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最終夜  祈り

 夢の中で、私は私の葬儀に参加していた。ふわふわと空中を漂いながら、自分の墓を前に悲しむ人々を見下ろす。


 新年になったばかりの冷たい風が広い墓地に吹いていく。天気が良いのが何よりだわ。




 列席者の中に彼の姿は無かった。




 それをどこかで寂しく思いつつも、彼らしいと思ったりもする。


 他人から見れば、数回会っただけの人ですもの。あの濃い時間を誰も知らない。それでも、私は彼を愛せたことを喜びに感じるわ。




 ふわふわと漂っているうちに、ふっと見つけた。木の上で枝に座って、隠れるようにして葬儀を見ている彼を。


 ああ。そうやって参列してくれていたのだ。あなたの中に私は残ったのかしら?


 それでも…私のことは忘れてね。いつか。誰か。あなたが本気で誰かを愛してくれればいい。愛するということは素晴らしいことだと知ってくれたらいい。


 そう願うわ。


 身体が無くなっても。私はそれを願い続けるわ。あなたの幸せを願い続けるわ。



 あなたは私のために涙を零してくれるのね。


 たった一滴でも。なんという喜びかしら。




 神様。


 もしも私の願いが叶うのであれば、あなたの御許に行かずに、彼の傍にいることをお許しください。


 彼と共にいることをお許しください。


 神様。


 彼が…いつか愛するということを知ることができますように。


 あなたの愛に気づきますように。


 この世界に、愛が溢れていることを知ることができますように。


 どこかで、誰かが、彼を愛しているということを知ることができますように。




 愛しているわ…。




The End.



沙羅咲です。この作品をお読みいただきましてありがとうございます。アリスと彼が出会ってから別れまでの物語。いかがでしたでしょうか。


作中で扱った事件は、実は十九世紀から二十世紀初頭で実際に欧米で起こった事件を参考にしています。元ネタは何かを探していただくのもまた一興。


またアリスと言う名前は、本文中でもショーンが口にしていますが、19世紀のこのころ(1859年を設定しています)、イギリスでは一番多かった女性の名前です。「不思議の国のアリス」が書かれる前ですね。ロンドンの地下鉄が作られつつあり、イギリスは先進国として技術の最先端を走っていた時代でもあります。


この話は最後が確定していまして、そこに向かって書き続けてきました。というのも、実はこの作品、私の作品の一つである「Red eyes」のスピンオフ作品でもあります。


なお、次のページに蛇足的に番外編「Which Dreamed it?(誰が見た夢かしら?)」が入ります。もしかしたらあったかも知れない未来です。「鏡の国のアリス」になぞらえて…Life, what is it but a dream?(人生とは夢以外の何であろうか?(=人生とは夢である))


よろしければお楽しみください。


2015.06.13 沙羅咲

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