1.普通に生きたいと誓う、であります
さて、実質的な一話目です。
最初はシリアスっぽくなりますが、頑張ってコメディーにしていくつもりです。
騎士とは、国を護るのが仕事だ。
彼らは、王を護り、民を護り、国を護る。
おとぎ話でも、主人公のほとんどは騎士であることが多い。
そんな、騎士にあこがれる少年が一人。
「次、リヴァ・クシャトリア! ……ってまたお前かッ!」
「はい! というか、またってなんだよ!」
騎士になるためには、座学など必要ない。
そんなものは、あとで叩き込んでしまえばいい。
騎士にために必要なのは、実技の選抜試験に合格するだけ。
「あ~、まぁ、うん、その、なんだ。頑張れ?」
「言いよどんだ挙句に、応援の言葉も疑問形だし」
刀を腰に提げた青年、リヴァ・クシャトリアは試験官を半眼で睨んだ。
顔は中々端整で、黒の短髪に黒の瞳を持つ青年。
「で、希望は…………お前、また従魔士を選んだのか」
試験管はため息をついてから、少年の傍らで尻尾を振っている金の体毛をまとっている狼を見る。
「ワン!」
鳴き声は犬だが、狼である。
サイズは、大体中型犬くらい。
リヴァ曰く、まだ子供らしく、まだ成長期が来ていないらしい。
「お前なぁ。いい加減、剣士で目指せよ」
「嫌だね! 俺は、ポチと一緒じゃないと嫌なんだ!」
「ワン!」
狼なのに、なぜその名前と鳴き声なのかという疑問は、永遠に出ることはないだろう。
「だが、それでお前は、三年この試験を滑り続けてるだろうが」
「うっ」
そうなのだ。
リヴァは、三年試験を受け続けて全て不合格となっている。
目の前の男は友人であるのだが、手心は全く加えてくれない。
もしかして、口調がダメなの?
「だ、大丈夫だよ! 今年こそ、絶対に合格してやるんだ!」
「本当に?」
「もうこれ以上、耐えられないんだ!
母親からは穀潰しとか言われるし、幼馴染からはニートとか言われるし!」
「そうか、お前も大変だな」
「同情するなら、合格にしてくれ!」
「それはそれ、これはこれ」
「ちきしょうが!」
「あはは、まぁ、合格すれば済む話だろ?」
「…………………………………………うん」
試験官は頷き、ボードをペンで叩く。
「それじゃ、始めるぞ」
「おう」
試験官は手早く、ボードにペンで字を書いていく。
『お座り→お手→おかわり』と、彼は書き上げた。
「それじゃ、この順番でポチに芸をやらせろ。それが今回の試験だ」
「おっし、任せとけ!」
「ワン!」
試験官は大きく頷いてから、開始を促す。
リヴァはそれを正しく認識し、ポチに命令を下した。
「ポチ、お座り!」
「ワン!」
「…………それは伏せだ」
リヴァはポチに冷静に指摘した後で、すぐにはっとなる。
これが試験であることを思い出したからだ。
恐る恐る、試験官の顔を見てみると、
なんと彼は、輝かんばかりの笑顔であった!
「もしかして、今回は」
「喋るな」
ぺーん、と。
そんな擬音を出しそうな勢いで、試験官はリヴァの顔に『不合格』と書かれた札を貼りつけた。
☆
リヴァは顔に札を貼りつけたまま、まっすぐ立った状態で腕を伸ばし、ジャンプだけで移動するという移動方法で帰路についていた。
三歩後ろには、ポチがついてきている状態で。
妖怪キョンシ○が、狼を連れて歩いている光景。
シュールである。
だがリヴァは、そんなことを考えられるような余裕が存在していなかった。
「終わりだ。もう、終わりだ。終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終」
思考に異常をきたしていた。
しかし、それは仕方がないのかもしれない。
リヴァの父親は、騎士だった。
そんな父にあこがれ、自分も騎士になろうと志した。
殉職した父に代わり、母親から武術を教わった。
彼は必死に努力をしてきた。
その結果が、不合格という厳しい現実であった。
自宅に到着し、ドアを開ける。
「ただいま~……」
「お帰り~。その様子だと、試験はダメだったみたいね」
リヴァの声に、よく通る澄んだ女性の声が返ってきた。
艶やかな漆黒のストレートの長髪に、大理石のような美しさを持つ瞳の、絶世の美女といっても過言ではない女性だ。
彼女は、フローゼ・クシャトリア。
クシャトリアという名前からわかる通り、リヴァの母親である。
彼女はもう四十代のはずなのだが、二十代だと主張しても誰も疑わないほどの美貌を持っている。
「リヴァ、あんた、いつまで私のすねかじり続けるつもりなの?」
「う、うぐぐぐ」
フローゼは、女手一つでリヴァを育ててきた。
当然、苦労したが、愛情も注いできた。
その結果、手塩にかけて育ててきた息子がニートになってしまったのだから、幻滅もするだろう。
「俺さ、もう騎士になるのは諦めるよ」
「………………………………そう」
リヴァの言葉に、フローゼは少しだけ残念そうに返した。
彼女の、息子がニートから早く脱出してほしいという言葉は本当だが、夢を諦めると言われて喜べるような人間ではない。
「それで、どういう職業に就くのかしら?」
「う~ん、普通にサラリーマンになろうかなって」
「断言するけど、あんたには絶対に合わないわよ」
「けど、誓ったんだ。夢を諦めるからには、普通に生きるって」
まずそもそも、サラリーマンとして生きる=普通という認識を改めるべきだろう。
彼らだって、毎日必死に頑張っているのだから。
そしてさらに、なぜ夢を諦めるからには普通に生きるという考えに至ったのか。
その答えは、フローゼにすらわからなかった。
「けど、サラリーマンはやめときなさい」
「う~ん、それじゃ、とりあえずハロワに行ってみるよ」
リヴァは踵を返して、ドアノブに手をかける。
「俺、どんな仕事に就くかはわからないけど、頑張るよ。それで、できるだけ自立できるように頑張る」
「そう。いってらっしゃい」
リヴァはドアノブをひねる。
刹那。
バーーーン!!!!!! と。
突然押し開けられたドアに押しつぶされた。
「そ~んなリヴァ君に、この超かわいい幼馴染であるリザちゃんが、あなたにピッタリな仕事をご紹介☆」
ドアを開けたのは、茶色の髪を肩にかかる長さまで伸ばした、赤色の瞳を持つ少女だった。
彼女は、リザ・マグレーゼ。
リヴァの幼馴染である。
リザは、室内をきょろきょろと見回す。
そして、リヴァの姿が見えないことに首を傾げて、フローゼに訊いた。
「おばさん、リヴァはどこに消えたの?」
「ドアと壁の狭間」
そう言われて、リザはドアを一度閉めて、壁にめり込んでいるリヴァを見つけた。
「うわ、見事にめり込んでる」
「謝罪の言葉はどうした!?」
リヴァの叫びに、リザは苦笑いしながら頭に手をあてる。
謝罪の言葉を口にするつもりは、どうやらないらしい。
「そんなことより、私が仕事を紹介してあげるよ。大丈夫。私の手にかかれば就職率はなんと、百パーセント。これでニート卒業! やったね☆」
確かに、仕事を紹介してくれるという話はありがたい。
これからハロワに行ったとしても、確実に就職できるとは限らないのだから。
「だが断る!」
「なんで!?」
リザの叫びに、リヴァも叫びでもって返す。
「お前が絡むと、ロクなことにならないからな! 俺は、普通に生きると決めたんだ!」
リザはムードメイカーであると同時に、トラブルメイカーでもあるのだ。
リヴァもそれで昔はよく迷惑をこうむった。
「そんなことない! 絶対に損はさせない!」
「ほう。それなら、お前が紹介する職業を言ってみろよ」
「それはもちろん、私と同じ技能士だよ!」
「やっぱり」
技能士とは、町の住人、軍、政府などからの依頼を受けてそれをこなす、いわゆる便利屋みたいなものだ。
仕事は幅広く、落し物や家出猫の捜索から魔獣の討伐まで、報酬さえ出せばなんでもやる。
そしてリザは、その技能士として活躍している。
「技能士とか、普通からかけ離れちゃってるでしょうが!」
「え? リヴァ、自分が普通に生きられると思ってんの?」
「…………なんで?」
「私がしつこくリヴァを誘い続けるから!」
「帰れ!」
即座に叫び返した。
口論を少し離れたところから見ていたフローゼが、二人に言う。
「いいんじゃないの? リヴァにはそっちの方があってると思うわよ」
鶴の一声であった。
「よっし、それじゃ行こうよ!」
「嫌だァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
リヴァはドアを開けて、全力で走って逃げだした。
だが、そんなことが叶うはずもなかった。
悪魔に一度見初められたら、終わりなのだ。
「ポチ、確保!」
「ワン!」
ポチはまだ子供とはいえ、狼である。
人間は、犬に足の速さでは勝てない。
そんな訳で、リヴァはポチにあっさり捕まった。
「ポチ、離してくれ! 俺は逃げなくてはならないんだ!」
「クゥ~ン」
ポチはリヴァの懇願など耳に入らないようで、リヴァの顔を舐め続ける。
そんな一人と一匹に、リザが笑顔で歩み寄ってくる。
「にゃはは~、それじゃ行こうか~」
どこからか取り出した縄で手早く手足をふんじばって、縄を棒にくくりつける。
今のリヴァは、狩られた猪が運ばれる時のような格好だ。
「よいしょっと」
リザは、リヴァがくっついている棒を軽々と肩に担いだ。
この動作で、彼女の実力の一端が垣間見えているのだが、誰も気にしない。
「レッツ、ゴ~♪」
「お助けぇえええええええええええええええええ」
☆
騎士選抜試験会場
試験官である男は、ため息をついた。
「あ~あ、もったいないなぁ」
彼は、写真を見る。
そこに映っているのは、リヴァであった。
「あいつ、馬鹿だよなぁ。素直に剣術だけで試験受けてりゃ、確実に受かれただろうに。その後は、あの人みたいに、大成できただろうになぁ」
頭をかいて、めんどくさそうにぼやく。
「ん~、上に言って、試験のやり方の変更を提案してみるかな」
今回は短めですが、次回からは4500~文字でいくつもりです。
よろしくお願いします。
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