閑話:デルレイと魔道士長
43の次の日、早めに出勤したデルレイの話です。
「おはようございます。クロスビー魔道士様。今日は早めの出勤ですか?」
顔なじみの守衛に聞かれて、俺は「おはよう。ちょっと調べたいことがあるんだ」といって通り過ぎた。
昨日は思わずナナオを抱きしめてしまって離せなくなってしまった。ナナオが言い出さなかったら、確実に理性がとんでたかもしれない。朝食で顔を合わせるのが恥ずかしくなった俺は、早めに王宮に出勤することにしたのだ。
調べたいことがあるのは本当だ。ランス様が言っていた「俺に執着してる令嬢」が誰なのか探すためだ。とりあえず、過去に恋愛関係にあった女性たちの現状を調べ始めたが今のところ、結婚していたり新たなパトロンを見つけていたりして幸せそうなので、ますます見当がつかない。ナナオに危害が及ぶまえに潰しておかなくては・・・と俺は再度調査をする前に自分で作成したリストを眺めた。
「デルレイの恋愛事情とか聞いた」って言ったときのナナオの顔は軽く呆れていた。自業自得とはいえ、あのとき奥様のことをちょっと恨んだ俺。
「お。デルレイおはよう。早いなあ~。」ランス様が部屋に入ってきた。この人は、いつも俺の部屋に入るときに「入るぞ」とも言わず、いきなりやってくる。
「おはようございます、ランス様・・・・ノックぐらいしてくださいよ。」
「お前の部屋は俺の部屋。俺の部屋は俺の部屋だ。」
「・・・・なんですか、その勝手な言い分は。」密かに持ち込んでいる花火の素を投げつけてやろうか、まったく。
「ナナオちゃんは元気か?」
「・・・元気ですよ。」
「ふーん。それで、お前がこんなに早く出勤してきたのはどういう訳だ?」
「・・・・ランス様に言われたことを調べるためです」
「ああ。ナナオちゃんに迫る危機を事前に潰そうというわけか。で、見当はついたか」
「・・・・まだです。今のところ調べた女性たちは私に執着する要素はありません」
「それは、お前が付き合ってた相手だろう?娘を紹介するといって近づいてきて断った人間とかいないのか」
「俺はパーティではそのとき付き合ってる女性と楽しんでるし、仕事はいつも忙しくてそんな人間と話をする時間なんてないし、息抜きはジュードのところでしてますから」
考え込む俺を見て、ランス様は「それもそうだな。デルレイ、これやる。ちょっとは参考にしろよ」と1枚の紙を出した。
「なんですか、これ」
「俺を通して、デルレイと娘を見合いさせようと画策した貴族や商人、役人のリスト」
「はあ?」まさに寝耳に水の話だ。
「安心しろ。全部断ってある。でも、この中にお前をあきらめきれない人間がいたとしてもおかしくないと俺は思うけどね」
俺はランス様からもらったリストをざっと見た。貴族に商人、それに上級役人。知ってる名前もあれば、知らない名前もあるな。
この中に該当する人間がいるといいのだが・・・・。
「ところで、今度そっちに遊びに行くから。ナナオちゃんにアレンから教わった言葉を披露するんだ~♪」
行っていいかじゃなくて、行くからってもう決定事項なのか、ランス様。
「“まじ”なら俺が先に使いましたから、喜ばれませんよ」
「ふふん。違うぞ。じゃあ、こんど遊びに行くからナナオちゃんに言っておくように。それと今日の仕事だ」とランス様は、俺に案件の資料を渡して部屋を出て行った。
ランス様から渡された仕事と、断った相手のリスト。
仕事をしながら、リストの相手も調べるとなると・・・・今日は王宮泊まりになりそうだ。まる1日ナナオの顔を見ないのか・・・・俺は少しだけため息をついた。
読了ありがとうございました。
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ランス様、思考が若干○ャイアン入ってます。
デルレイが花火の素を仕掛ける日がくるんでしょうか。