51.お嬢様登場
知らない部屋の七生。の巻
私が目を覚ましたのは知らない部屋だった。
どこかの屋敷の一部屋らしく、調度品も豪華でいちいちお金がかかってそうだ。でも、全然使ってなかったらしく椅子にうっすらとほこりがついている。
黒い霧と光に包まれた後の記憶がないんだよなあ・・・・どこかに拉致されたらしいのはなんとなくわかるけど。
『デルレイがかけてくれた魔法、効いてるかなあ』効果があるなら、すぐに居場所を特定してくれるはずなんだけど・・・ベッドの上で私が日本語で独り言をつぶやいたとき部屋のドアが開いた。
「ようやく目覚めたようね」金髪にオリーブ色の目をした女の人が、メイドさんらしい人を連れて現れた。
女の人は見た感じ、24歳くらいでサーモンピンクのふんわりした服を着こなしている。なかなか美人なのに、私を見る視線の険しさが台無しにしていた。
「手紙で警告したのに、どうしてまだあなたはクロスビー様の屋敷に居座っているのかしら」
「え。じゃあ、あなたがあの手紙を書いたの?」うわー、デルレイを怒らせた手紙をこの人が書いたのかー。
「整理係のくせに、お嬢様になんという口の利き方。本来ならあなたは口を利いてもらえる立場じゃないのですよ」後ろに控えていたメイドが強い口調で私をしかった。
「はあ・・・えーと、じゃあ、お嬢様?あなたがあの手紙を書かれたのですか?」
「先ほど、警告したと言ったでしょう?」そこでお嬢様は私の指先に気がついた。
「あなた・・・どうして指先がきれいなの?あの手紙にはあなたが開封すると指に傷をつける魔法をかけたとジュストが言ってたのに!」
「・・・・お嬢様の書いた手紙はクロスビー魔道士が開封しました。」
そのときお嬢様の顔色が変わった。
「どうして・・・・・エッタ、ジュストを呼びなさい。」
メイドさんの名前はエッタさんというのか。エッタさんが慌てて部屋を出て行き、私とお嬢様の二人だけになった。
「・・・・私がクロスビー様を初めて見たのは15歳のときだったわ。それから10年間ずっと見てきたのに。どうして、急に現れたあなたみたいな女に邪魔をされなきゃいけないのか分からないわ」
「はあ」10年に及ぶ片思いか~。お嬢様は25歳なのね。私の相槌なんて無視してお嬢様は独り言をいうように続けた。
「クロスビー様は、いつもきれいな女の人が一緒で私が近寄ることなんて出来なかった。だからお父様を通して、近づこうとしてもできなくて。アイルズバロウ魔道士長を通してら、今度はクロスビー様に話が通るどころか、魔道士長からすぐに断られて。」
えーっと、デルレイは何かと忙しそうだからしょうがないにしても、ランス様・・・・話くらい通してやんなよ・・・・。私はなんだかお嬢様の報われてない片思いがかわいそうになってきた。
そこで、お嬢様は私を見た。
「あなた、クロスビー様の屋敷からすぐ出て行くと誓うならすぐに帰してあげてもいいわ。」
「は?それは無理です。仕事がまだ残っていますから」
「仕事?そんなもの私には関係ないわ。あなたがいるとクロスビー様が私の存在に気づかないじゃないの。邪魔だわ・・・すぐに仕事を辞めて屋敷から出て行ってくださらない?」
お嬢様の理不尽な要求に、私はさきほどの哀れみの気持ちが吹き飛んだ。仕事を男がらみ、しかも自分の片思いが私のせいで成就しないからって、途中で投げ出すことを強要されても聞けるかよ。社会人12年目アラサー女子をなめんな。
私とお嬢様がにらみ合っていると、エッタさんが一人の男性を連れて部屋に戻ってきた。
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手紙の差出人であるお嬢様が登場しました。