4.敵キャラ、だと⁉
毎日投稿するはずが、三日坊主になってしまった。
パソコンが親に没収されさえしなければ……ッ!!
前回のあらすじ
ヴァイタル「うへっへへへへ」
リザ「これが、この子の本性か!」
リザはヴァイタルの雰囲気が変わったことを察し、笑みを浮かべる。
「にゃはは~、そっちが君の本性って訳か~」
「くぁはは、まァ、そういうこった」
「で、君はどちら様かな? というか、ヴァイタルって本名?」
ヴァイタルはにやりと笑う。
腕を上げようとし、
「お~っと動かないでね。動いたら迷わず撃つからね~」
「お~お~、おっかねェ。技能士は人殺したら駄目なんだろ?」
技能士は人を殺すのはタブーとされている。
それを犯した者はギルドから追放され、厳罰に処される。
その殺人が、例え正当防衛であっても関係ない。
だが。
「ああ、大丈夫だよ。これ、実弾じゃなくてゴム弾だし。それにさ、こんな言葉あるんだよ」
「ンぁ?」
「バレなきゃ犯罪じゃない」
バレなければ問題ないのだ。
完璧に隠匿すれば、世間にバレなければ問題ない。
人道に反しない範囲であれば、ギルドも目を瞑ることもある。
「技能士ギルド、腐ってるねェ」
「ははは~、外道が野放しになるよりは、マシだと思うな~」
「ほうほう、そう切り返す訳ね」
「さて」
リザは目を細めて、ライフルを構え直す。
「そろそろ、目的を話してもらおうかな。あ~、黙秘権はないからそのつもりで」
「え~、人権は無視かよ」
「私、司法機関の人間じゃないし」
「それもそうだな」
ヴァイタルは、にやりと笑う。
「まァ、上の命令だな。ちょい、探りを入れてこいって言われてさァ」
「探り? 技能士の?」
「いやいや、違う違う。探し物して来いって言われただけだよ」
「探し物、ねぇ」
「そうそ。もらうモンもらっちまったし、やんない訳にゃいかねェ」
「……それにしても、自分で訊いておきながら言うのもなんだけど、ベラベラ喋るねぇ。ありがたいんだけどさ」
「ははは、冥土の土産だよ。お前ここで死ぬし」
ダダン!! と。
リザは迷わず発砲した。
弾はヴァイタルの体をすり抜けて、岩の壁を穿つ。
「チッ」
背後から風切音。
リザは振り向きながら、ブレードライフルを後ろに横薙ぎに払う。
ブレードライフルを長剣で受けて、ヴァイタルは衝撃を逃がすために後ろに跳ぶ。
ヴァイタルは称賛の口笛を吹いた。
「やるねェ。その膂力、あんた本当に女か? 実はオカマとかでも、俺驚かないぞ?」
「うっわ、失礼! 私は正真正銘、女の子だよ!」
「つか、どんな筋肉の構造してんだ? その鉄塊振り回せる筋肉量じゃねェだろ」
「私はちょっと特殊な血統でさ。それより、あなたはどうやって、私の後ろを取ったの?」
「ああ、こいつだよ」
ヴァイタルは、もう砕けてしまった宝玉を懐から取り出した。
「これ、自分がいた場所を誤認させる古代遺物なんだけど、一度しか使えないんだよ」
「古代遺物か」
古代遺物とは、大昔に失われた技術によって作られた代物のことだ。
昔に作られたものだから、ほとんどのものは効果を失っているのだが、まれにまだ力を残してるものもある。
その力は、現代の技術では再現不可能なもので、どれも無比強力なものだ。
「もしかして、その二振りの長剣も古代遺物ですってパターン? めんどくさ」
「そうそう、よくわかったな。さて、楽しませてもらおうか」
ヴァイタルが、ゆっくりと構える。
リザは、口角を吊り上げて言う。
「う~ん、楽しむ暇、ないじゃないかな? 二対一な訳だし」
「そういうこった」
ヴァイタルの背後に、戻ってきたリヴァが立っていた。
ヴァイタルは驚いたように、少しだけ目を見開いた。
「へェ、早いじゃねェか」
「リヴァ、盗賊たちとポチは?」
「盗賊はふんじばっておいた。ポチには見張りを頼んだよ」
「了解。リヴァ、こいつ捕まえるよ」
「後で説明してもらうからな」
リヴァは刀を抜き放ち、ヴァイタルを見据える。
リザはブレードライフルを構え直して、重心を沈めていく。
ヴァイタルは獰猛な笑みを浮かべて、言う。
「Come on」
二人は同時に踏み込んだ。
リヴァは上段からの振り下ろし。リザはブレードライフルを横薙ぎに払う。
ヴァイタルは二人の一撃を、長剣の腹で受けた。
「「ッッッ!?」」
「ハッハー、驚いてやがんな!」
ヴァイタルは力任せに長剣を振り回し、リヴァとリザ前方へと押し込んだ。
二人は距離を取るために、後方へと跳ぶ。
「リヴァ、さっきの」
「あぁ、俺も気づいたよ」
二人が驚いているのは、攻撃を受け止められたことではない。
ヴァイタルの膂力が二人のそれを上回っているのであれば、当然のことなのだから。
先程の攻撃では、手応えが全く得られなかったのだ。
「たぶん、あれは衝撃を吸収してるんだ」
「御名答。こいつの銘は、フェルゼアム。二本でワンセットの古代遺物だ。
こいつは、剣の腹で攻撃を受けることで与えられた衝撃を、九十九パーセント吸収してくれる、優れものよ」
「チッ、防御に優れた古代遺物って訳か」
「そういうこった。そんじゃ、そろそろ攻撃するぞ」
ヴァイタルは踏み込み、間合いを潰しにくる。
速い。
リザよりも、リヴァよりも速い。
「リザ、援護射撃を頼む!」
「オッケー」
リヴァは刀を中段に構え、ヴァイタルに突っ込んでいく。
「ッらぁ!!」
「っはぁ!!」
ヴァイタルは切り上げを、リヴァは横薙ぎに払う。
長剣と刀はぶつかり、
刀があっさり弾かれた。
「馬鹿が! 衝撃を吸収するって言ったろ!? つまりお前は、吸収されなかった一パーセントの力で俺と打ち合ってるってことなんだよ!」
長剣の勢いはまったく死んでおらず、リヴァの顎に吸い寄せられるように迫る。
(やば、死……)
ダダン!! と。
銃声が響き、銃弾が鍔にあたり長剣が弾かれる。
リザの援護射撃だ。
どうやら衝撃を吸収できるのは刀身だけであって、それ以外はできないらしい。
ヴァイタルのできた隙を利用して、後退する。
「ほう、良い腕だな。この暗闇の中、正確に鍔に当てるとは」
「褒めてくれて、ありがとう。リヴァ、大丈夫?」
「ああ、お前のおかげでなんとか」
「さっきから、あいつの脳天撃ちぬこうとしてんだけど、リヴァを盾にするように立ち回ってる。ごめん。私の射撃で撃破は難しそう」
「クソ、あいつかなり対人慣れしてるな」
「そんな訳で、リヴァ、なにか良い作戦とかない?」
「人任せかよ」
リヴァは頭をフル回転させて、考える。
(まず、敵と味方、状況の整理だ)
まず、二体一。
相手は古代遺物もちであり、タイマンでやればリヴァとリザ、両方よりも強い。
相手は作戦などといった小細工はまったく使わず、力押しできている。
(せめて作戦立ててくれてれば、対策立ててこっちの勝利エンドなんだが)
実力はあっちの方が上。
相手は小細工など一切なし。
ならば、こちらのやることはただ一つ。
(こっちが、小細工使うしかないかな)
声をできるだけ潜めて、リザに語りかける。
「リザ、お前も一緒に斬りこんでくれ。俺が決めるからさ」
「オッケー♪」
「お前、一瞬も疑わないなぁ」
リヴァが呆れながらそう言うと、リザは笑う。
「リヴァがそうやって断言して、失敗したことないじゃん」
「うわ~、こいつプレッシャーかけてきやがった」
「プレッシャーに弱い男はモテないよ?」
「プレッシャーの質が問題なんだよ!」
二人の言い合いをヴァイタルは見ていた。
彼はただ、この殺し合いを楽しみたいのだろう。
ヴァイタルは間違いなく、戦闘狂だ。
「もう作戦会議は終わったか?」
「「バッチリだ!!」」
「そいつは楽しみだなァ!!」
リザは正面から斬りこみ、リヴァは後ろに回り込む。
「挟み撃ちにしようってか!? お粗末すぎやしねェか、オイ!!」
ヴァイタルはまず、ブレードライフルをあっさりと受け止め、リザに蹴りを放つ。
リザはブレードライフルを手放して、後ろにさがる。
ヴァイタルは蹴りが空ぶったことに舌打ちし、背後に回ったリヴァに注意向ける。
「ふっ」
リヴァは刀を振り下ろす。
「馬鹿が! 馬鹿の一つ覚えかァ!?」
ヴァイタルはフリーだった長剣を横薙ぎに払う。
金属音が響き、鍔迫り合いになった。
「……………………………………………………………………………………………………あ?」
ヴァイタルは間の抜けた声をあげた。
対するリヴァは、にやりと笑う。
「やっぱりなぁ。思った通りだ」
「なんだと?」
「それ、衝撃を吸収することしかできないんだろ? それなら、こっちから衝撃を与えるんじゃなくて、受ければいい」
押す力が一分しか働かないから、押し負ける。
ならば、その場に踏ん張ることに力を使えば、十割の力を使える。
これなら、鍔迫り合いにはもっていける!
「……成程なァ。まだもらったばっかだから、初めて知ったぜ。ありがとな。次から気をつけるぜ」
「いや、次はねぇよ。自分の立ち位置を見てみな」
顔は動かさず、目を動かして周りを見る。
ヴァイタルは、立ち位置など思考の外から弾き飛ばした。
それよりも彼が気にしたのは、
(あの女、どこいった?)
その答えは、すぐに出た。
「リヴァ、お疲れ様~♪」
リザが立っていたのは、リヴァとヴァイタルの側面。
側面であれば、リザの腕ならば誤射などありえない。
「骨折は我慢してね~」
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!! と。
ブレードライフルが火を噴き、数十もの銃弾がヴァイタルの体を叩いた。
それで、詰み。
ヴァイタルは四肢の骨を折り、倒れ伏した。
「おい、トドメは、テメェで決めるんじゃなかったのか?」
「え? お前、敵の言うことを馬鹿正直に信じたの?」
☆
リヴァとリザはヴァイタルを縛りあげて、彼の前で仁王立ちしていた。
「さて、あなたのバックにいる組織の名前と目的、教えてもらおうかな~」
「負けたんだから、ちゃんと話してもらうぞ?」
「ケッ、やなこったな」
リザはにこにこ笑顔を崩さない。
「技能士って、殺人はダメでも拷問はオッケーって知ってる?」
それ故に、底冷えするような声は恐ろしかった。
リヴァは顔を青くして、彼女を止めようかと思案する。
刹那。
「ワン!」
「きゃ!?」
ポチがリザに突進して、彼女を突き飛ばした。
直後に、横一文字に銀線が走った。
「……………………………………………………え?」
ヴァイタルは呆けたような表情のまま首がずれて、落ちた。
傷口から噴水のように血が噴き出す。
リヴァは、戦慄した。
もしポチがリザを突き飛ばしていなければ、彼女は死んでいた。
「おやおや、外してしまいましたか」
刹那、幾度も銀線が走った。
岩壁が円形に崩れて大穴があき、そこから長身の男が現れる。
流れるような長い黒い髪に、濁った黒い瞳の長身の男だった。
服は、肌に張りつくようなライダースーツのようなものを着ている。
手には、刃渡りが一メートルもある斬馬刀。
「いやはや、私もまだまだですね」
「…………」
リヴァは、まったく動けないでいた。
ほとんど直感で悟っているからだ。
この男は、自分たちとは格が違い過ぎる。
(動いたら、間違いなく殺される)
リザもそう思っているらしく、一歩も動かない。
ポチはリザを護るかのような位置で、男を威嚇し続ける。
「ヴァイタル君を倒しましたか。いやはや、その歳で大したものです。ああ、別に喋っても質問しても構いませんよ?」
人を殺した直後だというのに、気負いが全く見られない。
こいつは、自分たちとは人種がまったくもって別物だ。
「あなた、どうやってそこからきたの? 壁は、最低でも五メートルはあったよね?」
「違いますよ、お嬢さん。八メートルです。そして答えですが……」
再び、銀線が閃く。
線が通った岩は、砂のようになって崩れた。
「このようにして、岩を斬ってきました」
「「…………」」
常識離れしすぎて、二人は言葉を失った。
男はそんな二人を歯牙にもかけず、ヴァイタルの遺体に歩み寄る。
そしておもむろに、フェルゼアムを拾った。
「私はヴァイタル君を迎えにきたんですが、君たちに負けるような弱い子に価値はありません。ですけど、コレは回収させてもらいます」
踵を返して、男は開けた穴から洞窟の外に出ようと歩き出す。
「ま、待て!」
「…………待て?」
男は、濁った黒い双眸でリヴァを見た。
「見逃してもらってる自覚、ないんですか?」
「ッッッ!!」
殺される。
「まぁ確かに、戦いに勝ったのになにも得られなかったというのは、ひどい話ですね」
だが男は、なにもしなかった。
顎に手をあてて、なにやら呟く。
頷いてから、リヴァに言った。
「私は、『世界を滅ぼす剣』が『炎の尖兵』の一人。ディオミス・クライム」
「レーヴァテイン? ムスペル? なんだ、それ」
「後は、ご自分で調べることです。未熟な軍師さん」
そう言い残して、ディオミスと名乗った男は穴を潜ってその場を去った。
「た、助かった」
リザはそう言ってへたれ込み、リヴァも安堵した。
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