第9夜 マチン(6)
「お嬢様。マーガレット様が…亡くなられたとご連絡が…」
マリーが悲痛な顔をして、私の枕元にくる。あれから数日。きっとこうなってしまうことは、どこかで予測していた。
「身体の内部で、酷い怪我をされていたそうです」
「え?」
毒ではないの? そう聞き返しそうになって、慌てて言葉を飲み込む。
「身体中、酷い傷で。内臓もめちゃくちゃになっていたそうですわ」
ああ。マーガレット。あなたは…そんなにも酷い目にあっていたのね。きっと毒を使っても、使わなくても、先が無かったのだ。
彼はそれに気づいていたのだろうか。気づいていて、マーガレットに最後の選択肢を与えたのだろうか。
それでも…なぜ? 巻き添えになった人もいたというのに…。
しかしそこまで考えて答えが出てしまった。もしもマーガレットが夫を殺したとしたら、不名誉なことだわ。彼女だけではなく、彼女の家族も責められる。
どんな気持ちで無差別殺人などという罪深いことを選んだのだろう。
思い出すのはマーガレットの血の気の無い真っ青な顔。どれだけの心と身体の痛みに耐えていたのだろう。
視界がどんどん歪んでいく。
「お嬢様? お嬢様?」
マリーの声を聞きながら、私は意識が保てずに視界が暗転した。




