しろとは言わない。」
俺は先程までの火照りは収まり冷静になろうとしていた。
そして安堵の笑みが少しこぼれた。
男「この世界では重い罪の生き物が軽い罪の生き物と一緒になって答えを探す。軽い罪の生き物は自分の罪を食事を21回食べ終わった後に司令官と呼ばれる者に自分の出した答えを言う。そして合っていれば見事更正し、間違っていた場合はこの世界で一生居ることになる。」
俺「なぜ時間ではなく、食べ物の回数なんだ?」
俺は聞いてみた。
男「この世界には時間という概念が無いんだ。だから分かりやすいように食事の回数で決めている。あとこの世界の皆が共通点を持っている。」
俺「共通点というのは何なんだ?」
男「自分で見つけろ」
優しさもないの欠片もない男だなと思った。
しかし当たり前である。覚えていないとはいえ、俺は立派な犯罪者なのだから。
そう自分を納得させた。
俺「重い罪の生き物はどうやって更正するんだ?」
男「重い罪の生き物は軽い罪の生き物の答えを探すことを手助けしながら自分の答えも探す。」
俺「なぜ重い罪の生き物は軽い生き物の手助けをするんだ?」
男「重い罪の生き物は前世で迷惑をかけ過ぎている。だから次は自分がその分、他人に恩を返すためだ。そして手助けが無事成功し、軽い罪の生き物が更正出来た時、重い罪の生き物へのヒントが出てくる。出てくると言ってもどのように出てくるかは私も分からない。」
なるほど、それなら前世の償いの分も返せて罪も償える。
それなら、一石二鳥ということだ。
俺「手助けに失敗したらどうなるんだ?」
男「軽い罪の生き物は更正出来ず、この世界にずっと居ることになる。それはさっき言った通りだ。他には特に無い。」
重い罪の生き物にはかなりの責任がある。
これは注意しなければいけない。
男「次に重い罪の生き物は軽い罪の生き物を一人でも手助けできなかった場合、その時点で更正不可能と判断され更正出来なくなる。」
厳しいな。
これまでの条件をまとめて考えると他人のことも自分のことも考えなければいけない。
俺はまた不安になってきた。
そして俺は次に思ったことを聞いてみた。
俺「重い罪の生き物の食事の回数は何回なんだ?」
男「90回だ。」
90回ということは一ヶ月か、‥‥時間はあまり無いな。そう自分の中で考える。
男「因みに食事のタイミングで食べなくても回数はカウントされるからな。覚えておけ。」
俺「延命はできないってことか。」
男「そういうことだ。」
くそっ。少し考えていただけにショックは大きかった。
すると男が自分から口をあけて話出した。
男「そして最後に俺の役目を話そう。俺の役目はお前のような重い罪を持った生き物をサポートする事だ。まぁ今の話で資料のほとんどの話をしてしまったがまた聞きたいことがあったら聞いてくれ。」
俺「では、これから一ヶ月は一緒に居るであろうあんたのことを俺はなんて呼べば良いんだ?」
男「柴田と呼んでくれ。」
俺「分かった。柴田。」
柴田「お前は自分の名前を覚えているのか?」
少し考えると頭の中に工藤の二文字が出てきた。
俺は疑問に思ったがこれが俺の名前なのだろう。と納得した。
俺「俺は工藤だ。」
柴田「一ヶ月宜しくな、工藤。」
俺「こちらこそ宜しく。」
こうして俺と柴田の一ヶ月の謎解き、いや罪滅ぼしが始まった。