56.ある令嬢の結末
令嬢のその後。の巻
長文になります。
ご了承ください。
ジュストに整理係を消すように命じた後、頃合をみてエッタに部屋を見に行かせた。
あのジュストを見つけたのは正解だった。やはりアイルズバロウ魔道士長の目が光っている王宮の魔道士に近づくのは困難だったからだ。
何を考えているか分からなくて不気味なところはあるけれど、お金さえ払えばたいていのことは引き受けてくれる便利な存在だわ。
「お嬢様。部屋には誰もおりません。」
「そう。ジュストは仕事が終わったということかしらね・・・・」たかが整理係が一人行方不明になったからって、王宮は動かない。これで邪魔者はいなくなった・・・私は思わず笑みを浮かべた。
数日後、姉が私の部屋に顔を出した。
「ちょっと執務室に来てちょうだい。」それだけ言って去っていく。
姉と私は、昔から気が合わない。姉は跡取り娘で厚遇されることも多かったけれど厳しくいろいろな教育を受けている。私は親から厳しいことを言われることもなく『お前は、よい家柄の人間と結婚するのが幸せだから』と姉のような教育は受けることはなかった。
姉は「妹をそんなに甘やかしてはだめだ。いつかしっぺ返しがくる」と両親に苦言を呈していたようだが、私から言わせると姉は性格は悪くないけど女性として可愛げがないと思う。理路整然として賢く、時には父親を言い負かすほどしっかりしている姉は、いつも私に対して厳しい。
そんなお姉さまが私に執務室に来て欲しいなんて、何かあるのかしら。珍しいこともあるのものね。
この後、私は姉が言っていた「いつかしっぺ返しが来る」という言葉を噛み締めることになるなんて、思いもよらなかった。
執務室に行くと、そこには姉と両親。それにアイルズバロウ魔道士長と・・・クロスビー様がいた。
クロスビー様はやっぱり素敵だ。あんな整理係とは釣り合わない・・・それにしても姉も意地が悪い。クロスビー様が来ていると教えてくれれば、この間購入した新しい服を着たのに。
ちょっと浮かれていた私を見て、姉が厳しい視線を向けた。私は姉の様子がおかしいことに気づいた。いつも私に向ける視線は厳しいけれど・・・今日はそれに哀れみ、のようなものが加わっている。よくよく周囲を見ると母親は今にも泣き出しそうだし、父親はうなだれている。
いったい、どうしたというのだろう・・・。不思議に思いつつ私は指定された椅子に座った。
「テレーズ・ベクラール嬢。クロスビー家整理係拉致と整理係に対する悪質な手紙の件でいま、ご家族にあなたが関わっている旨話をしました。」アイルズバロウ魔道士長が口を開いた。
「え・・・?」どうして、私のことが分かったのだろう。
クロスビー様は何も言わずに私のことを冷たい目で見る。
「あなたが金銭で雇った元魔道士のジュストが、今回のことのしだいを詳しく陛下の前で供述しましたよ。」
「どうして・・・・」ジュストと整理係が姿を消したのは・・・・実際に消したのではないってこと?
「あなたはジュストが整理係を消して立ち去ったと思っていたでしょうが、実際のところ彼は整理係を殺すつもりはなくクロスビー家に返すと決めていたようです」
目の前が真っ暗になった。
私の様子をみていた姉が口を開いた。
「前に言ったわよね。テレーズ。いつかしっぺ返しが来ると。あなたが部屋に来る前にお二人から全てを聞いたときの私たちの気持ちが分かる?あなたはベクラール家の名の下、今まで好きにやってきたようだけど、もうそういうわけにはいかないわよ」
「・・・・どういうこと?」
姉が言いかけたときに、魔道士長様が「私から言いましょう」と割って入ってきた。
「テレーズ嬢。ベクラール家は当主が交代することになりました。新しい当主はあなたの姉、クラリス嬢。お父上はあなたのしたことの責任をとって当主を辞めて隠居となりました」
姉は私を見て、「そういうことになったから。あなたを甘やかす人間は、この家にはいなくなるわよ。」と告げた。
「そんな・・・わたし、どうなるの?お姉さま」
「以前からあったあなたの縁談を進めます。お相手は隣の国の地方領主よ。こちらであなたがしたことも知られていないはずよ。そうそうエッタも連れて行くといいわ。でも、もう王国には戻れないと思いなさい」
「そんな・・・・」
「王都に残ってもいいけれど、その場合あなたは拉致監禁の罪に問われるわよ。さあ、どうする?テレーズ」
一ヶ月後、ベクラール家次女テレーズと隣国の地方領主の間で縁談がまとまった。花嫁を乗せた馬車は朝早くに花婿のいる地方に旅立った。
しかし豪華な馬車が出たというのに見送る人が誰もいないというのも不思議な話だ、と見かけた人々は噂しあったのだった。
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お嬢様の名前がここで出ました。