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飛行士の戯言

作者: 狭霧/失樂宴

遠い昔にその子がこの世からいなくなって

僕は周りの人から その子は天国に行ったんだと教えられた


その晩僕は考えて、その子がいるであろう天国の場所を探そうと決めた


最初僕はその子が泡となって消えた海に天国があると仮定し

何日も海に飛び込み続けた


台風でもやってこない限り穏やかに揺らぐその海は

波間から注ぐ太陽の光で明るく照らされ 確かに天国のように美しかった

 

やがてその町で一番素潜りがうまい子どもとして評判になったが

その美しい海の中にその子の姿はなかった


それから少し成長し 天国とは空にあるものだと知った

僕は特に裕福でもなかったため 当てもなく飛行機に乗ることなど到底できなかった


山に登れば少し空に近づけるのではないかと思い始めた僕は

その日から海に潜ることをやめ ただひたすら上を目指し始めた


脆い足元を彩る木洩れ日 人間が立ち入ることを拒むような岩場

肺が苦しくなるほどの生命の気配を吸い込んだ


頂上から見下ろす雲海は確かにここが空に近いことを示してくれたが

同時に 雲を錯覚させる霧は ここはやはり空ではないこと

その子がいるであろう天国ではないということを諭した 


もう少し大人になって やはり天国と言うのだから空を目指さなければという結論に至った

さらに考え 天国とはそう簡単に訪れることができるほど近くにはないだろうとも思った


ならば大気圏を突き破った見知らぬ世界にその場所はあるのではないか


星が瞬く暗闇に手を伸ばしたのは そんな不純な理由からだった


今思えば天国に行く方法など 刹那の苦しみに耐える覚悟があればいくらでもあったのだ

それらをしなかったのは 結局その子が天国にいるなどと言う事実を認めたくなかったからだ


あの時純粋に天国を探そうとした子供は成長し 天国の存在などほとんど信じない大人になった

その子の顔も名前も 上から積み上げられた知識や記憶の下に埋もれ 

今となってはそんな事実があったという思い出しか残っていない


天国を探さなくなった僕はしかし 宙に手を伸ばすことを諦めはしなかった

今は星の海を航海している 目に映る故郷は青い

考えてみれば僕の無垢な少年時代を守ってきたあの球体こそが天国だったのではなかろうか

得体のしれない闇に身を投じることはなかったのではないか

そんなことが度々頭を過ぎってゆくが あの日この場所で天国を探そうとしたことに後悔はしていない

青い空を眺めてそんなことに気が付けるほど 僕の頭はうまく作られてはいないのだから


僕が天国と言う名の絵空事を再び信じる日が来るかどうかはわからないが

少なくともその名を聞いて想う世界は 光が揺らぐ暗闇ではないだろう

再び天国の存在を信じ始めた何時かの僕は きっともっとあたたかな場所を想像するに違いない


その子が幼い姿のまま行き着いたであろう天国も あたたかな世界であることを切に願う

もともと写真に貼り付ける文章を考えていたはずなんですが、気が付けば1000字近くになっていました。試しに貼り付けてはみましたが字が小さくなりすぎて残念な結果になったので、再度編集してこの形に落ち着かせました。

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