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僕のメイドは従わない

作者: 阿津沼一成

「ふう、やっと終わった」


そう言ってキリヤは机の上に向けた顔を上げた

机の上にはノートと教科書・・・それと課題のプリントがあった


とりあえず全て埋めることが出来て、なんとか宿題の体裁は整えることができた


「中央の学校はレベルが高くて、ついてくのがやっとだな・・・」


一人そうぼやく


彼の名はキリヤ・ロブ・ハイブリッジ


この国の辺境に位置する土地の地方領主の一人息子である

年は15

生まれ故郷の土地を離れ、首都にある国立の学院に数ヶ月前から通い始めている


現在、彼が住んでいる屋敷は実家の古城に比べればかなり小規模ではあるが、それでも自分一人と数人の使用人が住むには広すぎるくらいだった


帝都は彼が住んでいた片田舎より人も物も多く物珍しかったがそれも最初だけ

騒がしいこの中央より静かな生まれ故郷の方が彼の性には合っているらしい


「さて、それはともかくとして・・・」


課題のために疲れた目を揉みほぐしながら彼は椅子に座ったまま背後を振り返る


「ねえ、マリエ?君は確かベッドメイクに来たんじゃなかたっけ?」


彼が呼びかけた先

そこには彼がこの屋敷で使用しているベッドがあり・・・

そしてその上には白と黒の地味な色合いの使用人服・・・いわゆるメイド服を着た少女が寝転がっていた


俯せで足をぱたぱたさせながら女性雑誌をめくっていた少女が名を呼ばれて顔を上げる

ほぼ無表情、しかし顔の作りは端正で美少女といって差し支えない娘だった

年の頃は15、6・・・キリヤと同年代だろう

髪は闇夜のような漆黒だった


「キリヤ様、なんか言いました?」


「言いました。・・・ねえマリエ?君はベッドメイクに来たって言ってたよね?もう小一時間ほどそうしてるように見えるけど?」


「ああ、そうだったかも知れませんねえ」


そう言いながらマリエと呼ばれた少女は再び雑誌に目を落としページをめくりはじめる

その姿を見てキリヤは思わず溜息が漏れる


「いいじゃないですか。少しサボらせて下さいよ。メイド長にこき使われて疲れてるんですから」


そんなことを言ってはいるが疲れているようには見えない

そもそもこの屋敷での彼女の仕事など数えるほどもないはずだ


やれやれと思っていると部屋のドアをノックする者がいる

椅子から立ち上がりドアに向かうとその背中に声がかかった


「あ、キリヤ様。メイド長だったらなんかテキトー言って追い返して下さいません?まだ読み終わってないんですよ、これ」


と、雑誌から顔も上げずそんな事を言ってきた


おかしいな、確か彼女は僕のメイドだったと思うんだが・・・

また溜息が漏れる


湧き起こる疑問に蓋をしてドアを開けるとそこに立っていたのは彼女が予想した通りの人物だった

白髪混じりの初老の女性

この屋敷の家事の一切を取り仕切るメイド長のオリヴィアだ


「やあ、オリヴィア。どうかしたかい?」


キリヤの言葉にメイド長は眼鏡の奥の瞳を細めながらこう言った


「キリヤ様、こちらにマリエが来ていませんか?姿が見当たらないのです。・・・全くあの娘ときたら目を離すとすぐサボろうとして・・・。いったい本家ではどのような教育を受けていたのやら・・・」


メイド長の嘆きにキリヤは苦笑いで返す


「ああ、マリエなら来ているよ。・・・えーと、彼女には今ちょっと仕事を言い付けていてね。それが済んだらすぐ行かせるようにするよ」


キリヤの言葉にメイド長は怪訝な表情を浮かべる


「仕事、ですか?一体どのような・・・」


そう言ってキリヤの背後を覗きこんだ彼女はわずかに目を開くと一歩後ろに下がって頭を下げた


「失礼致しました。・・・・・・坊ちゃま、親元を離れてハメを外したい気持ちも解りますが、ほどほどになさいますよう」


「うん?ああ?」


メイド長の忠告に怪訝な気持ちを感じながらもそう頷くと彼女はもう一度頭を下げ立ち去った


なんの事を言っていたのだろう?

ドアを閉め、不思議な心持ちで後ろを振り返ると、ベッドの上に座ったマリエが外したブラウスのボタンを留めていた


「な、ななななな何やってんのマリエ!?」


「はい?ブラウスのボタンを留めてます」


彼女はしゃあしゃあとそんなセリフを吐いた


「それは見れば解るよ!なんで留めてるのさ!?」


「外してたからです」


「そうじゃなくて何の意味があって・・・!?」


そこでキリヤは先ほどのメイド長の態度と台詞を思い出し愕然となる


そんな彼の表情を見て取ったマリエは、


「私はただキリヤ様のベッドの上でブラウスのボタンを外して留め直していただけですの。それを見たメイド長がどのような下衆な想像を働かすかなどは私が関与することではありませんわ」


と言って無表情のまま口の端だけ上げて、笑った


「マ、マリエェェェェぇぇぇぇぇぇぇ!」


そんな彼女に対してキリヤは泣きながら叫ぶしかできなかった



しばらくの後、キリヤにとって物凄く不名誉な噂話が使用人の間に広まることとなるのだった




違う話も書いてみたくなって書いてみました


こちらの作品の続きは不定期掲載となると思いますので短編としました


連載中の作品「プロミステイク」も読んで頂けたら幸いです

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