プロローグ:それは1年前でした
私は桜木 七生。31歳で独身、一人暮らし。恋愛は何度かしたけど今は彼氏なし。・・・・結婚も予定なし。製薬会社で管理部門の事務職として早11年。給料も待遇も悪くない。人間関係も円滑・・・・だったんだけど。上司の度重なるセクハラおよびセクハラ発言に嫌気がさして会社を辞めました。
ま、辞めるときに上司のセクハラの証拠をばっちり労働局と人事につきつけて上司が免職処分を受けたと同期から聞いてすっきりできたからいいけどさ。
仕事を辞めたので、実家に帰るというのも、一瞬考えたけど・・・よくよく考えたら今うちの実家は同居している弟夫婦に子供が生まれて孫フィーバー真っ最中。おかげで母親の「まだ結婚しないの」攻撃をまぬがれているというのに無職になった姉が転がり込むのって非常によろしくない。
私は実家に帰るという考えを捨てて、ハローワークに向かうことにした。派遣会社に登録しておくのもいいかもしれない。ネットの求人サイトにも登録だな。
ハローワークの中に入ろうとしたところ「ちょっと、すみません」と後ろから声をかけられた。振り向くと、シルバーグレイの髪の毛に緑色の瞳で彫りが深くどうみても外国人の男性だった。
周りをきょろきょろしてみるけど、私以外に人がいない。私は自分を指差して「私?」と示すと、その男性は何度もうなずいていた。
「あなた、職を探していますね?」男の人はいきなりなめらかな日本語で私に言った。
「はあ・・・まあ、探してますけど」なんじゃ、この外人は。
「じゃあ、私のアシスタントとして働いてみませんか?」
「はあ?」
「失礼しました。私、アレン・クロスビーと言って、職業は・・・まあ、貿易業です。『クロスビー商会』という会社を経営してます。」
「はあ。」どうして、貿易業というまえに一瞬考えたんだろう。
「あなたのお名前を教えていただけますか?」
「あ、失礼しました。私は桜木七生です。」思わず正直に名乗ってしまった。
「サクラギさん。ここで立ち話もなんですから、もし時間があったら私のオフィスで話の続きをしませんか?待遇なども、詳しく話せます。この近くですから。」
“クロスビー商会”のオフィスというのは、クロスビーさんの住宅だった。たくさんの樹木が生い茂る大きな洋館で、クロスビーの表札のしたにクロスビー商会という表札もついている。
「奥さんを亡くしまして、家政婦さんを頼んでいますが、乱雑ですみません」と言うが、とても整然としている。
クロスビーさんが入れてくれた紅茶を飲みながら(これがまた美味しい)、私はクロスビーさんの話を聞いた。
「仕事内容というのは、私の仕事のアシスタントです。メールや電話のやりとりと、品物の管理です。それから、ちょっと言語を覚えてもらいます。OK?」
「言語、ですか?」
「はい。ブリードン語と言って、うちの貿易に必要な言語です。他では役にたちませんが、私の仕事には大変役立ちます。待遇なのですが、会社で各種保険と年金には加入します。勤務時間は朝9時からと決まっていますが、仕事によって終わる時間はまちまちです。お休みは週休2日ですが、事前に言っていただければ何曜日に休んでいただいてもいいです。病気とかの場合は私に電話してくれればいいです。」
言語を覚えなくちゃいけないのは大変だし、勤務時間が不定期だけど待遇は悪くない。
「あと・・・言語を覚えた後、ちょっとした出張に行ってもらうかもしれないです。大丈夫ですか?」
「どこにですか?」
「えーっと、カイガイ?ですね」
おお、海外出張か。事務職の頃には縁がなかった。なんか楽しそう。
「あ。そうそう給料なんですが各種手当てを差し引いて・・・・こんな感じです」と言ってクロスビーさんが提示した金額は、なんと前の会社の給料より2割増し!!私は思わず目を見張った。
「給料は“クロスビー商会”名義で振込みになります。なにか質問はありますか?」
「他の社員の方というのはいらっしゃいますか?」
「いいえ。私一人ですね。お金関係は全部お願いしてますから。書類を提出するだけなので楽です。」クロスビーさんは、その人のことを全面的に信頼してるらしい。
クロスビーさん本人も最初は胡散臭かったけど、話を聞いてるとマトモな人そうだし、何より新しい言語を覚えられたり(他では使えないらしいけど)、海外出張があるかもっていうのもいい・・・そして何より、あの手取りの金額。判で押したような前の仕事内容とは違いなんだか楽しそうだ。
私は、クロスビーさんの申し出を受けることにした。
クロスビーさんはうれしそうに「ありがとうありがとう」と何度もお礼を私に言った。
そんな、お礼を言われるようなこと、私しただろうか?
とりあえず、あっさり次の就職先が見つかったのはよかったかもしれない。
読了ありがとうございました。
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新作をUPしました。
現代物はお休みして、ファンタジー(と言えるのか)を書くことにしました。
アラサー七生の異世界生活を楽しんでいただけると幸いです。