序章《なんて―――理不尽》
この小説に登場する人物名、団体名、術名など万が一当てはまったとしても一切関係がございません。
以上の点をご理解の上、読んでくださるよう、お願いします。
狐の嫁入り、という言葉は誰でも聞いたことがあるはずだ。
誰でも一度はどこかで聞いた単語だと思う。
もちろん、この言葉をいきなり引き合いに出したのには意味がある。
それは俺の現状況に直接関係があるからだ。
さて、俺の現状を簡単に説明するなら、引き摺られている途中だ。
ただ引き摺られているわけじゃなじゃなくて、体は縄でぐるぐる巻きだし、両手だって塞がれている。
どうしてこうなったのか……話せば長い。
主に俺の愚痴が長い。
どうやったってこの状態は理不尽だからだ。
それでも短く、俺が何をした、と訊かれれば、一つしか答える事はできないな。
コンビニでガムのガチャガチャを回した。
そう、コンビニのガチャガチャだ。正式名称はわからないが、あの十円入れると色とりどりのガムが一個落ちてくるヤツ。
それを回しただけだ、財布にあった一枚しかない十円玉を使って。
結果がこれ……といきなりここまで飛躍はしない。
最初は森の中にいたんだ。
ガチャガチャを回して、何色のガムが出てくるのか年甲斐も無くワクワクしていたらいきなり、だ。
「結局ガムの色は何色だったんだろうか」
つい出てきてしまう言葉はそればかり。
気になるのもそればかりだ。
だって、楽しみにしてたんだ。
久しぶりに回したガチャガチャの結果が、なんとなく緑だったら嬉しい……意味は特にないけど。
ついでに、それを確かめる方法ももうないけど。
そして冒頭に戻ろう。
そう狐の嫁入りだ。
実際には狐の嫁入りというか婿入りというか、よくわからないものに巻き込まれている現状。
最初は耳と尻尾生やしたコスプレさんがいるなー、程度の考えだったのに、気がつけば俺の尻にも同じようなの生えてた……すぐ消えたけど。
しかも、俺を視認した瞬間に飛びかかられる始末。
そのままお縄状態にされて、引き摺り回されている。
なんでも、俺を婿入りだか、嫁を口説き落としに行けだか、ということらしいが、詳しいことはよくわからん。
ちなみに、俺をぐるぐるにしてるこの縄は逃げないようにするための縄らしい。
「別に逃げねーよ」と言っても聞いてくれない、むしろ俺の話を聞いてくれる気配がない。
愚痴を零したくなる口を閉じながら、なんとなしに、空、というか空は見えないから上の葉っぱを見上げる。
実に青々としているし、どう考えても俺のいた街じゃない。
わかりきってはいたが、こんな森が俺の家の近くにあるはずがない。
「じゃあどこだろうなぁ」
呟けば、気がつく感覚、あぁ―――ケツが痛い。
さっきから擦れる以外にも石にぶつかったり、小枝が刺さるような感覚がある。
このままじゃ穴が二つに増えてしまうか痔になる。
なったことないけど、あれは痛そうだ。
血が出るんだから痛くないはずがない。
となれば、だ。
俺が取る方法は一つ。
全速力で俺を引きずり回す狐っ子をどうにかするしかない。
具体的な方法は思い浮かんでないけど、このままでは俺のケツが大惨事になってしまうことは確定事項だ。
「わっ!」
というわけで具体案も何も浮かばなかったのでとりあえず両足で立ち上がってみた。
逆走になってるのはかなり怖い。
主に転けそうで怖い。
「てかいたぁ!」
むしろ転けた。
そりゃそうだ、全速力で走っている人間の速度で逆走出来るわけがないんだから当然の結果とも言える。
また引き摺られ直す俺。
そして少々驚いた声を上げたけどそのまま気にせず走る狐っ子。
どうやら俺のケツは終焉を迎えるようだ。
と、覚悟を決めていれば、不意にキキッっと移動が止まった。
なんという天の助け、そして僥倖。
神は俺を見捨ててはいなかった。
「恋様、気づいておられますか?」
「あぁ」
気づいてるよ、俺のケツを心配して止まってくれたんだろう?実に感謝してるよ……だから縄も解いてくれると非常に嬉しいぞ。
でももう少しだけ早く止まって欲しかったかな……ひりひりする。
「先ほどからずっと同じ場所を回されています。
どうやら孤術のようですね」
コジュツ?イマイチわからない単語に俺の頭が瞬時にクラッシュ。
そういえばこの子の名前はなんだろうかと今更考え始める始末。
てか、え?俺のケツ心配して止まってくれたんじゃないの?
「中々上質な術式のようですね……私では解くのに少々時間がかかりそうです」
術式、ということはこう、エロイムエッサイムエロイムエッサイムみたいな魔術みたいなもんかな?それともゲームの便利魔法、みたいな?
考えてもよくわからん、ということで放っておくとしよう。
時間がかかるだけでそれは別に解けるらしいし、問題もないだろう。
「ん?」
そうしてちょっと出来た時間を利用して、辺りを見回して見れば木々を分けた所に見えるのは町?遠目からだからちょっとわからないけど多分町だ。
「捜し物はあれか?」
指を差してみても、首を傾げるだけで返事をしない狐っ子。
思ったよりも眼はよくないみたいだな狐っ子。後で眼鏡を買ってやろう。
でも、この世界にというか狐に眼鏡って概念があるのか?しかも人間の金が使えるかもわからない。
財布を確認すべく、着物の中をあさってみて、疑問に思った。
てか、着物?俺着物みたいなのって今まで夏祭りの浴衣か夏の甚平しか着た事ないぞ。
しかもコンビニには就活真っ只中、つまりスーツだったってわけで、こんな服じゃない。
そんなわけで、更に財布をさがすようにもぞもぞと動いて、案外簡単に縄から抜ける。
なんか手順を踏めば簡単に抜けられたっぽい。
「ほれ行くぞ狐っ子。
目的はあそこだろ?」
「狐っ子じゃなくて静です!
もう、いつも忘れたふりするのはやめてください!」
「それは悪かったな、狐っ子」
狐っ子改め、静がご丁寧に名前を説明してくれる。こっちからすると凄い助かるからいいけどね。
っとそんなことよりも町だ町。いつまでもこんな森の中にいても仕方ない。
「ん?」
バチンと右耳を劈く音。少し緊張しながらすぐ隣の木を見て見れば、そこにはなんかバチバチと燃えるお札の姿が……!
ナニコレコワイ。
発火式トラップか何かですか?え?もしかしてこの木に手ついたりしてたら俺焼けてた?上手に焼けてたのか?恐るべし狐世界。
兎に角、進もう。町はすぐそこだし、木に手を付かないようにしつつ、足元に気をつけながら慎重に。
ヘタレ?上等じゃないか。ヘタレ程度で火傷を事前回避出来るなら安いもんだ。
そうして俺は、結局よくわからないまま町に向かって足を動かした―――