番外編2:ベクラール家当主のとある一日
ナナオが戻ってきて、少し後の話です。
私、クラリス・ベクラールの一日は秘書のルーファスとの朝食兼予定確認で始まる。
私は朝が弱くて、さすがに今は自分で頑張って起きるけど昔は「お嬢様。朝ですよ」とルーファスに毎朝起こされていたという恥ずかしい過去がある。
昨年までは祖父母も一緒にこの屋敷に住んでいたのだけど、ある日突然、祖父が「私が教えるべきことは全てお前に教えたから、これからは別邸で隠居生活を送る。これからはルーファスと協力して頑張るように」と宣言し祖母とともに屋敷を出てしまった。今は王国内を回るのだ、と気ままな旅暮らしをしている。
そのため、ベクラール家の本邸は使用人とルーファス、私だけだ。
「おはよう、ルーファス。今日の予定に変わりはない?」
「おはようございます。クラリス様。今日は午後1の時にフローラ・クレヴィング様がいらっしゃる予定だけです。」
「ありがとう。厨房のリーズにフローラさんの好きなお菓子を作ってもらえるかしら。聞いてみないとね」
「かしこまりました。お嬢様」
「もうっ。ルーファス!お嬢様は止めてって言ってるでしょう。私もう28なのよ」私は抗議をするが、こういうときのルーファスの答えはいつも同じ。
「申し訳ありません、クラリス様。ですが私にとってはいつまでも大切なお嬢様ですから」そして、ルーファスは私にだけ笑うのだ。
「クレヴィング様。お茶をどうぞ」
「ありがとう、シュミットさん。」
ルーファスが手ずからお茶を入れるのは彼が気に入っているお客様だけだ。お茶を入れて部屋から出ようとしたルーファスをフローラさんが引きとめた。
「ちょっと待って、シュミットさん。あなたにも同席してほしいの」
フローラさんに言われて、ルーファスは私たちから少し離れた場所にある椅子に座った。
「そこじゃなくて、こっち。クラリスの隣に座ってちょうだい」
「はい・・・」ルーファスが私の隣に座った。いつものルーファスの香りがすごく近く感じる。
「今日はね、結婚式の招待状を持ってきたの。あなたたちに揃って出席してほしくて」
「え・・・でも、私。妹があんな騒動起こして、迷惑じゃ・・・」
「何言ってるの!私とヒースの招待客にあなたたちを迷惑だと思う人間はいないわよ」
「クレヴィング様。私もですか?」ルーファスもちょっと驚いて(でもそれは私にしか分からないだろう)フローラさんに聞きなおしている。
「そうよ。シュミットさん。女性には男性のパートナーが必要なの。あなた、クラリスを知らない男性に安心して任せられる?私なら心配だけど」
「・・・わかりました。クレヴィング様にはかないませんね」
「そうそう。ナナオとデルレイも招待してるのよ。」
「・・・やはり私が行っては不愉快ではないでしょうか」
「バカいわないで。ナナオはあの妹には怒ってるけど、あなたのことは全然怒ってないよ。私の結婚式を利用して、ナナオと話してみたらどう?あなたたち、たぶん気が合うわよ」
「そうでしょうか」
「そうよ。シュミットさんもそう思うでしょ?」
「私は、判断できるほどあの方を知りませんから。ですが、そう悪い人では無さそうだと思います」
私たちはフローラさんの招待状を受け取った。
フローラさんが帰った後、改めてルーファスがお茶を入れてくれる。
「ねえ、ルーファス。フローラさんが言ってたナナオさんのことは本当かしら」
「私には判断できかねますが、クレヴィング様のことは信用できますから。それにしても今回は押し切られてしまいましたね。お嬢様」
「そうね・・・でも、楽しみだわ。フローラさんの結婚式」
「そうですね。」ルーファスが微笑む。
普段無表情なルーファスは私の前でだけ笑ってくれる。
いつからか、私はルーファスの笑顔を見ると胸が苦しくなるようになっていた。そしてルーファスに知られないようにするのも上達した。
知られてしまうと、ルーファスが私の目の前からいなくなってしまう気がするから。
読了ありがとうございました。
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主役がでてこない・・・
フローラが結婚したのはナナオが日本から戻ってきた後という
ことになっております。