32.魔道士のやきもち
七生と魔道士長の挨拶。の巻
「おや。デルレイじゃないか。どうした?」
「どうしたじゃありませんよっ。ナナオに近づかないでくださいよ!そのうち、ナナオの都合がよくなったらそちらのお屋敷に連れて行きますから」デルレイが私の前に立った。
連れて行くことは、もう決定済みなのか、デルレイ。ま、私もオーガスタさんにはまたお会いしたいと思ってたから、いいか。
「きみの“そのうち”は善処しますと同義語だからな・・・ナナオさん。明日の都合はいかがですか?妻も、ぜひもう一度お会いしたいと家でずーっと言っているんですよ。」
「本当ですか?私もオーガスタさんにはまたお会いしたいと思ってたんです」
「そうですか。それでは」とランスさんがデルレイの隙を見て私の手をとった。
きょとんとする私にランスさんはにっこり笑うと、なんと私の指に軽く唇を触れたのである。
「~~~~~???!!!」びっくりして何も言えず固まる私と、ぎょっとするデルレイ。
ランスさんは涼しい顔で「アレンから教わったナナオさんの世界の挨拶ですよ。それでは、明日。うちから迎えを出しましょうか?」
私より早く立ち直ったデルレイが「私が一緒に行きますから、いいです」とランスさんに答えた。
ランスさんは「ナナオさんを一人では絶対に外に出さないって噂は本当のようだね。それでは、明日を楽しみにしてるよ」そういうと、移動魔法でランスさんは帰っていった。
「やれやれ・・・・ナナオ?」
「・・・あれが挨拶なんて・・・・いったい、どういう挨拶を教えてるんだ・・・アレンさん・・・・」
私は古い洋画とかロマンス小説、もしくは海外ドラマでしか見たことない挨拶をされて仰天していた。うわ~~~すげー経験しちゃったよ!!
またランスさんが、アレンさんみたいに渋いおじさまなのがポイントだ。一瞬くらっとしてしまった。
「デルレイ・・・ランスさんって・・・ああいう人なの?」
「仕事以外では、おちゃらけた人なんだよ・・・・ナナオ。なにぼーっとしてんだ?」
「へっ?いやー、あんな挨拶されたことないもんで驚いちゃって」
「ナナオの世界の挨拶と言っていたが」
「私のいた国では間違ってもないっ!!デルレイみたいな彫りの深い顔した人ばっかりの国なら、あるかもしれないけどさっ。でもぜんっぜん一般的じゃないよ。・・・でも、ちょっとラッキーかも」
「は?」デルレイが訳分からんという顔をする。
「だってさー、元の世界にいたら絶対に遭遇しない出来事が起こったわけでしょ?お~すごい経験しちゃった」
「・・・・俺は面白くない。ナナオ、手を貸せ」デルレイはそういうと、私の手をとり自分の手を重ねた。
「は?なにしてんのよ」なんだか手の重なってる部分が青く光ってるよ!!
「消毒。ナナオにさわれるのは俺だけにしたいのに。」
「はあ??」ちょっと待てデルレイ。ナナオにさわれるのは俺だけにしたいって何。私とアンタは恋人同士じゃないし。雇い主の魔道士と雇われ整理係だろう。
青い光が消えて、“消毒”が完了したらしい。
「・・・私とデルレイって恋人同士じゃないよね。」
「これから先のことはわからないだろう?」
「そりゃそうだけど・・・・なんか余計にくだびれたなあ。仕事に戻るよ。」
「そうだな。書庫まで送ってやる。明日はランス様の屋敷に行くことになったからな。まったく、強引な人だ・・・。それだけナナオを気に入ったってことか」
デルレイが当たり前のように、私の手をとった。なぜか手をつなぐのがデルレイのなかで当たり前になっているようだ。そして私もデルレイの手をほどく気には、なれなかった。
読了ありがとうございました。
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ちょっと補足:
魔道士長がアレンさんから聞いた挨拶は、アレンさんが冗談で教えたものです。この魔道士長は七生とデルレイのリアクションみたさにやらかしてます。