39.大「雲の素」実験
七生、雲の素を使ってみる。の巻
休日、私とデルレイは二人でこっそり庭園に来ていた。
「じゅうたんは持ってくるのが大変だからな。とりあえず、ちょっと浮くならこれでいいだろう」とデルレイは使い古しのクッションを持ってきた。
「一人座るぶんにはちょうどいい大きさだね」
「そうだろう。王宮の部屋のクッションを取り替えたのでな。古いものを持って来たのだ」
「そうなんだ。デルレイの王宮の部屋ってどんな感じ?」
「ここの執務室よりは小さいし、ランス様がすぐ隣の部屋で・・・・あの人は不意打ちで人の部屋を急襲するのが好きなのだ。ある意味スリル満載の部屋だな」デルレイはため息をついた。
ランスさんってデルレイがかわいくてしょうがないんだろうなあ・・・・。
でも、言うとデルレイは複雑な顔をするんだろうな。
「さ、ナナオ。実験するぞ」
「おう!」私の合いの手に、デルレイは怪訝な顔をしたもののスプーン一杯分の粉を瓶からすくってクッションに振りかけた。
粉がかかったクッションは、紙と同じように周囲に白い繊維が表れ、クッションを包んでいく。
ものの数分で、クッションは人一人座れるくらいの雲になって、私の膝くらいまで浮き上がってきた。
「ナナオ。座ってみたらどうだ」
「え、いいの?」
私はおそるおそる乗ってみた。すわり心地はすごく柔らかいソファみたいで悪くない。雲は私が座ると、今度はデルレイの肩あたりまで浮き上がった。
「おお~。デルレイより目線が上だ。」
「なんだそれは。雲の感触についての感想はないのか」
「なんかふわふわしたソファに座ってるみたいだよ。」
「ほう」
「これってさ、進行方向とか決められるのかな。」
「それは乗ってる本人の魔力しだいだ。ナナオだとその場で浮いてるだけだな。じゃあ、ちょっと進ませるか。」デルレイがちょっと光りを与えると、雲はふわふわと先ほどの位置をキープし動き始めた。
「うわー、すごい。雲が動いてる。」デルレイは、ちょっと走って50メートルくらい先で立ち止まった。「ここまで来たら停止させるから、ゆっくり進んでくるといい」
「わかった~」昔、テレビでみた雲に乗る感じを、今私は経験していますよ!かなりのんびりだけど。クッションだから寝そべったりできないのが非常に残念だ。でも、楽しい!
天気はいいし、風はさわやかだし。それにしても不思議な繊維だよなあ。こうしている間も繊維はどんどんクッションを覆っていく。
どうやって増えているんだろう・・・そう思って下を見たのがいけなかった。
繊維が私の鼻をくすぐって思わずくしゃみが!
「へっくちょい!」口を押さえたんだけど、すでに遅し。雲の繊維が一気に飛び散ってしまったのである。
「うひゃあ!」
「ナナオ?」慌ててデルレイが走ってくるのが見えたんだけど、私が芝生に落ちるほうが早かった。
「いたたた・・・・」座ったまんま腰から落ちちゃったよ・・・・恥ずかしい。
「大丈夫か?でもなんで・・・」デルレイが私の目の高さまでかがむ。
「下を見たら、繊維に鼻をくすぐられてくしゃみが出ちゃったんだよ~。そしたら繊維が散っちゃったの。」
「くしゃみで、飛び散った?・・・・ぶっ」デルレイが噴出す。
「ナナオ・・・どれだけでかいくしゃみをしたのだ・・・・」デルレイが笑いをこらえている。
「そんな大きいくしゃみはしてないわよ!失礼な。・・・いてっ・・・・。」思ったより腰を強打か。でも、立てなくはないな・・・そう思って立ち上がろうとしたところ・・・・体が持ち上がった。
「お?」私が返事をする間もなくデルレイが私をひょい、と持ち上げている。
こ、これは・・・この間のフローラ状態。すなわち「お姫様抱っこ」!!
「デルレイ、歩けるからおろしてよ」
「だめだ。」
間近で見るデルレイの顔は、やっぱり整っていた。なんだか恥ずかしくなった私は思わず下を向いて自分の顔をデルレイに見られないようにした。
(後日談)
「ナナオ、雲の素は俺が封印したからな。もう使用禁止だ」
「えー。なんでよ~。マスクさえすれば大丈夫だって」
「くしゃみで飛び散る物なんて危なくて使えるか。ナナオも腰を打っただろう?」
「う・・・それを言われると」
「あと、惚れ薬と透明になれるかもしれない薬も封印したからな。」
「あれ?花火の素は?」
「・・・あれは、まあ役立つかもしれないからな・・・」
「・・・・なにその黒い笑みは・・・・・」
読了ありがとうございました。
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ちなみにタイトルは某科学番組のタイトルをもじったものです。
雲の素のオチがなんだか微妙ですみません。
果たして花火の素を何に使うつもりなのか。
黒いデルレイでした。