35.魔道士長のお屋敷で-その時デルレイは
33と34のデルレイ視点です。
ナナオが奥様と一緒に、というよりは連れ去られ俺とランス様が二人だけ残された。
「おや。オーガスタの実家から荷物なんて届いていたかなあ」とランス様が不思議がっているが、
俺にはわかる。この夫婦、始めからこのつもりだったに違いない。
「ランス様。とぼけるのは、その性格だけにしてくださいよ。」
「おまえ・・・・かわいくないねえ。昔は“ランス~。わらしとあそぶのだ~”とか言ってたのに」
「いつの話ですか。・・・・ナナオに聞かせたくない話ですか」
ランス様とオーガスタ様は、アレン叔父と幼なじみで俺が小さい頃はよく相手をしてもらったものだ。母上は病弱でふせっていたし父上は仕事第一で家にいなかったので、当時屋敷に滞在していた叔父が、俺の家庭教師であり遊び相手だったのである。
「デルレイさー、ナナオちゃんと市場でデートしただろ。」
俺は、お茶を噴きそうになった。市場で知り合いに会ってないのに、なぜ知ってる。
「ランス様、なんで・・・」
「なんでご存知かって?ふふん、秘密だ」なぜか胸を張るランス様。こういうのを見慣れていると、この人が“王国で怒らせてはいけない人第一位”とは思えないんだけど、事実なんだよなあ。
「デルレイ。お前の外面に群がっている社交界のお嬢様方にナナオの存在が知られつつある。中でもお前にとーっても執着しているお嬢様の家の者が市場でお前とナナオちゃんを見かけたらしくてねえ。そのお嬢様に報告がいってるかもしれん。」
「・・・私は、最近社交界なんて出ていませんよ」それより、ナナオと過ごしてるほうがずっと楽しい。
「ナナオちゃんにほれちゃったからって仕事が終わるとまっすぐ家に帰る、パーティには顔を出さない。お前は行動が極端すぎ。徐々にフェードアウトしていけばよかったのに」
「今、奥様がナナオに話してるのも同じようなことですか」
「さあね~。でも、オーガスタもナナオちゃんにそれとなく言うと思うけど。それで、デルレイ。お前、ナナオちゃんとこれからどうしたい。お前の言動によっちゃ、アレンに連絡とってナナオちゃんを迎えに来るように言うよ?」
ランス様は、仕事モードで俺を見る。ほんと、この人は切り替えが見事だ。この点はさすがだと思う。
これからどうしたいって・・・・ナナオの気持ちは知らないが、俺の気持ちは決まっている。
「私は、ナナオに側にいてほしい。妻にしたいと思っております」
「ナナオちゃんは、お前の気持ちを知ってんの?」
「さあ・・・・最近ようやく、私のことを雇い主ではなく男だと認識したようですが」
「てことは。お前の片思い?まじ?」
「なんですか。その“まじ”って」
「アレンに教わったナナオちゃんの世界の若者言葉。本当かどうか確認する意味だそうだ。今度、ナナオちゃんの前で使って驚かせようかな」
「ナナオとは会わせませんよ。何吹き込まれるかわかりませんから」
「ふん。おまえの留守中に家に行ってナナオちゃんを呼び出しちゃおうかね」
「・・・・わかりましたよ。ただし、事前に連絡してやってください。ナナオの仕事も邪魔しないでくださいよ」
それにしても・・・・お嬢様方に目をつけられてしまったナナオをますます一人で外出させるわけにいかなくなった。
ナナオに嫌がらせをするほど、俺に執着してる令嬢・・・・。それほど執着するような相手と付き合った覚えはないのだが。それとなく過去の相手の現状を探っておこうと俺は決めた。
「それにしても、お前が片思い。面白いなあ・・・とにかく、デルレイがナナオちゃんのことを真剣なのは分かったから、私とオーガスタは応援してやるよ。」
「なんですか、その上からの物言いは」
「だって。デルレイの上司だし。」そういって、うひひひと笑うランス様。
「・・・・ありがとうございます」
釈然としないけど、俺は素直に礼を言うことにした。
読了ありがとうございました。
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初のデルレイ視点です。
この話を書いている最中に、アレンさんと奥様の話に若かりし頃の魔道士長夫婦&ちびデルレイを絡ませて書くのも面白そうだな~と、ちらっと思ってしまいました。
書くとしたら、この連載が終わってからですけど・・・。