18.話題のお店
ガラスの花とご対面。の巻
次の日の朝、部屋に食事を持ってきてくれたエルシーに私はガラスの花の話を知っているか聞いてみた。
「ええ。知っています。王都では有名ですよ。恋愛成就のお守りとしてガラスで作られた花の置物も売られているんです」
「へ?だって、花を誰も見たことがないんでしょう?」
「はい。お店で自分が欲しい花言葉を持つ花の置物を買うんですよ。」
「はー、なるほど。それじゃデルレイは知らないはずよね。」
「そうですね。男の人は知らない人がほとんどだと思います。」
なるほど、女の子の間で流行る「おまじないグッズ」的なものなのね。
「エルシーも、花の置物を購入したりした?」
エルシーはちょっと赤くなって、「10代の頃はお小遣いためて買いました。」と恥ずかしそうに言った。
「私も置物じゃないけどさ10代前半の頃は好きな男の子に会えますようにとか、おまじないはしたわよ。消しゴムに好きな男の子名前を書いて、誰にも使われないように使い切れば両思いになれるっておまじないが流行ったっけ。」
「まあっ。で、どうだったんですか?」
「好きな男の子に消しゴム貸してって言われて、貸せなかったら「ケチ」って言われてさ。家で泣いたわ~」
「そういうことって、ありますよね・・・。」
私もエルシーも思わずしみじみとなってしまった。
「そうそう。ナナオさん。ガラスの花といえば、クレヴィング商会という老舗の観葉植物専門店があるんですけど、そこの王都第二支店で本物のガラスの花というのを展示してるんですよ。見学者が押しかけているそうです。」
「えー、なにそれ。」それは見てみたい。見たいぞお!!
クレヴィング商会の王都第二支店(以下:第二支店)は若い女の子が行列を作っていた。
「うわー。なんか入りづらいね」思わずぼやいてしまう。
「ナナオが入りづらいのでは、俺なんかますます無理だ。」隣でデルレイが、同じようにぼやいた。
エルシーから聞いて俄然「ガラスの花」を見たくなった私は、当初エルシーを誘って見に行こうと思っていた。ところが、何を間違ったかデルレイと出かけるはめになってしまったのだ。
「それにしても、どうしてデルレイと出かけるはめに・・・」
「不服なのか。」
「いえいえ。滅相もない。クロスビー家の当主で有名な魔道士様と出かけられる私は幸せですわ」
「・・・・ナナオの丁寧口調は腹黒さの極致だな」
「デルレイの丁寧口調といい勝負だと思うわ」
それにしても第二支店なのに、ガラスの花以外は申し訳程度の観葉植物しかない。しかも専門店のくせに植物の手入れを怠っているようだ。エルシーが言うように「第二支店が潰れないのは、会長の身内だからということと王都第一支店が大繁盛してるから」なんだろうな。
それでもこんだけ手入れを怠ってるなら本店に報告が言って、誰か来ないと変だと思うけど・・・。
私たちは行列に混ざり女の子たちの“なにこの場違いな人たち”という視線を浴びながら、ガラスの花が飾ってあるショーケースにたどり着く。
そこで見た「ガラスの花」は薄緑色をして丸くふくらんだものだった。たしかにふくらんだ部分が透明で、硬そうに見えるけど。
“あなたがガラスの花?”ためしに意思の疎通を試みる。
“ガラスなんてとんでもない。私はちゃんとした植物です。私は西の砂漠で仲間たちと咲いていたのに、いきなりこんなところに連れてこられてしまったんです。帰りたいです。”花が答えた。
私はデルレイの耳元にささやいた。
「デルレイ。これはガラスの花じゃないよ。西の砂漠地方に生えてる植物だよ。本人がそう言ってる」
「それじゃ、詐欺か。」
「お金とってないから、ちょっと違うと思うけどね。本店のトップの人は知ってるのかな。知らないでいるとしたら、ばれたらお店が大変だよ。」
「クレヴィング商会の会長はフローラ・クレヴィングと言って、やり手で有名だが・・・そういえば、フローラがこれだけの騒ぎになっても顔を出さないのは変だな。」
「来てるわよ。」私たちの後ろから声がした。
私たちが振り向くと、そこには帽子を深くかぶって顔を隠した女性が立っている。
「お久しぶり、デルレイ。ちょっと理由があって、この支店の者には黙ってこちらに来ているの。事情を話したいから、ここから出ない?」そう言って帽子をちょっとだけあげて微笑んだのは、えんじ色の瞳のそりゃあゴージャスな美女だった。そのままでボンドガールがいけまっせ!!と私は思わず心の中でつぶやいてしまった。
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新キャラ登場です。
今回は七生は自分でやらかすというより、巻き込まれます。