72.デルレイの日常-2
ランス様も加わる。の巻
王宮付魔道士は、王国内のトラブルシューターの役割を担っている。さらに国内や他国の動向なども調査したりする。
様々なところから調査依頼がまず魔道士長のところに集められる。魔道士長は内容に応じて担当する魔道士を決めて、調査を命じるというのが基本だ。でもさすがに王都にいる魔道士だけでは王国全てを見ることは不可能なので、各主要都市の宰相府にいる魔道士にも調査を命じている。
ちなみにフローラの婚約者・ヒースは南の貿易都市テオファリアとその周囲を担当している魔道士だ。
俺はいちおうランス様の懐刀などと言われていて、魔道士長不在のときは代行する権限が認められているが、実際のところはランス様から一番面倒な依頼を押し付けられる魔道士という位置づけが正しい。
「デルレイ。ナナオちゃんの国の言葉を覚えてるんだって?」
ランス様は、いつも突然部屋に現れる。ノックくらいしてほしいと思ってはいるのだが、ノックをして礼儀正しく部屋に入ってくるときは、たいてい癖のある仕事を頼まれるときなのでそれも困る。
「そうですよ。最初は叔父上から言われて面食らいましたけど、ナナオの家族側からすると言葉が分かる相手のほうがいいだろうと私も思いましたから」
「ほ~。愛だねえ~。でも、アレンは別に反対してるわけじゃないんだろ?」
「ええ。ナナオなら大歓迎だと言ってました。でも相手に通じる言葉でナナオの家族に分かってもらうまでは結婚に賛成しないと」
「なるほどね。アレンらしいな。ナナオちゃんが帰ってくるのは3ヵ月後だっけ」
「そうです。叔父上はそれくらいあればカタコトくらいいけるんじゃないかって言ってましたけど、私はきちんと話せるようになりたいと思っています」
「・・・・俺も習おうかな。ナナオちゃんの国の言葉」
「は?」ランス様が習ってどうするというのだ。
「そうするとさー、ナナオちゃんとヒミツの話ができるじゃん。」
「・・・・私が話をさせるとでも?」これは、常に部屋に置いてある花火の素を試すチャンスだろうか。
「ま、それは冗談だけどさ~。俺とデルレイしかわからない言葉でしゃべると盗聴される心配がなくなると思わないか?」
王国は平和だが、だからといってトラブルがないかというとそうでもない。特に王宮付魔道士は仕事柄、いろいろ機密事項を知ることができる立場だ。誘惑も多い。俺やランス様は部屋に入るときは必ず盗聴魔法や透視魔法がかかってないかいつも確かめるのが義務だ。
なるほど、ナナオの国の言葉はこちらの人間にはわからないので使える。
「いいですね、それ。ランス様も一緒に覚えますか?もっとも、私のほうが覚えは早いかと思いますが」
「お前ね、俺のもの覚えの早さを見くびってるだろう・・・・よし、アレンも巻き込もう。あれに教わったほうが早い」ランス様はそういうと部屋を出て行った。
その日の夜。叔父上からランスに話を聞いたと連絡があり、ナナオの国の言葉(叔父上いわく“ニホンゴ”というそうだ)を教わることになった。場所は王宮のランス様の部屋に決まった。
そこで初めて俺は、ランス様が叔父上と画像つきのホットラインを持ってることを知った。今までの言動から伝達魔法でやり取りしてるのは何となく分かっていたのだが、画像つきとは。
「私以外に画像つきで連絡取ってる人間がいたのですか、叔父上」
「まあね。こっそりやってるのがばれちゃったな。」
「だから、ランス様がナナオの国の言葉をちょっと知ってるんですね」
「そういえば、最近ランスがやたらこちらの若者言葉を知りたがるのだが、なんかあるのか?」
「たぶん、ナナオに聞かせたいからでしょう。でも、教えなくていいですからね」
「・・・男のヤキモチはどうかと思うぞ、デルレイ」
「ナナオに関しては譲れませんから。」
その後、王宮では魔道士長の部屋から夜な夜な変な言葉が聞こえると噂が出始めた。ランス様が防音魔法をかけたのは言うまでもない。
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ランス様とデルレイ、どちらが覚えるのが早いですかね~。
どちらだと思いますか?