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5.大切なのは、後始末

シリアス、というか

今回は説明回です。

 リヴァたちはラバックと合流してから町に戻り、盗賊たちを衛兵に引き渡した。

 これで、依頼は完遂したことになる。


 ギルドの中央にて。


「すまなかった!!」


 ラバックは、リヴァとリザに土下座をしていた。

 二人はなんとかやめさせようとするものの、ラバックはかたくなにやめようとしない。


「いいんですって、先輩。ほら、みんな無事だった訳ですし」

「そうそう。終わりよければすべてよしってね」

「だが、ヴァイタルを連れてきたのは、俺だ。必要もない危険を持ちこんじまった」


 二人は困ったようにお互いの顔を見る。

 土下座とは、している本人が一番恥ずかしい行為だ。

 そして二番目に恥ずかしいのは、されている側の人間なのだ。

 周りの目が痛いから、ラバックには早々にやめてもらいたいのだ。

 そんな時だった。


「やめなさい」

「ごふ!?」


 ラバックは蹴飛ばされた。

 ごろごろと数回転がり、ぴくりとも動かなくなった。

 ラバックを蹴ったのは、女だった。

 燃えるような紅のポニーテールに宝石のような緋色の瞳を持つ、十人中十人が振り向くような美女だった。


「あのねぇ、過剰な謝罪はただの嫌がらせなのよ? ほら、見なさい。この二人の明らかに迷惑がってますよ~って顔を」

「「いやそんなことは思ってないから、ラバ先輩をこれ以上いじめないでェ!」」


 女が毒を吐くたびに、ラバックはダメージを受けたようにのけぞる。

 効果は抜群である。

 女は、二人を追い払うように手を払う。


「ほら、あんたたちも謝罪ラッシュから逃げたければ、早く行きなさい。このコクローチ野郎は私が言い聞かせるから」

「「は、はい。失礼します」」


 その場を立ち去ろうとする二人。

 だが、そうはラバックが卸さない!


「待ァて! まだ謝罪は終わってないぞォ!!」

「うざいしうるさい!」


 女がラバックを羽交い絞めにする。


「ほら、私が抑えとくから早く行く!」

「「わかりましたァ!」」


 リヴァとリザは、そそくさその場を立ち去ったのであった。

 後ろで聞こえる、ラバックの「待ァァァァァてェェェェェェ」という声を聞きながら。





 ラバックは女に簀巻きにされていた。

 芋虫のように這って二人を追いかけようとしたものの、女に踏まれて阻まれる。


「離してくれ、レイダ! 俺は、あいつらに迷惑をかけちまったんだ!」

「だから、いき過ぎた謝罪は迷惑だって言ってんでしょうが!」


 レイダと呼ばれた女は、ため息をついた。


「私たち技能士にとって、トラブルは日常茶飯事。初期のうちから経験できてよかったと私は思うけど」

「……俺だって、軽いトラブルだったらここまでやんねぇよ。けど、今回は、へたすりゃあいつらは死んでた」

「リヴァって子はともかく、リザもいたのに? ヴァイタルってやつ、そんなに強かったの?」


 レイダの問いに、ラバックは頭を振る。


「ヴァイタルを殺したやつが、ヤバいんだよ」

「そんなに? どこの誰?」

「『世界を滅ぼす剣(レーヴァテイン)」、『炎の尖兵(ムスペル)』の一人だそうだ」

「…………マジ?」

「冗談だとしても、笑えねぇよ」


 レイダはため息をつく。


「それで、どうするつもりなの?」

「決まってんだろ」


 ラバックは、神妙な顔で言う。


「後始末は俺がする。それがケジメだ」


 そんなことを言っているが、簀巻きにされているから全く格好がついていなかった。





 リヴァとリザは肩で息をしていた。

 二人が今いる場所は、リヴァの家の前である。


「ラバ先輩、けっこう頑固なところがあるんだよね」

「いや、けっこうどころじゃないだろ」

「あの人、責任感強いんだよ」

「いやだから、いき過ぎだって」

「みんなから、人格は好かれてんだけどねえ」

「まぁ、悪い人じゃないしな」


 はぁ、と二人は同時にため息をつく。


「俺、とりあえず母さんに初仕事終わったこと報告してくるわ」

「あ、私もお邪魔していい?」

「いいぞ」

「わ~い」


 二人はドアを開けて、家に入る。

 二人を出迎えたのは、ポチだった。


「ワン!」

「ポチ、いつの間に帰ってたんだ」

「ワン!」


 リヴァは少し呆れながら、ポチの頭を撫でる。


「あら、リヴァ、帰ったの」


 二階からフローゼが降りてきた。

 彼女の手には、たたまれた服。

 どうやら洗濯物を干していたらしい。


 ちなみに、リザはポチと遊んでいる。


「ただいま、初仕事は無事に成功したよ」

「よかったじゃない。技能士、向いてるんじゃないの?」

「けど、サラリーマンの夢は諦めたわけじゃない」

「いや、サラリーマンは諦めようよ」


 リザがそんなことを言ってくるが、無視。


「俺は、普通に生きる!」

「カイザルさんの息子なのに、普通に生きられる訳ないじゃん」

「俺は、普通に、生きたいのよォ!」


 取り乱し過ぎて、口調がどことなくオネエになっている。

 あまりの気持ち悪さに、女性陣は一歩退いた。


「まぁ、今日はリヴァの就職と初仕事成功をかねてお祝いしようかしら」


 フローゼは微笑みながら、リヴァにそう言った。


「ああ、それとリザちゃんもよければ参加して」

「え? いいの?」

「もちろん。リヴァの仕事に同行してくれたんでしょ? それなら、お礼もかねてね」

「それなら、ご馳走になる!」


 元気にそう返事して、リザはポチと遊ぶのに戻る。

 フローゼは微笑み、厨房へと歩き出した。


「あ、母さん。俺も手伝うよ」

「ありがとう。それなら、野菜切って」

「了解」





 ある小屋で、コーヒーを飲んでいる男がいた。

 男の名は、ディオミス・クライム。

 背中には、刃渡りが一メートもある斬馬刀を背負っている。

 ディオミスは、苛立たしげに足を振り下ろした。

 彼は、あるものを踏みつぶしたのである。



 それは、家庭の天敵。

 またの名を、黒い悪魔。

 Gと呼ばれる、アレである。

 そう、ゴキブリだ。



「まったく、今日はよくゴキブリが出ますねェ」


 また一匹、踏み潰す。

 ディオミスは顎に手をあてて考え込む。


「Gジェット、まだありますかねェ」


 なければ、大変なことになる。

 アレは、一匹見たら三十匹はいると思えなんて言われるほどたくさんいる。

 斬馬刀を使う訳にもいかないし、足で潰すのも嫌だ。


「Gジェット。Gジェット」


 物置をごそごそと探り、目当てのものを探す。

 しかし、目的のものはとうとう見つからなかった。


「仕方ありません。見つけ次第、足で潰しますか」


 武術で最も重要なのは、下半身だ。

 ディオミスは斬馬刀の達人。

 Gを見つけ次第踏み潰すことなど、容易いことなのだ。


「いや、潰されるのはテメェだぜ」


 刹那、三本の炎の槍がディオミスを襲った。



 彼はまったく動じずに、斬馬刀で炎の槍を斬った。



 真っ二つに斬られた槍は分かたれ、ディオミスを間に挟んで彼を素通りする。

 槍が飛んできた方向を見ると、玄関に男が立っていた。

 灰色の短髪に赤の瞳をもつ、顔立ちが整ったイケメンであった。

 そう、ラバック・ベルゼルドその人である。

 ディオミスはラバックを見て、鼻で笑った。

 彼は、ラバックの身体能力が自分の足元に及ばないことを一目で見抜いたのだ。


「どちら様ですか?」

「ラバック・ベルゼルド。ランクEの技能士だ」

「ふ」


 ディオミスは失笑した。

 あまりにセンスのない冗談を聞かされた、そんな失笑であった。

 用件はわかっている。

 洞窟で会った、あの若い二人の技能士のお礼参りといったところだろう。


「ランクE程度の技能士が、私に挑むとは。無謀もいいところです」


 ラバックの戦闘スタイルは、魔法を主軸としたものなのだろう。

 それならば、この間合いはダメだ。

 もう、ディオミスの勝ちだ。


「距離は、たった三メートル・・・・・・・・です。私の勝ちだ」


 ディオミスは無手ではない。

 彼の得物は、刃渡りが一メートルもある斬馬刀。

 それに、手を伸ばせば腕の長さは五十センチは優にある。

 故に、ラバックに攻撃したいのならば、一メートル五十センチ近づけば事足りる。

 一歩で、ラバックを斬ることができるのだ。


「私、挑まれて相手の命を助けてあげるほどお人好しではありませんよ」


 魔法の使い手と武術の達人。

 身体能力の差は歴然であり、攻撃に要する時間も段違いだ。


 魔力で空中に文字を書いて発動するのが、魔法だ。

 魔法には、階梯というものがある。

 階梯が上がるほど、難易度と効果は段違いに跳ね上がる。

 第一階梯は、初級。

 第二~三階梯は、中級。

 第四階梯は、上級。

 第五階梯となれば、世界に名を轟かせるのに十分なほどだ。

『七英雄』の一人、『魔神』は第十階梯まで扱えたと言われている。

 その魔法は、熟練したものでも一階梯書くのも二秒は要する。


「二秒もあれば、私は一歩踏み込んで斬馬刀を三十回は振ることができます」


 ラバックは目を見開いた後、失笑した。


「なにがおかしいんですか?」

「いや、さ。俺をそこいらの、魔導師なんかと一緒にしたのがな。くくく」

「ほう、ならば、あなたはどれほどの速さで書けるのですか?」

「そうだな。一階梯」



「〇・五秒もいらねぇな」



 ラバックは適当に人差し指を横に払う。

 刹那、炎の槍が襲ってきた。


「な!?」

「すげぇな。炎を斬るか。と、言いたいところだが、それはお前の腕じゃないだろ。その斬馬刀、確か触れたものを全て斬る古代遺物(アーティファクト)だな」

「ッ!?」


 常識離れしたスペリング速度。

 古代遺物の効果を一度で看破する知識量。


(この男、危険だ!)

「まぁ、一本じゃ無理か。さっき、三本でも駄目だったしな。それじゃ、八本だ」


 ラバックは、両手の四本の指(・・・・・・・)で文字を描いた。


「なッッッ!?」


 魔法語を描くのは、簡単な作業ではない。

 一階梯書くのだけでも、凄まじい集中力を使う。

 人差し指一本で書くのが、常識なのだ。

 それをこの男は、八本の指で並列平行で行った。

 常識離れにも、ほどがある。

 だが。


「ふん!」


 八本の槍を、斬馬刀であっさり斬る。

 そう。

 ディオミスには、第一階梯の魔法など脅威ではない。

 ラバックの奇行には驚かされたが、それもこれまでだ。

 踏み出そうとし、


「それじゃ、次。〈炎槍〉十六」


 十六本の炎の槍が襲ってきた。

 ディオミスはやはり、斬る。

 だが、対処におわれて近づけない。

 ラバックは笑みを浮かべる。


「頑張ってみようか。〈炎槍〉三十二」


 また、斬る。

 しかし、全ては無理だった。

 何本か、体に突き刺さる。

 この時、気がついた。

 この炎の槍は、直撃しても軽いやけど程度で済むように手加減されている。


「ほら、まだまだ行くぞ。〈炎槍〉六十四」


 必死にさばく。

 だが、三十二本でもとりこぼしたのだ。

 半分以上、もろに喰らう。


「次でラストかな? 〈炎槍〉百二十八」


 目の前に、百二十八本の炎の槍が迫るのを見ながら、ディオミスは思い出した。

 この異常スペリング速度の使い手の噂を。


「そうか」


 炎の槍が突き刺さる。

 全身に、火傷を負っていく。


「貴様、『魔奏者』かァ!!」


 魔奏者ラバック・ベルゼルド

 かの『魔神』の弟子にして、『竜狩りの剣アスカロン』の最高位のエージェントの一人。



 当の本人は肩をすくめた。



「昔の話だ」


 ディオミスは、炎の槍に呑まれて、意識を手放した。


ようやく、次回からコメディーにいきます

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