3.カイガイ違い
行き先判明。の巻
『俺のアシスタントだ。ナナオ』デルレイの言葉に私は耳を疑った。
思わずアレンさんを見ると苦笑してうなずいている。
「えー、こんな失礼なヤツのアシスタントなんて出来ませんよう!!他に誰かいないんですか?」
思わずアレンさんに言うと、アレンさんも「すみません、ナナオ。あなたが一番の適任者なんですよ・・・」と電卓を取り出しなにやら数字を打った。
「あれの迷惑料も込みで、今後の給料はこれくらいにしますから・・・どうですか?」
と見せてきた数字は、今の給料の3割増し!!おまけに家賃もタダだし・・・・ううう。増えていく預金残高には勝てない。将来を考えたら、こういうヤツのアシスタントをして何かを得るってこともある。
アレンさんのところで働いた当初、本当に2割増しの給料なのかと、実は疑っていて給料日になったらまっさきに通帳を確認した。すると、言ったとおり2割増の給料が振込まれており、現在も金額に変わりはない。
「わかりました・・・アレンさんを信用して、デルレイのアシスタントを引き受けます」
「ありがとう、ナナオ。甥は扱いづらい性格ですが、悪いヤツではありませんので、ナナオならきっとこの仕事で何かを得ることができますよ」
「はい」
『叔父上、話は終わったんでしょうか?』といらいらした様子でデルレイがアレンさんに聞いてきた。
『終わったよ。ナナオは引き受けてくれるそうだ。デルレイ、よかったな』
『アレンさん、それで私、パスポートを更新しないといけないんですけど』
『パスポート?』
『はい。海外に行くならパスポートが必要ですから』
このとき、アレンさんとデルレイが顔を見合わせて黙ってしまった。
『叔父上・・・ナナオに出張場所を説明していないんですか?』
『しまった。日本でカイガイといえば海の外。違う国のことだった・・・・ナナオ』
私は二人の会話から、ちょっと嫌な予感を覚えた・・・・・ましゃか、そんなことがあるんだろうか。ファンタジー小説じゃあるまいし。
『ナナオ・・・出張場所と言うのは、海外ではなく、違う世界。異世界にあるブレドン王国なんです』
『はあ??』
『実は、クロスビー商会の仕事は貿易の他にクロスビー家が所有している、こちらとあちらをつなぐ“扉”の管理とクロスビー家がこちらで持っている財産管理があるのです。』
『はあ・・・』
『こちらの財産管理は、ナナオが書庫と倉庫でしっかりやってくれたので何の心配もなくなりました。ですが、王国のほうの書庫と倉庫の管理が・・・・デルレイ始め歴代の当主がさぼったせいでえらいことになっていまして。そちらをナナオに整理してきてほしいのです。やはり、異世界というのは、ダメでしょうか?でしたら、こちらの管理を引き続きやっていただいてもかまいませんよ?』
『断っても、クビにはならないってことですか』
『有能なナナオをクビになんてしません。ナナオを王国に持っていかれるのも本当はイヤなんですよ』
異世界かあ・・・32年生きてきてこんなことに遭遇するなんて思いもよらなかったよ。さっき、3割増しの給料で了承しちゃったしなあ・・・後だし情報が強烈だけども。
それに、異世界を見に行くチャンスなんてそうそうないし。実は、結構わくわくする。
『アレンさん。分かりました。私、王国に行きます・・・ただし、条件があります』
『なんでしょう?』
『私の携帯電話をアレンさんと常時つなげておいてほしいこと、私が頼んだものを届けて欲しいこと、勤務待遇を今と同じにしてもらうこと・・・それから、私が戻りたいと思ったときにはすぐ“扉”を開けてほしいのです』
『条件が多いな、ナナオ』デルレイが口を挟む。
『そちらの都合で異世界に行くんだから、これくらいは当然よ。』
アレンさんは、しばらく考えた後『わかりました。メールは無理ですが、通話はなんとかなるでしょう。充電の心配もいらないように設定もします。
こちらに戻りたいときは、ナナオ。私に電話をくれればいつでも扉を開けますよ。勤務待遇を同じにするのは当然ですね。その代わり、ナナオは1日1回、私に電話で業務報告をしてくださいね。』
『わかりました。出発はいつですか?それまでにこちらに引っ越してきます』
『1週間後に迎えに来る』デルレイが口を挟んだ。
『わかりました。アレンさん、今日の仕事が終わったら引越し準備に入ります。』
この年齢でファンタジー経験をするなんて。人生って驚きの連続だよ。
読了ありがとうございました。
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主人公は給料3割増し(デルレイの迷惑料込み)で異世界に行くことを自分で決断してます。
ちょっとトリップとは違うような気がして、タグに「トリップ」を入れておりません。