71.デルレイの日常-1
デルレイ、ただいま練習中。の巻
ナナオがいなくなってから、屋敷はまるで明かりが消えたように静かだ。ナナオが来る前に戻っただけなのに、全員ナナオがいることに慣れてしまっていた。
ナナオが戻る前に、俺は叔父上にナナオとのことを打ち明けた。
「そうか。今までのデルレイの彼女たちとは違うからそうなるとは思わなかったな。」と叔父上は驚いていた。
叔父上が俺の異性関係を知っていたのに最初は驚いたものの、ランス様が絡んでいるとしたら、知っていてもおかしくない。
「デルレイ、ナナオは・・・違う世界の人間だ。それでも、彼女を妻に迎えたいのか?」
「叔父上の奥様だって、違う世界の人間じゃないですか」
叔父上だって、扉の管理で行ったナナオの世界の女性と恋愛して結婚した。俺の父親は驚いたものの、特に反対もしなかったはずだ。
「私は現在いる世界で生活していく人間だから妻の家族も反対しなかった。お前はナナオを違う世界に連れて行くだろう?その差は大きいぞ」
「でも、永住はしてもらっても永遠に会えないわけじゃありません。私と一緒ならナナオはそちらに行くことができます」
「そこをちゃんとナナオの家族にわかってもらわないと祝福してもらえないぞ?そこでだ、デルレイ」
「はい」
「お前、ナナオの国の言葉を覚えてろ。ちゃんと相手に通じる言葉でお前の気持ちをナナオの家族に分かってもらえ。3ヶ月あれば、なんとかカタコトくらいいけるだろ」
数日後、叔父上は俺に日本語のテキストを送ってきた。
「『お嬢さんと結婚させてください。お願いします』・・・・なるほど、親に結婚の挨拶をする言葉はどこの国も同じなのだな。『私はデルレイ・クロスビーです。ブレドン王国で魔道士をしてます』・・・でも、叔父上が魔道士という職業はあちらでは一般的ではないと言ってたな。うむ・・・・ナナオが戻ってきたら相談してみるか・・・・」
言葉を覚えるのは大変だ。ナナオも叔父上からブリードン語を教わったときには結構苦労したらしいが・・・・。
屋敷で練習しているのだが、屋敷の人間からすると当主がぶつぶつ聞き覚えのない言葉を繰り返し言っているのはちょっと不気味だったらしい。
「当主様」ある日、部屋に来た執事のクロードが遠慮がちに俺に声をかけた。
「なんだ?クロード」
「この間の夜、見回りの際にたまたま当主様の部屋を通りすぎたところ、ぶつぶつ何か聞こえたのですが・・・」
控えめに練習していたのだが、ドアから漏れていたらしい。
「すまないな。実はナナオの国の言葉を勉強していたのだ」
「ナナオ様のお国の言葉ですか?」
「叔父上から、ナナオの国の言葉を覚えて、ナナオの家族に挨拶するように言われたのだ」
「そうだったのですか。当主様」
「ん?なんだ」
「屋敷の者には私から言っておきます。頑張って覚えてください。ナナオ様をお迎えできる日を楽しみにしております」クロードはお辞儀をして、部屋から出て行った。
今、何気にプレッシャーをかけられた気がする。
「・・・とりあえず、部屋に防音魔法をかけよう・・・・」
読了ありがとうございました。
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デルレイ側の話、スタートです。