28.整理係の休前日
七生、デルレイとデート(?)の約束をする。の巻
そのカフェは旧市街と呼ばれる場所にあって、クリーム色の壁とこげ茶の窓枠と屋根という外観だった。私は思わず『モンブラン・・・』と日本語でつぶやいてしまった。
外見は全然違うのに、私のいた世界で売っている大好きなモンブランが食べたくなってしまった。いつもなら日本向けのサイズなんだけど(いちおうカロリーを気にするのよ)、全然食べられない今は、オリジナルサイズをがっつり食べたーい!!
『さすがにアレンさんに送ってくださいって言えないしなあ・・・生ものだし』
「・・・さっきから、何をぶつぶつ言っているんだ」
自分に分からない言葉で何事かをぶつぶつ言い始めた私が相当不気味だったのだろう。デルレイが恐る恐るという感じで声をかけてきた。
「え?あー、あっちの世界で美味しかったケーキを思い出してさ。」
「そうか・・・アレン叔父に送ってもらったらどうだ?」
「んー、生ものだからいいよ。あっちに帰ったときのお楽しみにする」
「・・・・そうか。ナナオは仕事が終われば戻ってしまうのだったな。」ちょっと寂しそうに見えるデルレイ。
なぜか、私はデルレイと二人でこのカフェに来ていた。
事の発端は昨日。休日の予定を聞かれたことに始まる。
エルシーや他のメイドさんたちに書いてもらった“王都食べ歩き地図”は市場に出る屋台からおしゃれなカフェまで書かれていて、私は次の休みにはこの地図をもとに食べ歩きをしようと決めていた。
エルシーにもらった地図を休憩時間にうきうきと眺めていたため、デルレイが書庫に来たことに気づかなかった。
「・・・・なにを見てるんだ?」
「うひゃあ!後ろからこっそり近づかないでよ!!デルレイ!!寿命が縮む!!」
「ナナオは長生きしそうだから大丈夫だ。それより、俺はちゃんとノックして入ってきたぞ。なにをそんなに夢中になってみてる?」
ちっ。見つかってしまったか。デルレイはどうも私を子供扱いしていて、一人で屋敷の外に出かけることを許してくれない。まあさ、“ナナオはすぐ、ふらふら出かけそうだ”というデルレイの分析はあながち間違っていない。もしかして、仕事を疎かにすると思われているのか?だとしたら、仕事面で信頼度を上げていくしかなさそうだ。
「エルシーたちに、王都食べ歩き地図を描いてもらったのよ。明日は私、休日だから地図を使って食べ歩きしようかと思って。」
「ほう・・・ちょっと見せてみろ」デルレイは私から地図を取り上げると、じーっと見ている。
「さすがに屋敷の者たちは詳しいな。食べ歩きとは楽しそうだ。誰を連れて行くのだ?」
「え?一人で行こうかなと・・・「だめだ」ちぇ。やっぱりデルレイにダメって言われちゃったよ。
「ナナオ。俺も明日は休みなんだ。偶然だな」
「へー、そうなの。偶然ね。」
「だから、俺がナナオの食べ歩きに付き合ってやる。手始めにここはどうだ?」デルレイは「ベルカフェ」と書いてある場所を指差した。
「ベルカフェ?そこはエルシーが絶対に行くべきです!と力説してたよ。よっぽど美味しいのね」
「宰相府のクラドック事務官を知ってるだろ?俺は、彼の弟と友達でな。弟はジュードと言うのだが、2年前に結婚してね。ジュードの奥さんがこのカフェを経営しているんだ。」
「へー、そうなの」デルレイの友達・・・ヒースさんみたいにまた恋人(ジュードさんの場合は妻か)溺愛の強烈なタイプなんだろうか。
「おごってやるから、一人で外に出るなよ」
「えー、自分で払うから一人で行きたい」
「俺と一緒に行くのは嫌なのか」
「嫌じゃないけどさー」
「じゃあ、一緒に行くのは決定だ。いいな、ナナオ」
そしてきっとその次には「当主命令だ」って言うんだ。デルレイは。
「当主命令だ」
・・・・やっぱり。それで私が断ると、ヴェラさんやエルシーが悲しそうな顔をするんだ。どんだけ屋敷の人間の忠誠心を集めてるんだ、コイツ。
こーなったら、とことんおごらせてやる。
「わかったわよ。おごってもらって、いっぱい食べてやる」
デルレイが「よし」と言って、なんだか嬉しそうだった。
読了ありがとうございました。
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七生が言っていたモンブランは、都内某所で売っているモンブランです。
書いてて食べたくなってきた・・・。