50.一瞬の隙
七生、油断する。の巻
ウェルズ商会に到着すると、オーガスタさんが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。フローラ、ナナオ。今日は貸切よ、いろいろ合わせてみましょうね」
そういうと、オーガスタさんはあたりをさりげなく見回すと私たちを店内に入れた。
「こっちのデザインもすてきね~」
「フローラは華やかだから、ドレスは装飾を少なめでもいいかも・・・こんな感じとか」
「あ、素敵かも。私もあんまりごちゃごちゃしたのは趣味じゃなくて」
オーガスタさんと私たちは、店の談話室でデザイン画をみてあーでもないこーでもないとお茶を飲みながら話をしていた。
服に関しては王国では女性の曲線を生かしたデザインが主流で、だぼだぼした服は見かけない。ひざより上を見せるようなスカートもありえないみたいだし、パンツ着用の女性も見かけない。そういえば、私がパンツスーツ着てたらデルレイとか一瞬驚いてたっけ。それ以外は、あんまり私のいた世界と変わりがないので、こちらに来たばかりの頃ちょっとほっとしたのだった。
私たちがデザイン画を決めている最中に、お店のドアがノックされた。
「あら、今日は貸切だと掲示してあるのだけど・・・・どなたかしら」オーガスタさんが談話室から出て行った。
談話室にいても、店内の会話は聞こえてくる。
「はい・・・どちらさま・・・・まあ、いらっしゃいませ」オーガスタさんの声はちょっと驚いているようだった。
相手の人の声はよく聞こえない。
「申し訳ございません。今日は貸切になっておりまして・・・まあ。・・・・それでは、ちょっと確認してまいりますので、こちらでお待ちください」
オーガスタさんは談話室のほうに戻ってきた。
「お客様ですか?」
「ええ。服を作ったお嬢様が店に忘れ物をしてしまったらしくて。でも、お帰りになるときに確認してたけど、忘れ物はなかった気がするのよね。」
オーガスタさんは不思議そうに首を捻りつつ、商品保管室に忘れ物を捜しに行った。
10分くらい立った頃、オーガスタさんが「やっぱり、該当するものはなかったわ。もうちょっと詳しくきいてみなくちゃ。もう少し待っててね?」と言って、保管室から出てきて店内のほうに歩いていった。
オーガスタさんとお客様のやり取りはあっさり終わったらしく、オーガスタさんはすぐに戻ってきてデザイン画の検討が再開された。
デザイン画で3人とも一致で気に入ったものが見つかり、色も決まったため作成に入ることになった。出来上がりまで2週間くらいだと聞いたフローラは、「ナナオの無事が確認できるまで、こっちにいることにしたからドレスも受け取って帰ります」と言ったので、出来上がったらオーガスタさんがデルレイの家に届けるということで話がまとまった。
「素敵なドレスになりそうだね、フローラ」
「そうね。楽しみだわ・・・次はナナオかしら?ね、オーガスタさん」
「うふふ。そしたらナナオ、すぐに知らせてね?」
「・・・・どうしてそう話が飛躍するのよ。相手もいないのにさ」
「ナナオったら。相手はいるじゃないの」フローラがそうまぜっかえす。
「ナナオの相手って言ったら、一人しかいないじゃないの」オーガスタさんも楽しそうだ。
うーん、まだ恋人でもないのに、どうしてそこまで話を膨らませることができるんだろう・・・この二人。
ここはオーガスタさんの店で、安全・・・・それは私はもちろん、周囲の人たちもそう思っていた。
“油断大敵”という言葉は、このときのためにあったのかも・・・
私が店内に一歩入ったとき、足元から黒い霧が上がった。
「え?」・・・・そう思ったとき、私はまぶしい光に包まれてしまった。
「ナナオ?!」フローラとオーガスタさんが慌てて叫ぶ。私も叫ぼうとしたけど、光が邪魔をして声が届かない。
そのまま、お店とフローラ、オーガスタさんの顔がぼやけていって・・・・私は気が遠くなってしまった。
読了ありがとうございました。
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昨日は更新がなくて申し訳ありませんでした。
魔道士長の奥方様の実家でナナオを狙うバカ(byヒース)が現れました。