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第7夜  囚われ人(3)

 彼がため息をついて、肩をすくめる。


「きっと…知ったらもっと心配になる」


「え?」


「真実は残酷だ。それでも知りたい?」


「もちろんよ。知りたいわ。あなたは何か知っているの?」


「言っただろう? あの結婚式に出ていた男たちの殆どが、あの花婿の性癖を知っているって。いとこ殿の父親も含めて…ね」


「どういうこと?」


「君のいとこ殿は売られたんだよ。あの男にね」


「そ…そんな」


「信じられない? じゃあ、見にいってみようか。夜な夜な、君のいとこ殿がどのような目にあっているか」


 彼は…何を言っているの?


 言っている意味が分からなくて、ぼーっとしていたところに、頭からシーツをかぶせられる。


「きゃっ」


「静かに。目を瞑ってじっとしておいで」


 いつもの浮遊感。シーツの向こうの暗闇に感じる彼の心音。彼の匂いに包まれて、暖かい腕に抱きかかえられる。


 軽い振動と共に、動きが止まった。そっと下ろされて、頭のシーツを避ければ、微かな光で見えたのは、どこかのバルコニーだった。夜の闇の中で何か…うめき声が聞こえる?


「ちょうどカーテンの隙間から覗けるよ」


 彼の微かな声を耳元に聞いて目の前を見れば、締め切られたカーテンに隙間がある。そこから光が漏れていた。隙間から覗き込めば、中の様子を見ることができた。


 見えた光景に思わず声を挙げようとしたところで、彼の手が私の口を覆う。


「ダメだよ。声を出したら」


 耳元の囁き。分かっているけれど、それでも声を出さない自信が無かった。私の口を覆っている彼の手に感謝すら覚える。自分の見ている光景が信じられない。


 床にうごめく白い物体。よく見ればそれは手足を縛られて転がされている人間だった。


(マーガレット!)


 彼の手の平で押さえ込まれていたけれど、思わず声なき声をあげた。さっきから聞こえていたうめき声は、マーガレットのものだった。


 荒縄で縛られ、全裸だ。両足を開かされ腕を後ろで組まされて、胸のふくらみを強調するように縄が彼女の身体に走っている。


 なんて恥辱的な格好…。これが夫婦のすることなの? 


 仰向けに横たわった彼女が、私から見えていた。そして彼女の身体には、無数の紅い傷跡。彼女の目の前に立つ男も全裸で、手に鞭を持っている。彼女の肌の傷跡は、その鞭が作った傷だということはすぐに分かった。


 酷い…。


 彼女の両目からは絶え間なく涙が流れている。綺麗だった金髪すら乱れて、床に広がり汚れて見えた。痩せた男の正体は背を向けていても、その背格好から分かった。彼女の夫だ。夫なのに。それなのに…。


「君に贈りものがあるんだ」


 彼女の夫がそう言って、ベッドサイドテーブルの上にあったものを取り上げる。蝋燭の光の中で、それはキラキラと金属的な光を放っていた。それを見たとたんにマーガレットの目が見開かれて、縛られて動けない身体で精一杯暴れ始める。


 男の手の中にあったのは、大きな針。


「胸の先端に飾りをつけてあげるよ。そのためには穴を開ける必要がある」


 楽しそうな声にマーガレットが震える。男はわざとゆっくりと近づいて、彼女の乳房に手を伸ばす。マーガレットの目が見開かれた。


(やめて!)


 思わず私は見ていられずに目を瞑って、私を支えるショーンの胸に顔を押し当ててしまった。塞げない耳に届いたのは、長く、甲高い彼女の悲鳴。猿轡をされていても漏れ出てきている。


 ふわりとした浮遊感がして、思わず顔をあげようとすれば、苦々しさを含んだ声が耳に届いた。


「もう充分でしょ。目を瞑っていて。帰るよ」


 私の身体は小刻みに震えている。自分が見たものが信じられない。なぜ? どうして? 自分の妻であるマーガレットに、なぜあんなことができるの? マーガレットが何をしたというの?


 思考がまとまらない。


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