59.当主と秘書
七生、ニヤニヤをこらえる。の巻
クラリスさんに会うことに決めた、とデルレイに伝えたところ予想通り自分と一緒じゃなければ承知しないとデルレイは言いだした。
「場所は、ここでいいか?」
「うん。よろしくお願いします」
その後、デルレイからクラリスさんに私が会うことを知らせたらしく3日後にクラリスさんが屋敷に来ることになった。
「初めまして。クラリス・ベクラールと申します。クロスビー魔道士様とは2度目ですわね。」
クラリスさんはオリーブ色の瞳はお嬢様と同じだけれど、髪の毛もオリーブ色できりっとした顔立ち。あんまりお嬢様と似ていない気がする。
「初めまして。クロスビー家で整理係をしているナナオ・サクラギです。」
「1ヶ月ぶりくらいだな。ベクラールさん。」デルレイは、お嬢様の身内ということでクラリスさんを警戒している口調だ。
私はクラリスさんも気になるんだけど、クラリスさんと一緒にきた人も気になる。クラリスさんの側に黙って控えているその男性は、年齢はたぶん私と同じくらいか少し年上の男性で、肩あたりまでの藍色の髪の毛を後ろに束ねている。美形のデルレイを見慣れた私でも、“うわあ”と思うくらい整った顔立ちをしているが、びっくりするほど無表情だ。
フローラは、この人のことは教えてくれなかったんだけど、誰なんだろう?
「紹介が遅れましたわね。彼は私の秘書をしているルーファス・シュミットですわ。」
「シュミットです。クラリス様が子供のときから仕えております。」ときれいなお辞儀をした。(でも無表情)
「子供のときから、ですか?」思わず疑問が口に出てしまった。隣でデルレイに「ナナオ」とたしなめられてしまった。
「ええ。私が子供の頃に、おじいさま・・・先々代が遊び相手としてつけてくれたのがルーファスです。今は私の秘書として働いてくれています。子供の頃から、私を支えてくれています。」
子供の頃からずっと側で、こんな美形を見慣れてると男性を見る目が厳しくなりそうだよなあ・・・・でも、ちょっとドキドキな設定だわ~。思わず昔読んだロマンス小説を思い出してニヤニヤしてしまいそうになるのを頑張って抑える。
挨拶を交わしたあと、クラリスさんが口を開いた。
「ナナオさん。今日は、妹があなたにしたことをお詫びしにきました。本当に申し訳ありません。私が妹をいさめられなかったばかりに、クロスビー魔道士様にも迷惑をかけてしまいました」クラリスさんは深々と私に頭を下げた。
「クラリスさん。頭を上げてください。今回のことは、クラリスさんは知らなくて当然ですよ。私にも弟がいますけど、子供の頃ならともかく大人になってからの行動なんて把握できなくて当たり前です。妹さん、もう大人なんですからクラリスさんが責任感じることなんかないです」
クラリスさんは私の言葉を聞いて顔を上げた。
「ナナオさん、そう言ってもらえるのはうれしい。どうもありがとう。でもベクラール家当主として一族の人間がしでかした不始末をお詫びするのは当たり前のことなんです。」
家族としてではなく「当主」としての謝罪を受けてほしいというクラリスさんの考えは、私にはよく分からないけど、この場で謝罪を受けとかないといけないのは間違いない。
「わ、わかりました。謝罪、たしかに受けました」
クラリスさんは、私の言葉を聞くとほっとした顔をして隣のルーファスさんを見た。
ルーファスさんは、そんなクラリスさんを優しい顔で見た。
私は、“おお!ルーファスさんに表情が!!なるほど、クラリスさんの前でだけ変わるのか”と、さらにニヤニヤが出そうになるのをこらえるはめになった。
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デルレイの出番なし。七生はロマンス小説好き。
次回、デルレイに出番はくるのか。