閑話:意思の疎通をしてみよう
七生の実践編。の巻
植物系の魔法が発覚してしまった私は戸惑いながらも、さっそく本当に意思の疎通ができるのか試したくもなった。
例えば、私の部屋でいい香りを漂わせているアマロ。デルレイから借りた<植物系魔法大全>によれば、対象植物を見て呼びかければいいだけらしい。 <大全>によると、植物系魔法は植物との意思疎通と、植物を育てる腕の向上以外にないという実に平和な魔法で(だから本がうすいらしい)、密かに長い呪文や厳しい修行が必要なのかとドキドキしていた私は安心しつつも拍子抜けしたのだった。
部屋に戻って、ほろ酔いかげんでアマロをじっと見る。
「呼びかけるったって、フツーに“こんにちは~”とかでいいのかな。ねえ?」
アマロは何にも変わった様子はない・・・・・と思ったら、なんと私の頭のなかに“こんばんは。きょうのかえりはおそかったですね”と声が響いてきたのである。
「????」幻聴?一瞬自分の頭がどうかしちゃったのかと思ったけど、アマロが風もないのに葉をさわさわさせていた。もしかして、さっきの声はアマロなのかな?
そこでアマロを見て“さっき、こんばんはって言った?”と念じてみた。
アマロはまた葉をさわさわさせて“わあ~、つうじましたよ。そうです、わたしです。ナナオ”と今度は弾んだ声が響いてきた。
“なるほど、しゃべらないで念を送る感じなのね。よかった~、怪しい女にならずにすむよ”
“わたし、ずっとナナオにはなしかけてましたです。これでおれいがいえますう。ナナオ、えらんでくれてありがとうです~”アマロがまたさわさわと葉を揺らす。
次の日から、私とアマロは本格的に意志の疎通をしはじめた。
どうやら私の育てているアマロは、気持ちが高まってくると勝手に葉を揺らすらしい。教えてないのに(普通教えないが)どこで覚えた、アマロ。
“私がいないときにそんな芸当を見せてないでしょうね。エルシーが見た日には腰ぬかすからやめてよね”
“しませんよ~。しんようしてください。ねえねえナナオはすきなひといないの?”
さらに、ガールズトークのように恋バナも好む。女の子なのかと思いきや、本人いわく“せいべつはよくわからないけど、まりょくをもっているひとにえいきょうされるです”だそうだ。
“好きな人?いないよ”
“ここのとうしゅは?けっこうはんさむじゃないですか”
“デルレイ?確かにハンサムだね。”
“しょくぶつはひとをみるめがあるですよ。ここのとうしゅはけっこうおすすめです”
“うーん、最初は残念なヤツだと思ったけど、まあ・・・悪い人じゃないよね。”
“わるいひとじゃないって、けっこうだいじー。”
アマロと意思の疎通をしてると、もとの世界で女友達としゃべってるみたいな気分になってくる。
「植物と意思の疎通をする訓練はしているのか?」数日後、デルレイに誘われて二人で晩酌。
今日のお酒は王国のお酒で、びっくりするくらい鮮やかなエメラルドグリーン。
最初は躊躇したが、覚悟を決めて飲んだらとってもフルーティーで美味しい。ドルカという果物からできたお酒だそうだ。グレープフルーツみたいな味がしてうまい。
「してるよ。今や、私と部屋のアマロは熱く話し込む仲だよ」
「何を話してるんだ?」
「いろいろ。あ、アマロはデルレイをほめてたよ。ハンサムで悪い人じゃないってさ。よかったね~」
「・・・ナナオは、どう思う?」
「は。」
「俺のこと、どう思う?」
「そうねえ・・・。最初会ったときは残念なヤツだなあって思ったけど、今はいい人だと思ってるよ」
多少の傲慢さにはこの際、目をつぶってやるさ。このお酒に免じて。
「そうか、いい人か。・・・・やっとここまできたか」とデルレイが嬉しそうにつぶやいていたらしいけど、私は聞いていなかった。
読了ありがとうございました。
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閑話としてアマロとの初対話(?)を書いてみました。
ついでに、七生とデルレイの晩酌も。
進展してるんだかしてないんだか、全くわからない二人なのでした。