6.仕事開始!
七生、デルレイのことを少し知る。の巻
王国への出張が決まったときに、アレンさんから「こちらの時間表記と違うから、この目覚ましを持っていくといいです」と似てるんだけど、ちょっと違う置時計をもらった。王国の人も目覚まし時計を使うんだなあ、と変なところで親近感をもった。
基本、仕事の開始時間はアレンさんのところと同じく朝9の時。違うのは終了時間で、クロスビー商会では不定期だったんだけど、こちらでは夕食が夜7の時と決まっているので、夜6の時までが仕事時間となる。早く終わることが出来る場合は終わってかまわない、とアレンさんとデルレイから言われている。
そういえば、初めて屋敷に来ていらい、デルレイを見ていない。
ヴェラさんによると、普段は王宮の中にある部屋で生活しているらしく休みの日しかこちらには来ないらしい。そういえば、私はデルレイのこと、アレンさんの甥っ子ということしか知らないなあ。
ヴェラさんに「クロスビーさんは、王宮にお勤めなんですか?」と聞いてみた。
「はい。デルレイ様は王宮で魔道士長のランス・アイルズバロウ様の右腕として働いていらっしゃるんです。」とヴェラさんは誇らしげに言う。
ふーん、魔道士ってエリートなのかも。今度アレンさんに聞いてみよ。
「ナナオさん、デルレイ様に魔道士のことを聞いてみたらいかがですか?きっと喜んで説明してくださいますよ」
「そうですねー。機会があったら聞いてみます」私はその気もないのに調子のいい返事をした。
エルシーさんはベッドに朝食をお持ちしましょうか、と言ってくれたんだけど、さすがにそれは断って着替えが終わる頃に朝食を運んでもらう。
パンとお茶にフルーツの朝食を食べ終わった頃、デルレイが部屋に入ってきた。
「おはよう、ナナオ」
「おはよう、クロスビー」
「そろそろ、書庫と倉庫に案内してもいいだろうか」
ちらりと時計を見ると、朝9の時15分前。準備も終えてるから、まあいいか。
「はい。大丈夫です」
「わかった。それでは行こうか」私はエルシーさんに見送られて部屋を出た。
書庫と倉庫は、私がこちらの世界にやってきた“扉”の隣にあった。デルレイはドアの前にたつと、何やら呪文をとなえて扉の前に手をかざした。すると、ドアが青く光ってカギの外れる音がした。その光をデルレイが手に取り、ちょっと握るとなぜか青い石が入った銀色の鍵が現れた。
「これが、ここのカギだ。この階は歴代の当主とアレン叔父しか入れない結界が張ってあるから整理係のナナオが入れないというのは、困るだろう?
今は俺と一緒だから結界があっても大丈夫だけど、これを持ってると一人で結界の中に入れる。常時持てるようにペンダントにした。失くすなよ。」
「今の青い光はなに?」
「光が見えたのか?」驚くデルレイ。
「え。何、見えちゃいけないの?」
「いや、そんなことはない」デルレイが焦って言ったのが気にかかるけど、仕事が先だ。
私は、ペンダントを首にかけた。鍵がキラッと青光りしたのは気のせいかな。
ドアを開けると、長年開けていない部屋の匂いがする。でも、不思議とほこりっぽくない。
「虫除けやカビ防止の魔法だけは欠かさなかったからな。ただ、いろんな年代の物と書物がまじっていてな」たしかに、部屋はともかく物の乱雑さはすごすぎる。こりゃ空いてるスペースに適当に物や書物を入れてったな。
「アレンさんが、歴代の当主がさぼったせいっておっしゃってましたね。クロスビーは王宮の仕事が忙しいから、手が回らなかったんでしょう?」
「どうして、俺が王宮勤めだって知っている」
「ヴェラさんに聞いた。普段は王宮で生活していて休みの日にしか戻ってこないと、ヴェラさんが寂しそうだったよ。休みの日以外にも戻ってくればいいのに」
「・・・・これからはそうしよう。それでは仕事を始めてくれ。何か面白そうな資料があったら俺に教えてくれないか?俺に事前に見せることが前提になるが、物によってはナナオが部屋に持ち帰ってもいいぞ。それと、これ」と私に宝石のガーネットに似た色の石をくれた。
「なんですか?これ」
「伝達石だ。結界が張ってあるから家の人間はここに近寄れないのでな。ヴェラと世話係のエルシーにも持たせてあるから、用事があればこの石に呼びかけるように」
「へえ~」電話みたいなものだな。ほほう。
「色々気を遣ってくれてありがとう。クロスビー。」
「・・・・たいしたことはない。では、俺はそろそろ出かけるから」
そういうと、デルレイは部屋を出て行った。
読了ありがとうございました。
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タイトルどおり、七生が整理係ならデルレイは「魔道士」です。
ようやく少し、七生がデルレイに関心を持った・・・かな。