68.七生の休暇-2
七生と両親。の巻
次の日、私は電車に乗って実家に帰った。ホテルにチェックインしたあとタクシーで実家に向かう。
弟が結婚して二世帯同居住宅に建て替えられた実家には当たり前だけど、私の部屋はない。
それにしても、義妹の恵理香ちゃんって偉いよなあ。普通、二世帯建ててくれるとはいえ同居を進んでしようというその心意気。弟もいい奥さんもらったよねえ~。
インターフォンを押すと、母親が顔を出した。
「駅で電話くれれば迎えに行ったのに。あら、荷物はそれだけ?」
「駅前のホテルに泊まるからって電話で話したでしょう?」
「・・・・戻るときはどうするの?」
「タクシー呼ぶから」
「もう・・・・七生。あんたって子は何でも一人で決めちゃうんだから」
「はいはい。」母親のいつものせりふには慣れているため、私は軽くやり過ごして家に入った。
居間には父親がいて、私を見かけると「お、七生帰ってきたのか。おかえり」と言った。
「ただいま~。少し顔出しにきた。お父さん、元気?」
「まあ、ぼちぼちだな。公子姉さんには連絡したのか?」
「あ・・・してない。昨日しようと思ってて忘れてたよ」
「今したらどうだ」
「そうしよっかな~。」私は公子伯母ちゃんにメールをした。
『公子伯母さま:七生です。3ヶ月だけ出張先から戻ってきてます。1週間休暇をもらって、今実家にいます。実家から帰ったらお会いしたいのですが、ご都合はどうですか?』
送信してすぐに返信がきた。『了解。元気そうでなにより。戻ったら一度連絡をちょうだい。公子』
簡潔な文章は竹を割ったような伯母の性格を端的に現しているようだった。
「七生は、ホテルをとったと母さんに聞いたんだけど」
「そうよ。夜は史子と飲む約束してるから。」
「・・・なんだ夕飯までいないのか」
「ちょっと顔出しに来ただけだし。」
「そうか・・・甥っ子は見ていかないでいいのか?」
「そうねえ。お父さんが撮った写真でいいから見せてよ」
「そうか?じゃあ今持ってくるからな♪」父はそういうといそいそと写真を取りに席を外した。
父親はまだ私に「結婚しないのか」とか「相手いないのか」とか言わないから気が楽だ。それもこれも甥っ子ちゃんのおかげだな。母親も孫孫言ってるけど、それには私の産んだ孫が見たいっていう願望も入っているみたいで、いささか気が重い。
それでも、母がお茶菓子と日本茶を持ってきてくれて、それをつまみながら父親が撮影した甥っ子の写真を見るひとときというのは、和やかなものだった。
それにしても、日本茶・・・久しぶりだ~。やっぱり美味しい。今度王国に戻るときに日本茶持っていけないかなあ・・・アレンさんに聞いてみよう。
「そういえば、今日は恵理香ちゃんいないのね。珍しい。」恵理香ちゃんは家事育児に専念したいからと専業主婦になった。いちおう、挨拶くらいはしようと思ってたんだけど・・・。
「実家に行ってていないわよ。」母が若干不満そうに言う。
「お母さん。あちらの家にとっても初孫なんだからさ~。不満を言うのは間違ってる。」
「そうなんだけど・・・・」
母のこの口調はまたいつもの「結婚はまだか」の流れになりそうな予感。時計を見ると夕方近い。そろそろホテルに戻るかな。
「さて。私はそろそろホテルに帰るわ。タクシー呼ばないと」そういうと私は席を立った。
「え?もう?」母親が驚く。
「史子と飲む約束してるのよ。ホテルにも泊まるっていうし。」
「あんた、女の子なんだから・・・そんな飲み歩いて。」
「はいはい。飲み過ぎないように気をつけますわ、お母様」
「まったく・・・お父さんからも何か言ってくださいよ」
「七生。史子ちゃんによろしくな。また好きなときに来なさい。」
「うん、伝えとく。ありがと、お父さん、お母さん。じゃあね」
父はいつも何も言わないけど、実際のところは母と同じ気持ちなんだろうな~。とはいえ、親の都合で結婚するもんでもないし。
タクシーが到着し、乗り込んだ瞬間に何だか気が抜けた。
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七生と両親は仲はいいですが、母親の「まだ結婚しないのか」攻撃に
いささか辟易している感じです。