46.その手紙
七生に向けられた悪意。の巻
「申し訳ありません・・・・当主様。ちょっとよろしいでしょうか」とデルレイに手紙を見せた。デルレイの表情がちょっとけわしくなった。
「ナナオ」
「はい?」
「・・・・ナナオあてに手紙だが、心当たりは?」
私に手紙・・・?身内は違う世界にいるし、アレンさんなら手紙はデルレイに託すはずだ。
「ないよ。私あてに手紙?」
「ああ。クロスビー家整理係殿となっている・・・開けても?」
「うん、いいよ」私が了承すると、デルレイは手紙を開封して・・・・そして「なんだこれは・・・」とまた表情を険しくした。
「なんだったの?教えてよ、デルレイ」
「・・・ナナオ、いいか。気にするなよ?」私は手紙の文面を見た。
フローラも私の側にきて、一緒に手紙を覗き込んで「何よ、これ!」と声を荒げた。
そこには<クロスビー様に近づくな。お前はあの方にふさわしくない女だ>の文面以下、どうして私がデルレイと釣り合わないのかという理由が長々と書かれていた。
フローラとヒースさんの結婚報告で和やかだった雰囲気が一変してしまった。
「ナナオ。この手紙、預かってもいいか?」
「うん・・・どうして、こんな手紙がくるの・・・・?」私、こっちで恨みを買うようなことした?
「ナナオ・・・・」フローラが私の側に来て手を握ってくれる。
「ヒース、この手紙に弱いが害となる魔法がかかっている。・・・魔道士が絡んでいる可能性がある」
そう言ってデルレイはヒースさんに手紙を渡した。
ヒースさんは手紙を受け取って「ああ。かかってるな。目当ての人間が開封すると指に傷をつける魔法だな・・・」と断定した。
「魔道士が絡んでるとなると・・・・・アイルズバロウ魔道士長に報告したほうがいいぞ。デルレイ」
「そうだな、ランス様を呼ぶか。・・・・ナナオ、部屋に戻ってくれないか。フローラ、ナナオに付いててくれないだろうか。それと二人とも、どれくらい王都にいる予定になっている?」
「こちらには私の披露パーティ用の衣装をウェルズ商会に注文しに来たの。ヒースは私に付き合って来てくれたのよ」
「用事が終わっても、こちらに滞在は可能か?・・・・この案件が片付くまで」デルレイが手紙を見せる。
フローラは「おじいさまに連絡すれば、会長業務を代行してくれるから私は大丈夫。ナナオのそばにいる。」と言い、ヒースさんも「俺もたまっている有給を使うから気にするな。いざとなったらアイルズバロウ魔道士長になんとかしてもらうさ」と笑った。
デルレイがてきぱきと物事を進めていくのをみて、私は自分がこの国では(まあ、本来の世界でもたいして変わらないが)無力なんだなあ・・・と感じていた。
ヒースさんとフローラがクロードさんと一緒に客間に行ったので、応接間には私とデルレイだけになった。
「ナナオ。あの手紙には魔道士だけがかけられる害となる魔法がかかっている。弱いものだがな。」
「私、・・・・どこかで見られたのかな」
見られたとしたら、市場か。ベルカフェには私たちしかいなかった。それともクレヴィング商会かな。
「<ふさわしくない女だ>って書かれてた。書いたのは女の人かな。デルレイのことが好きなんだね」
「俺は、あんな手紙を書くような女は願い下げだ。ナナオ」デルレイは、私の手をにぎった。
「大丈夫だ。気にするな。出来ればいつものナナオに戻ってくれないか?そうじゃないと、俺の調子が狂うのだ」
「・・・・何よ、それ」私は思わず笑ってしまった。
「その調子だ。申し訳ないが、この手紙の決着がつくまで仕事は休んでくれ。それとも叔父上に連絡をとって、一度戻るか?」
きっと、アレンさんに報告すると迎えに来てくれる・・・・でも、私はあんな手紙を出してくる人間の正体が知りたいという気持ちもあった。
「ううん。アレンさんには内緒にして?デルレイが守ってくれるんでしょう?じゃあ、ちゃんと守ってよね」私はあえて陽気に言った。
「そうだ。俺がナナオを守る」デルレイも笑った。
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和やかな雰囲気は一通の手紙で一変。