66.デルレイの内心
デルレイの胸のうち。の巻
「・・・・デルレイってばっかよねー。どうして、ナナオにここに残れって言わなかったのよ」
フローラは“あんたバカじゃないの?”という目つきを隠そうともせず、俺を見る。
ヒースもフローラの発言にうなずく。
「・・・・ナナオは一時的に戻っただけだ。あと3ヶ月もすれば戻る。」
「なんだ~。そうなの?オーガスタさんが、ナナオが帰っちゃったのよ~って言うから慌ててデルレイのところに来たのに」
「フローラ・・・たぶん奥様も俺と同じことを言おうとしてたと思うが?早合点なやつ・・・・」
「う、うるさいわねっ」
フローラを見ながら、俺は2週間前の出来事を思い出していた。
2週間前、倉庫の整理と目録が完成しナナオの仕事が終わった。もともとこちらでの仕事が終わったらクロスビー商会に戻ることは決まっていたが叔父上があえて、ナナオに決断を迫ったのは俺とナナオが恋人同士になったからだった。
俺は家族や友人と会ってくるのもいいと思う。ナナオの決断を支持するとか理解あるようなことを言ったけど、ほんとうのところは少しの間でも戻ってほしくなかった。だけど、そんな子供じみた思いをナナオに知られるのは嫌だったから、見栄を張ったのだった。
ナナオは迷っているようだった。
だから、俺も「やっぱりここに残るよ」というナナオの言葉を期待してしまったのだが・・・・。
「デルレイ。私、仕事が終わったらクロスビー商会に戻る・・・」と言い出したときに思わず先を聞きたくなくてナナオを抱きしめてしまったのは、当然じゃないか?
「ほんとうに、戻るのか?」
「うん。戻る・・・・でもね、3ヶ月くらいかなあ」
「は?」
「向こうでいろいろしたいことあるし、実家に顔出して、友達に会って・・・・たぶん3ヶ月くらいかかるよ。」
「そ、そうか」俺はほっとしてナナオを抱きしめる力が抜けた。なんだ、たった3ヶ月か。
だけど、3ヶ月もナナオなしでいなきゃいけないのか。じゃあ、叔父上が迎えに来るまで3か月分抱きしめてキスしておこう。そう思った俺は速やかに実行に移した。
叔父上が迎えにきたのは、ナナオが戻ると言った2日後だった。
「また3ヶ月後にここに来るね」ナナオが笑顔で言う。
俺は扉の前でうなずいた。
「ナナオ、行きましょうか」叔父上がナナオに声をかけた。
「はい、アレンさん」
扉を開けると光があふれて・・・・光が消えると扉は閉まりここにいるのは俺だけになった。
主のいなくなったナナオの部屋に入ると、そこにはアマロが置いてあった。結局植物は持ち帰ることが出来なかったため、バジルに世話を託すことにしたと言っていた。
俺はアマロを持ってバジルのところに行くことにした。折りよくバジルは休憩中で、俺がアマロを持ってきたのを見るとニッコリ笑った。
「坊ちゃま。アマロを持ってきてくださったのですか。ありがとうございます。」
「ああ。ナナオが帰ってくるまで3ヶ月もある・・・長いな」
「そうですねえ。楽しいとあっという間ですが辛いときは長く感じるものですよね」
「そうだな。あーあ、3ヶ月かあ・・・・。仕事を片付けてナナオが帰ってくるときにはのんびりできるようにしておくか」
「その意気ですよ、坊ちゃま」
「だから坊ちゃまはやめてくれよ」
「坊ちゃまと呼べるのはこれが最後かもしれませんからね。」
「そうだな。」そうだ、ナナオが戻ってきたら伝えたいことがあるんだ・・・。
「ちょっと、デルレイ。聞いてるの??」
俺はフローラの声にはっとした。
「なんだ?」いかん、フローラの話聞いてなかった・・・。
「信じられないっ!!この人、ぜんっぜん人の話聞いてない。ちょっと、ヒースからも何か言ってよ」
「フローラ、デルレイの心の中は今、ナナオのことでいっぱいなんだから。」
「ふうん。恋に落ちてるわけだ。あのデルレイがね~」フローラはニヤニヤする。
「・・・うるさい、フローラ」
「ナナオが戻ってきたら連絡ちょうだいよ。すぐ顔出すから。ヒースは無理でも、私は顔を出すわよ。わかったわね。さて、もう帰るわ。じゃあね、デルレイ」
「そうだな帰ろう。じゃあな、デルレイ」
「ああ、またな」
ヒースとフローラが帰ったあと、俺はふたたびナナオを思った。
今頃、なにしてるんだろうか・・・。
読了ありがとうございました。
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強引な展開になってしまい申し訳ありません。
別れのシーンをどうするか考えていたのですが、どうにも思いつかず
思い切ってナナオが決断したときのデルレイ側の胸のうちに切り替えました。
次回から第9章です。