53.デルレイと元魔道士-1
ナナオが拉致されたときのデルレイサイドの話です。
奥様から連絡をうけて俺とヒースはウェルズ商会に駆けつけた。そこには王宮にいるはずのランス様も到着していた。
「ごめんなさい、デルレイ。・・・・まさか店内であんなことになるなんて」
奥様とフローラは顔が真っ青だ。
「ナナオは黒い霧とまぶしい光に包まれて消えたらしい。黒い霧とはな・・・」
黒い霧は害ある魔法の一つで、目当ての人間を拉致する魔法だ。たぶん、店に訪ねた客のほかにもう一人、店の外にいてどこからか見ていて魔法をかけた。
「ナナオさんは、どこに拉致されたんだろうか・・・・」ヒースが店内に魔道士の痕跡を探す。
「位置が分かる魔法をかけたから、場所はすぐわかるはずだ」俺はナナオの位置を探る。
ナナオの居場所はすぐにわかった。地図を広げて場所を確認すると、とある貴族の屋敷にいるらしい。
俺は、この名前に見覚えがあった。確かランス様がくれたリストに名前があったはず・・・・。
隣でランス様が「ナナオちゃんを拉致したのは、ここの令嬢か。で、どうするんだ。デルレイ」
「場所が分かったんですから、ナナオを連れて帰ります。」
「それにしても、オーガスタの実家で術をかけるとはいい度胸だな。・・・オーガスタ、大丈夫だ。ナナオちゃんの居場所は分かったらデルレイが救出するさ」ランス様は、懸命に奥様を励ました。
そんなとき、俺の伝達石が光った。
「クロスビーだ。」
「クロスビー魔道士ですか?俺はジュストと言います。おたくの整理係を黒い霧で拉致したのは俺です」知らない男の声がする。
「・・・・・きみは魔道士か?」俺はすぐに嘘を見抜く魔法をかけた。
「いいえ。元魔道士・・・・いや、魔道士になりそこなった魔法使いです。」男は自嘲気味に笑った。
なるほど、魔道士の勉強をしていたが途中で挫折したってことか。それなら魔道士系の魔法が使えてもおかしくないな。
「用件は?」
「俺を雇ったお嬢様に彼女を消すように指示されましたけど、クロスビー殿がかけた防御魔法のおかげで魔法で消すことはできません。俺は血を見るのが嫌いですし、雇い主のお嬢様もわがままなので、手を引きますよ。彼女を迎えに来てもらえませんか?」
男は嘘をついていないようだ。それにしても、ナナオを消すだと?・・・ふざけたことを。
「・・・ナナオは無事か?」俺は努めて冷静にジュストに問いかけた。
「無事です。今は深い睡眠魔法をかけたので眠っています。もうこちらの場所は把握していますよね。彼女の居場所は屋敷の正面玄関から入って3階の左端です。クロスビー殿が来たのを確認したら、私は姿を消します。」
「そこの令嬢は、どうしてる」
「さあ。私は金で頼まれただけですから、お嬢様の動向なんてどうでもいいですが・・・・ただ、同じ屋敷内にはいるかと」
「わかった。移動魔法で直接部屋に行く・・・悪いが、きみと少し話をしたいのだが」
「わかりました。クロスビー殿が来るまで彼女の側にいます」
他の男がナナオの側にいるのは面白くないが、今回は仕方ない。
俺はランス様とヒースにナナオを迎えに行くことをつげて、移動魔法で屋敷に向かった。
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ナナオが眠りに入った後の話なので、デルレイ側から見た話になります。