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3.初仕事

リヴァ君が、頑張っちゃいます。

 リヴァとリザはギルドの前でラバックたちを待っていた。

 リヴァはポチと遊んでいて、リザは羨ましそうに見ている。


「お~、済まねえな。待たせちまって」


 そんな二人のところに、ラバックがやってきた。

 二人は向き直り、ラバックの傍らにいる男を見る。

 桃色の長髪を軽く結った水色の瞳を持つ、優男だった。

 背中には、二振りの長剣。

 ラバックが優男の肩に手を置く。


「ほれ、自己紹介しろ」

「は、はい」


 優男は頭を一度下げた。


「僕は、ヴァイタル・ルーンバルトです。よろしくお願いします」

「ああ、よろしく」

「あはは、よろしくね~」

「は、はい!」


 三人の自己紹介が終わったのを確認したラバックは頷き、呼びかける。


「よっし、自己紹介は終わったな。そろそろ行くぞ」

「「「はい」」」





 四人は街道を歩いていた。

 ポチは四人の後ろをちゃんとついてきている。

 リザは、ラバックににこにこ笑いながら問いかけた。


「コク……ラバ先輩、盗賊はどこに出るんですか?」

「あぁ、悪い。言ってなかった。盗賊のアジトはもう割れてんだよ」

「ということは、四人で一網打尽ということですか。でも、そいつら軍人崩れなんですよね? なんか、やり方雑じゃないですか?」

「その疑問ももっともだが、どうやらぺーぺーの下っ端だそうだ。情報操作のノウハウはからっきしなんだと」

「ほうほう。規模は?」

「十人だそうだ」

「ふむ。ヴァイタル君は、どれくらい戦えるの?」

「ふぇ!? 僕ですか?」


 ヴァイタルは一度取り乱してから、すぐに落ち着きを取り戻した。


「僕は、そこそこ戦えると自負しています。そこいらのチンピラには負けません」

「それなら私、先輩、リヴァで三人ずつ。ヴァイタル君が一人って感じで行く?」

「俺はそれで構わねェが、リヴァは大丈夫なのか?」

「大丈夫、大丈夫。リヴァは強いから」

「お~い、勝手に持ち上げないでくんないか? そいうのを口火にひれがついても困る」

「え~、いいじゃ~ん」


 ヴァイタルは、一歩退いたところで三人を見ていた。

 彼らは、まるでピクニックのように歩いている。


(この街道には、魔獣だって出るのに緊張感が足りないなぁ……)


 こういうのは、大体二つだ。

 馬鹿か、よほど実力に自信があるのか。


(ん~、前者だったら困るなぁ)





 四人は盗賊のアジトとされている洞窟にたどり着いた。

 彼らは茂みに隠れて、洞窟をじっと見ている。


「う~ん、先輩。本当にここなんですか?」

「情報が正しけりゃな。…………お、来たぞ」


 ラバックが指差した方向へと、三人は見る。

 そこには、八人の男の集団が大きな袋を運んでいるのが見えた。

 男たちの服は汚れているものの、剣や斧といった武器はちゃんと手入れしているように見えた。

 そこはやはり、腐っても元軍人というべきか。

 リヴァはラバックに訊く。


「八人しかいませんね。どうしますか? 乗り込んで、とりあえず全員捕まえますか?」

「あ~、そうだな。夕方まで待つか。で、それまで待って一度も人があの洞窟から出ていかなければ、突撃だ」

「「「はい」」」


~時間潰し中~

~時間潰し中~

~時間潰し中~


 四人は夕方まで適当に時間を潰し続けた。

 それまで、人は一度も出ていなかった。

 ラバックはそれを確認して、一度頷く。


「そいじゃ、突撃するか。全員の得物を確認しようか。まずは、リザ」

「は~い」


 リザは、持ち歩いていた大きなカバンから鉄の塊を取り出した。

 その正体は、突撃銃(アサルトライフル)だ。

 銃身は、一メートルと巨大で銃口のすぐ下には二十センチほどのサバイバルナイフのようなものがついている。


「私が使うのは、見てのとおりブレードライフル。白兵戦も遠くからの撃ちあいもできるよ」

「そいじゃ、次は俺だな」


 リヴァが立ち上がり、腰の刀をさやから抜き放つ。

 刃は濡れているように輝いていて、よく手入れされていることが一目でわかった。


「俺は、見てのとおり刀だ。切れ味は中々のものだと自負してる。これに加えて、ポチと一緒に戦うのが俺の戦闘スタイルだ」

「それじゃあ、次は僕が」


 ヴァイタルは、背中の二振りの長剣を抜く。


「僕のも見てのとおり二つの長剣を使います」


 ラバックは満足げにうなずく。


「よし、全員紹介終わったな。ちなみに、俺は武器を使わない。魔法だけだ」


 魔法とは、指先で微量の魔力を放出し続けてから、呪文の羅列を空中に書くことで特定の事象を起こすものだ。

 属性は、七つ。

 火属性。水属性。風属性。土属性。光属性。闇属性。それに加えて、どれにも分類されない無属性。


「それじゃあ、前衛はリヴァとヴァイタル。中衛はリザとポチ。後衛は俺だ」


 四人と一匹は、洞窟へと入っていく。

 洞窟の中は、暗かった。

 松明すら置かれておらず、光源が全くない。


「俺が光属性の魔法使おうか?」

「「「見つかりたくないのでやめてください」」」


 三人に同時に言われて、ラバックは少しだけへこんだ。

 さらに奥へと進んでいくと、道が二つに分かれた。


「先輩、どうしますか?」


 リヴァにそう問われてから、ラバックは少しだけ考え込んでから、頷く。


「二手に別れよう。俺は、ここで待機する。逃げてきたやつがいたら俺が一人残さず捕まえるよ」

「あの、危なくないですかね?」

「心配すんな、ヴァイタル。リヴァの方は知らないが、リザがいるから安心しろ。そいつがいりゃ、半端な軍人崩れ程度に後れは取らねぇ」

「そういうこと。それじゃ二人とも。右に行こうよ」

「よし、左に行ってこい、てめぇら」

「「はい」」

「え!? なんで!?」





 ラバックと別れて、リヴァたちは奥に進んでいた。

 リザはずっと頬を膨らませて、不機嫌ですよアピールをしている。


「なにさなにさ。ひどいよ。私の逆方向を迷わず指示するなんて」

「いや、流石は先輩だ。俺でもああしたね」

「ねぇ、リヴァ。喧嘩売ってるの? 喧嘩売ってるよね?」

「二人とも、落ち着いてください」


 ヴァイタルは二人に気づかれないように、こっそりため息をついた。

 中間管理職ポジションは大変なのである。

 常識人は苦労するのだ。


「クゥーン」

「どうした、ポチ」

「ワン!」

「わかった。二人とも、どうやらもう近いらしい」

「リザ先輩、僕の中で常識が崩れていく音が聞こえました」

「ヴァイタル君、気にしたらダメ」


 失礼なやつらだ。

 人を非常識みたいに言って。


「距離は、ざっと十メートル。十人全員いるらしい」

「オッケー。それなら、いってこい特攻隊長」


 リザはいきなり取り出したブレードライフルをフルスイングした。

 そして、リヴァをホームラン!


「リザてめぇ覚えてろおおおぉぉぉ……」


 リヴァは暗闇へと消えいった。

 リザの細腕にどこにそんな力があるのか、と疑問になる程素晴らしく飛んで行った。


「ワオオォォン!!」


 ポチは急いで、暗闇に消えていったリヴァを追いかけていった。




「ぶえっふ!?」


 リヴァは、硬くて冷たい岩の床に顔から着地した。

 すごく痛かった。


「いってェ! いってェ! 超いってェ! 覚えてろよ、リザ!! ていうか、俺がこんな目に遭ってるのは、盗賊たちのせいだ! ちゃんと働けよ! 盗賊になんかやってないで、真面目にちゃんと働けよ、ダメ人間どもが!!」

「ほうほう。だ~れがダメ人間だって?」

「盗賊たちだよ! ちゃんとした仕事に就いてたくせに、やめてそんなことやってるんだからな!!」

「いや、俺たちから言わせれば、余計なお世話だぜ。小僧」


 リヴァはこの時、思った。

 自分が今話している相手は、誰なんだろう、と。

 ゆっくりと、後ろを振り返ってみる。

 そこには、なぁぁんと!!



 武器を手に取った、変な笑みを浮かべている、筋骨隆々とした盗賊たちではありませんか!!



「ウェルカム、坊や。ダメ人間たちが、君を存分にもてなしてやる」

「…………」






「え!? ちょ、リザ先輩なにやってるんですか!?」

「にゃっはっは、特攻隊長を送り込んだだけだよ」

「いやいや、一人ですよ!? 危ないですって!」

「一人じゃないよ。ポチだっている」

「け、けど」

「大丈夫だって。半端な元軍人じゃ、リヴァには絶対(・・)に勝てない」


 リザは絶対の自信をもってそう断言した。





 リヴァはめんどくさそうに頭をかいた。

 盗賊たちをその目で見据えて、刀を抜き放つ。


「ほう、こいつ、素人じゃないな」

「流石は元軍人だな。それぐらいはちゃんとわかるか」

「ふむ、中々どうして様になってる。強いな。全員、陣形組んで確実に仕留めるぞ」


 盗賊たちがゆっくり、リヴァを囲む。

 リヴァはなにもせず、囲まれるのを待った。

 囲まれたら不利になるのは子供でも分かることなのに、リヴァはわざと動かなかった。

 それが、盗賊たちのプライドを刺激する。


「かかれ!!」


 盗賊たちは、統制のとれた動きでリヴァとの間合いを潰しにかかった。

 最初に彼を間合いに入れたのは、真後ろから迫っている男だった。

 手に持っている、長剣を振り下ろす。


 リヴァは半歩横にずれることで、長剣をかわした。


「「「ッッッ!?」」」


 盗賊たちが驚いたのも、無理はないだろう。

 なにせリヴァは、後ろを見ることすらなく回避したのだから。

 まるで、男の動きがわかっていたかのように。


「そんな単純な作戦じゃ、俺には勝てない!!」


 リヴァの振り向きざまに放った峰打ちが、長剣を持った男の首筋にきまった。





「策士の才?」


 ヴァイタルは訝しげに言った。

 リザは、にこにこ笑顔を崩さないまま頷く。


「そう。リヴァはね、相手の動きとかを見ただけで、作戦を大体一発で見抜けるんだよ」

「作戦を? 見ただけで?」

「うん。これが恐ろしいほど当たるんだ。私が知る限りでは、一度も外したことない」


 ヴァイタルは息をのんだ。

 動きを見られただけで、作戦が暴れていく。

 リヴァはそれをもとにして、対策を立てるだけで勝ててしまう。

 それが本当なら、リヴァには策を弄するのは逆効果だろう。


「陣形とかも、その例に漏れないよ? それも、頭使って考えて組み立てるものだしね」

「……策士としては、一番戦いたくない相手ですね」

「そだね~」


 リザは、からから笑う。

 そんな彼女に、ヴァイタルは訊く。


「それなら、普通に戦って倒さないといけませんね」

「それが最適解だね。それもそれで、難しいんだけど」





 リヴァは、五人目を仕留めた。

 刀を鞘に収めてから、リーダーと思われる男に向き直る。


「降参したら? あんたら、勝ち目ないのはわかってんじゃないの?」

「お前、俺たちの陣形を一回見ただけで見抜いたな? 一挙一動に至るまで、全てを」

「まぁね。俺、頭脳派だからさ」

「ぬかせ小僧」


 リーダー格の盗賊は、槍を取り出した。


「お前に策を弄するのは意味がないみたいだし、俺が突っ込んで部下が隙を突いていくってやり方でいかせてもらうわ」

「わざわざ教えてくれて、ありがとう。それじゃ、俺もお返しとして正直に言おうか。対決は、一騎打ちだ」

「は?」



「ワン!」

「ごふッ!?」

「ぎゃッ!?」



 突然やってきたポチが、盗賊を二人倒した。


「ポチ、よくやった。その調子で、あと二人よろしく」

「ワン!」


 リーダー格の男は舌打ちする。

 そして、ゆっくりと槍を突進の構えを取る。


「いいだろう。一騎打ちだ」

「だから、最初からそうするしかないって言ってんじゃん」


 ズダン!! と。

 男は踏み込んで、刺突を繰り出した。

 リヴァはそれを見据えて、


「ッざぁ!!」


 居合いを放った。

 居合い斬りとは、鞘走りを利用した最速の剣である。


 その斬撃が斬ったのは、槍の柄。


 武器を失くし、男は膝をついた。

 リヴァは峰打ちを放って、男の意識を刈り取った。

 息を吐いてからポチに向き直ると、ポチは二人の盗賊の上でお座りしていた。


「ポチ、お疲れさん」

「ワン!」





 リザは得意そうに語る。


「リヴァ、一騎打ちで正騎士を負かしてるから、普通に強いよ」

「成程。半端な軍人崩れじゃ、勝てないってことですか」

「そういうこと」


 騎士の本分は、守りにある。

 正騎士ともなれば、その守りを崩すのにちゃんと訓練した兵士二人がかりでやっとだ。

 それを一人で負かすのなら、相当な腕だろう。


「リヴァのお父さんの名前は、カイザル・クシャトリア」

「『賢』の称号を賜った、あの無敗の百騎士長!?」

「そう。リヴァはカイザルさんの息子なの」

「でも、そろそろ行きませんか? リヴァさんが心配ですし」

「う~ん、そうもいかないんだよねぇ」


 ガチャリ、と。

 リザはヴァイタルの頭に銃口を向けた。


「ちょ、ちょっと何のつもりですか!?」

「にゃはは~、気づいてないと思ってた? あんた、ラバ先輩と別れた後、ずっと私かリヴァと戦りたそうにしてた」


 ヴァイタルは、薄く笑みを浮かべた。

早くコメディー路線に乗っけたい

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